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黒い悪魔 リリス・ミストレス

私の特技は、豹人族ならではの素早い動きと、しなやかに相手の攻撃をかわす身のこなしや。まるで風のように無音で動き、敵の懐に滑り込むことができる。その動きは鋭く、周囲からは一瞬の影にしか見えんくらいや。どんなに過酷な訓練でも、この素早さだけは誰にも負けへんと思ってる


訓練の場で、私はじっと相手を見据え、集中を研ぎ澄ませた。呼吸を整え、全身の力を抜くと、体が自然と軽くなり、まるで風に溶け込むような感覚に包まれる。相手の一瞬の動きを捉えると、私は即座に低い姿勢で身を沈め、しなやかに動き出す。


まるで地を這うように四足で駆け出し、一瞬で敵の懐に入り込む。その動きには、一切の無駄がなかった。相手がこちらに武器を振り下ろしてくるが、私は豹人族特有の素早い動きで滑るようにその攻撃を避け、すれ違いざまにわずかに体をひねるだけで、相手の腕の先を過ぎ去った。


攻撃が空を切る音が耳元で聞こえた瞬間、私はすでに相手の背後に回り込んでいた。その場に微かな風が残るだけで、相手は私の動きについていけず、驚きの表情を浮かべて振り返る。


次の瞬間、再び地面を蹴って素早く後ろへ跳び、距離を取る。まるで自分の体が本能で動くように、無駄のない動きで攻撃と回避を繰り返す。攻撃が飛んでくるたび、私はしなやかに身をかわし、鋭く地を蹴って次の瞬間には別の位置に移動している。豹のような足の強さと柔軟さが、私の体を自由自在に操る力を与えてくれていた。


風を切るその瞬間、自分が何にも縛られていないことを感じる。私の特技は、ただ速さだけではない。しなやかに、まるで踊るように軽やかで、自由な動き。それが私の誇りやった。


ジグルドは私とレオンの2人を直接指導する事となった



ジグルドの指導は、これまでのどの訓練とも比べものにならないほど過酷で、冷酷なものやった。彼の目は常に冷たく、私たちがわずかでも気を抜けば、即座に切り捨てるという無情さが漂っていた。私とレオンはその厳しい視線を受け止めながら、ひたすら彼の動きを見極め、教えに従っていく。


「まずは身体強化だ」


ジグルドの指示に従い、私たちはその場に立ち、魔力を自らの体に流し込む練習を始めた。身体強化はただ筋力や速度を上げるだけでなく、肉体そのものを鋼のように強化する技術や。ジグルドはそれを体現するかのように、無駄のない動きで私たちに示して見せた。


「力を体全体に行き渡らせる。局所に偏らせるな、体中に均等に巡らせろ」と、ジグルドは静かに言った。


私たちはその言葉を理解するのに苦労したが、少しずつ体に魔力を馴染ませ、腕や脚、体幹に力が流れる感覚を掴もうとした。最初はその流れが乱れて、体が重くなったり、逆にバランスを崩して転んだりする。けれど、ジグルドの容赦ない指導のもと、何度も繰り返し挑戦するうちに、次第に魔力が体全体に流れる感覚をつかみ始めた。


「次は獣人特有の技だ。足に魔力を乗せろ」


ジグルドの声が鋭く響いた。彼の言葉に従い、今度は足元に魔力を集中させる。足の筋肉に魔力を注ぎ、瞬間的に爆発的な力を引き出す技やった。その感覚は、ただ走るだけとは違い、まるで自分の体が影に溶け込むような軽さと鋭さを持つ。ジグルドの指示通りに魔力を練り込むと、足元が一瞬で鋭く地を蹴り、影のように滑らかに動けるようになる。


「無駄な動きをするな。集中を切らすな、動きの一つひとつが命に関わる」


ジグルドは私たちの動きに目を光らせ、少しでも乱れれば容赦なく訂正を入れてくる。魔力を足に乗せて動くと、その速度と軽さが増して、まるで影から影に瞬時に移動しているような錯覚に陥る。ジグルドの冷たい目は、そのすべてを見透かすように私たちを見つめ、時には無言で、時には言葉で容赦ない指摘を投げかけた。


その訓練は、気を抜けば命に関わる緊張感が常に漂っていた。ジグルドは決して私たちに手加減せず、真剣勝負のように接してきた。私もレオンも、その厳しさに耐えながら必死に技を体に刻み込んでいった。身体を強化し、影から影へと移動する獣人の技――それを極めたとき、私たちはどんな相手でも背後に立ち、制圧する力を手に入れられると



ついにその瞬間が訪れた。


私は呼吸を整え、体中の魔力を足に集め、地面を蹴った。その瞬間、まるで自分の体が空気に溶け込み、影そのものになったように感じた。視界が揺らめき、気がついたときには、目の前にいた相手の背後に、音もなく立っていた。


周りは呆然としていた。訓練生たちも、教官たちも、誰一人として私の動きを目で追えなかった。彼らの驚きの表情が一瞬遅れて見えてくる。その顔に映るのは、圧倒的な力に対する畏怖と恐れだった。


何度もこの技を試した。影から影へと一瞬で移動する感覚が、もはや体に染みつき、意識せずとも自在に操れるようになっていた。冷たい石造りの訓練場を滑るように駆け抜け、私の姿が見えたときにはすでに敵の背後にいる。その瞬間の心地よさ、私がただの訓練生から「黒い影」になった瞬間の手応えが、胸の奥で強く鼓動していた。


何度繰り返しても、施設にいる誰一人として私には勝てなかった。まるで全員が立ちすくむように、私の動きに圧倒されている。そのとき、私は初めて「力を持つ」ということの意味を知った。これまで味わったことのない優越感が、体の奥底から湧き上がってくるのを感じる。


「私が――私が一番強いんや」


その思いが頭の中に響くたび、これまでの過酷な日々の苦しさが一瞬で霞んでいく。私は「黒い影」として、誰にも見えない存在であり、誰も手を届かせることができない存在になった。


ついに、私はその力を手に入れた。そして、その瞬間から私には新たな名前が与えられた。


施設での訓練が終わり、私が影のように移動し、一瞬で敵の背後に立つたびに、周りの訓練生たちは恐れを含んだ視線を向けてくる。その顔には驚きと畏怖が交錯し、やがて誰もが私のことをこう呼び始めた。


「黒い悪魔」と。


この名前が与えられたとき、私はその力を持つことの意味をさらに強く感じた。自分が「黒い影」となり、誰の目にも映らぬ存在、誰にも手出しのできない存在として、恐れられることが力を持つ意味だと初めて知った。その優越感が私の胸に強く刻まれ、心の奥で静かに、確かな自信へと変わっていった。

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