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第四十二話 意味


(考えろ。阿黒賢一のタブレット公開の意味。)


これまでの阿黒賢一の行動、一挙手一投足を慎重に思い出して行く。


(それはなんだ。)


亜久津は先程の会話を思い浮かべる。


(何故今になって俺の慎重さについて質問をしてきた。質問をするならば、前のラウンドでも良かったはずだ。)


思考の海に落ちていくうちに亜久津は無意識に手を顎にあてていた。


(何故今になって……。時間かせぎか。)


思考のすえ、時間かせぎという言葉が思い浮かんできた。


(なぜ、時間稼ぎをする必要がある。今までと同じならばする必要がない無駄な行為だ。だが、阿黒賢一は無駄な行為をしない。ならば、なにかしらの意味がある。)


阿黒賢一に目線を向ける。阿黒賢一は今までと変わり無かった。


(それは何だ。それに、何かがひっかかる。)


亜久津は違和感の正体を見つけるために阿黒賢一の前回のラウンドの行動と今回のラウンドの行動を重ね合わせる。


(なるほど。時間だ。)


違和感の正体はタブレットを公開する時間であった。


(今までのラウンドのタブレットを公開する時間と比べて今回のタブレットを公開する時間が極めて短い。)


今度はタブレットのほうに目線を向ける。


(公開する時間を短くする理由。それは何だ。相手に印象付けるのが目的ならば短くする理由はない。俺は何かを見落としているのか。)


改めてライフイズコインのルールとこれまでの自身の行動、そして阿黒賢一の行動を思い出していく。


深く深く、もっと深く思考の海に落ちていく。


(いや……、まて。)


なんと亜久津はひとつの答えを見出そうとしていた。そしてついに亜久津はひとつの答えに辿り着く。


(成程。理解した。阿黒賢一、君の策を。)


目線を再び阿黒賢一に向ける。目線の元にあるその瞳は先程よりも強い何かをもっていた。


(阿黒賢一、君はライフイズコインの1度入力し、決定したライフコインは取り消せないルールと、タブレットのラグを使って俺を騙そうとしていたんだな。)


『そうだろ?』という意味を込めた視線を阿黒賢一に送るが、答えはかえってこない。


(君が入力した本当の数字は11だ。俺がいままで通り10を賭けたところを仕留めるために。)


今度は阿黒賢一のタブレットに目線をおとす。


(君は会話で俺の注意をそらし、タブレットに11を入力した。その後、タブレットのラグによって数字の変動が行われない時間を使って10を入力。それを公開し、俺に見せた。こう考えればタブレットを公開する時間が短かったのにも納得がいく。)


阿黒賢一のタブレットから自身のタブレットに視線をうつし、更に思考する。


(もしも、俺がこれに気付かずに今まで通り10を選択していたら、俺と君の実質的なライフコインは一緒になっていただろう。そうなればイーブン。俺の有利は無くなる。恐ろしい男だ。阿黒賢一。だが、その策は破られた。)


顎にあてていた手をタブレットにかざす。


(俺が選択する数字は12が最良だが、ここは慎重にいこう。相手は阿黒賢一だ。ここは、1つおおい数字である13を選択するのが安全だ。)


「阿黒賢一。君は慎重さに足元をすくわれると言っていたな。」


「言ったよ。その通りじゃないのかな。」


かざした手でそのままタブレットに13を入力し、決定を押した。


「それではジャッジに入りたいと思います。」


ゲームマスターである河野の背後にあるモニターに文字がうつしだされる。


Win 亜久津成義


「違う。俺は慎重なおかげで君に勝ったのだから。」

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