第四十四話 墓穴
Win 阿黒賢一
「なっ。どういうことだ。」
亜久津成義はモニターにうつっている勝者の名前を見て叫んだ。無理もない。自身が負ける事など考えもしていなかったのだから。
「どうもこうも亜久津さんは負けたんだよ。」
阿黒賢一はそんな姿を冷静に見ていた。
「何をしたんだ?!。」
そんな亜久津の顔は困惑の表情で満たされていた。
「答えはこれさ。」
阿黒賢一は自身のタブレットを亜久津に見えるように公開した。
公開されたタブレットの画面には、Life coinの場所に38、death coinの場所に35がうつしだされていた。
亜久津成義は一瞬でその数字の意味を思考し、即座に理解した。
「俺は読み間違えたのか。」
答えは単純であった。亜久津成義が阿黒賢一の策を読み間違えた。ただそれだけであった。
「そう、亜久津さんは俺の策を読み間違えたんだ。」
「成程。5ラウンド目のセカンドで、俺は間違えたのか。」
亜久津成義の脳裏にその時のことが鮮明に思い出される。
「そうさ。亜久津さんは5ラウンド目のセカンドで俺の賭けたライフコインの枚数を11枚だと思い込んだ。本当は違うのにも関わらず。」
亜久津は心の中で『その通りだ』と同意した。
「俺が本当に賭けたライフコインの枚数は0枚さ。亜久津さんも知っての通り、ライフイズコインは1度決定したライフコインの枚数は変更出来ない。これを利用させてもらった。俺は亜久津さんにタブレットを公開する前に0を入力し、決定を押してたんだ。そのあとに公開し、10を入力した。だけど、ルールによって最初に入力した0が優先され、その後の10は無効となった。」
「成程。俺の考えは君に読まれていたのか……。」
亜久津の表情には少しの笑みが含まれていた。
「これは、勝てないな。」
笑みの正体は諦めであった。
自身では到底敵わない化け物、自身の策を全て読み、利用し、一抹の希望すらなく完膚なきまでに負かしたその化け物相手に亜久津は笑うことしか出来なかった。
「それは違うよ。亜久津さん。亜久津さんが勝っていた未来はあったんだよ。」
「ないな。俺は君の策を見破ることすらできずに。それどころか、俺の考えを利用されて負けたんだ。どんなことがあろうと、俺は君には勝てなかった。」
亜久津はどこか自嘲気味であった。
「何で亜久津さんはタブレットを公開した時、公開された数字と同じ数字を入力したの?」
唐突な質問だったため、返答に少しの時間を要した。
「君を警戒していたからだ。そして、何より俺が慎重だったからだ。」
その答えに阿黒賢一は頷く。
「もう1つ質問するね。どうして亜久津さんは5ラウンド目のセカンドで俺が11を選択したと思ったのかな。」
今度は少しの間もなく返答する。
「君がタブレットを公開する時間を短くしたからだ。それで俺は君がタブレットのラグを使ったのだと思い込んだ。ただ、それだけだ。」
阿黒賢一は再び頷く。
「じゃあ、最後の質問。何で亜久津さんはそんなに俺のことを警戒していたの?」
質問する阿黒賢一はどこか笑っているように見えた。
「そんなの、」
その時、亜久津成義は1つの可能性に気が付く。
(ま、まさか。)
「そのまさかだよ。」
阿黒賢一は亜久津の思考を見ているかのようなジャストなタイミングで言葉を発した。
「亜久津さんは勝っていたんだ。俺のことを知らなければ。」
その瞬間、今まであった笑みが亜久津の表情から消える。
「俺のことを知らなければあんなに警戒することもなかった。あんなに慎重にことを進めることもなかった。」
亜久津の今までの行動は全て阿黒賢一が何か策をうっていると考えてのものであった。
自身には考えついていない策を阿黒賢一は思いついている。阿黒賢一は無駄なことをしない。阿黒賢一は油断出来ない男だ。阿黒賢一は、阿黒賢一は、阿黒賢一は、阿黒賢一は。
「例えば、タブレットの公開。阿黒賢一は何か策をもっているはずだ。その策を見破るまでは慎重に行動しなければ。でも実際はあれ自体にはなんの策もない。5ラウンド目のセカンド、タブレットの公開時間が短い。阿黒賢一は無駄なことをしない。短いのにも理由があるはずだ。でも実際はなんの理由もない。これでわかったでしょ亜久津さん。」
亜久津成義のことを真っ直ぐ見つめる。
「亜久津さんは俺のことを必要以上に大きく見ていたんだよ。阿黒賢一は無駄なことはしないとか、阿黒賢一は策を隠し持っているとか。ありもしないことを勝手に考えて、勝手に自爆していった。それが亜久津さんの負けた理由だよ。」
全てを聞いた亜久津は口を開く。
「し、知らなければ。」
そう、知らなければ。阿黒賢一のことを知らずに勝負していたのならば亜久津が勝てる可能性も大いにあった。
「そう、知らなければ。亜久津さんが勝つことも有り得たんだ。」
「うあああああァァァァァァァァァァ。」
亜久津が唐突に叫びだす。無理もない。何をしても勝てないと思い込んでいた相手に勝てる可能性があったのだ。そしてなにより、その可能性を潰したのが阿黒賢一ではなく自分自身であったこと、それが耐えられなかったのだ。
「だから言ったよね。俺のことを知ったら死ぬって。」
阿黒賢一が言い終えるのと同時に今度はゲームマスターである河野が口を開く。
「今回のラウンドを勝利したのは、阿黒賢一様です。敗者である亜久津様には10枚のデスコインが付与されますが、これにより、デスコインの枚数がライフコインの枚数以上になってしまいました。亜久津様には高電圧の電流をその身に受けてもらいます。運が良ければ助か……りませんね。」
ライフコインとデスコインの精算がおこなわれる。
ビービー。
亜久津のタブレットから警告音のようなものが鳴り響く。
「じゃあね。亜久津さん。楽しかったよ。」
「俺は、君のことを知りたくなかった。」
亜久津が言い終えると、バチンという音ともに高電圧の電流が亜久津の身体を襲う。
それから少しして、部屋には焦げくさい匂いがたちこんできた。
「亜久津様の死亡が確認されました。これにより、今回のゲーム、ライフイズコインの勝者は阿黒賢一様です。」
ゲームマスターである河野が声高らかに阿黒賢一の勝利を宣言した。
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