第四十五話 斑会
部屋にはスマホで誰かと通話している間鳥明が立っていた。
「こっちは失敗だ。負けちまった。」
自身の手をひらたいにのっける。
『あの亜久津が負けたのか。』
スマホから聞こえてくる声は若い男のものであった。
「そうだ。川名組のギャンブラーがあそこまでやるとは思いもしなかった。」
『そんなにか。それで、そのギャンブラーの名前は何て言うんだ。』
「知らないのか?」
『亜久津に殺されると思っていたヤツの名前なんて覚えていないからな。』
「阿黒賢一だ。」
『阿黒賢一。覚えておくとしよう。』
「それで、そっちはどうなんだ。」
『あぁ、こっちか……』
◆
間鳥明と亜久津成義が行動を起こす時まで時間は遡る。
斑会。それは、1年前にできたまだまだ若い裏組織である。
そんな斑会は山梨県上野原市に建っている4階建てのビルに本拠地をかまえていて、ビルの4階には会長室がある。
会長室には1人の男が椅子に腰掛けていた。その男はスーツをきていて、長髪の髪を後ろでまとめ、丸眼鏡をかけていた。
「そろそろ間鳥も行動を起こす時間か。」
スーツの袖をすこし上げ、腕時計を確認する。
「俺も動くか。」
机の上に置いていたスマホを手に取り、電源を入れ、スマホのロックを外し、電話帳を開く。
電話帳の中にある『パチンコ狂い』という名前をタップし、電話をかける。
◆
「クソがっ。」
ガンッ。
公園に設置してあるゴミ箱を足で思いっきり蹴飛ばす男がいる。
「絶対確率いじってだろ。あの店!!」
その男は金髪でジャケットを身にまとっており、傍から見てもわかるほどに怒りに燃えていた。
「あぁ。イラつくなぁ。あのクソパチンコ店。もう絶対に行かねぇ。」
どうやらその男はパチンコで大負けしたようであった。
「なけなしの金だったんだぞ。どうしてくれんだよ。」
誰もいない公園で物にあたるだけでは怒りはおさまらず、大空に向かって叫び声をあげた。
その時、ジャケットのポケットにしまっていたスマホからパチンコの当たり音が鳴り響く。
「誰だ!?」
ポケットからスマホを取り出すと、そこには『宇都宮冬司と映されていた。
それを見た男は顔に笑みをうかべる。
ピッ。
『動くぞ鞍馬。』
電話に出た瞬間に斑会会長宇都宮冬司が電話越しでそう言った。
「やっとか。それで、いつも通り金は貰えるんだろうな。」
『あぁ。勝てばな。』
それを聞いた鞍馬はガッツポーズをして喜ぶ。
『というか、お前、前回の金はもうパチンコでとかしたのか?』
「そうだよ。あのクソパチンコ店さえなければ今頃金に困ってなかったのによ。」
その声には怒気がこもっていた。
『お前は人とのギャンブルは強のにパチンコだけは弱いよな。』
「俺が弱いんじゃねぇよ。クソ店どもが確率を操作して、勝たせないようにしてるんだよ。クソが!!」
ガンッ。
鞍馬は再びゴミ箱を蹴る。
『お前は一体なんのために命がけでゲームをしているのやら。』
「そんなの決まってんだろ。パチンコの金を稼ぐためだよ。」
このパチンコ依存症の男こそ。斑会のギャンブラー。鞍馬京介である。
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