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第一話 それでも時は過ぎてゆく

部屋の中を、携帯のアラームがこだまする。

「うるさい…。」

俺は携帯に手を伸ばし、アラームをとめる。

重たい瞼を擦りながらあくびをし、夢のことを思い出す。

高校2年生の時に付き合ってた、彼女と星を見に行った時の夢。

あれから、数年が経ち、俺も大学3年生になったというのに、いまだに夢に見る。

「未練がましいな…。」

俺は独り言を呟き、身支度を整える。

彼女に振られた訳ではない。

突然いなくなってしまったのだ。

夏休み明けの登校日学校に行くと、彼女の姿は無かった。

担任の口から彼女が海外に転校したことを聞かされた。

俺は何も知らなかった。

何も知らされていなかった。

その後、彼女とは連絡が取れなくなった。

前日まで取れていたのに。

彼女と来年も一緒に星を見ると約束していたのに。

それを果たすことは出来なかった。

その事を引きずってか、俺は大学で天文サークルに所属している。

星を見ることが、好きな訳ではない。

ただ、なんとなく所属しているのだ。

そんなことを考えながら、大学に向かっていると後ろから声をかけられた。

「先輩!おはようございます!」

「あぁ、おはよう。」

俺は振り向かずに挨拶する。

「なっ!ちゃんと顔見て挨拶しましょうよー!」

「朝から、お前と面と向かって話すると、胃もたれすんだわ。」

「ひどい!」

そんなやりとりをしていると、彼女は俺の前側にまわってきた。

「お・は・よ・う・ご・ざ・い・ま・す!!」

「はいはい。おはような。」

この、朝からやかましい奴は碧海結月あおみゆつきといって、同じ大学かつサークルの後輩である。

「もー、いつも適当ですねー!そんなんだから彼女できないんですよー。」

「余計なお世話だし、そもそも俺は欲してない。」

「強がんなくていいですよ~。あっ、なら私がなってあげましょうか〜?」

結月がニヤニヤしながら俺の方見てくる。

「チェンジで。」

俺はムカついたので、真顔でそう言い、早足でその場を立ち去ろうとした。

「ひどい!!あっ、待ってくださいよー!」

結月はめげずに俺に着いてきた。

朝から大量のカロリーを消費しつつも、なんとか大学にたどり着くことができた。

いくら徒歩圏内とはいえ20分以上歩くと疲れる。

おまけにめんどくさい奴が近くに住んでいるせいで、余計に疲れる。

「今日も朝からラブラブでしたね。」

いきなり肩をポンと叩かれたので、声の主の方を向く。

そこには、大学で知り合い、唯一の友達と言っても過言ではない、金木彗斗かねきけいとが立っていた。

「冗談きついて…。」

俺は苦虫を噛み潰したような顔で答える。

「そんな嫌そうな顔するなよ。結月ちゃん可愛いじゃないか。」

「まあ、顔だけはいいよな。」

「顔だけじゃなくて、性格も明るくていい子だから、すごくモテるんだぞ。うかうかしてると他の奴に取られるぞ?」

「別に結月はただの後輩だから俺には関係ない。それに、あいつだって俺に好意なんて微塵もないだろ。」

「お前本当に鈍感だな…。それとも気付かないフリをしてるのか…。」

彗斗はすごく呆れた顔をしている。

確かに、結月は顔も良いし、すごく面白くて一緒にいて楽しい。

結月自身も男性にそんなに絡むキャラではなく、俺にだけ絡んでくるので、他の奴よりは好意的に思ってくれているのかもしれない。

しかし、俺はその先の関係に興味がないのだ。

結月とは良い先輩・後輩の関係でいたい。

「お前、まさか、まだ、高校の時に振られた元カノのこと引きずってるのか??」

「引きずってない。そもそも、振られてない。」

「お前な。なんの連絡もなしに転校して、その後、音信不通になったら、振られたのと同義なんだよ。」

「そんなのわかってるよ…。」

俺は彗斗に正論をぶつけられ、顔を引き攣らせる。

「はぁ。その子がお前にとってかけがえのない存在だったかもしれないけどな、もう何年も経ってるんだよ。これからも、時は過ぎてゆく訳で、気付いたらジジイになってるぞ。」

「だから、わかってるって…。」

彗斗の言う事は正しい。

でも、そう簡単に割り切れるほど、人の心は単純ではない。

こっちは、何年間も拗らせてきたのだ。

一筋縄ではいかない。

「いい加減、結月ちゃんのこと真剣に考えてやれよ。」

「そもそも。結月は俺に対してそういう感情は抱いてないだろ。」

「抱いてたらどうするんだよ。」

彗斗が何故か食い気味で聞いてくる。

「その時に考えるよ。」

「言ったな。」

「あぁ、言ったよ。」

俺はこの時、物事をしっかり考えずに返答したことによって、大きく人間関係が動くことを知る由も無かったのである。



読んでいただきありがとうございます。


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