第三十八話 数字
亜久津は右手の人差し指を唇の前まで持ってきた。
「話は最後まで聞いた方が良い。俺は、2を選択しようとした。と言っただけで、2を選択したとは言っていない。」
抑揚のない不気味な声でこのラウンドの真相を淡々と話し始める。
「君は俺が2を選択することすら読んでいた。だから君は0を選択した。」
その言葉を聞いた瞬間、一瞬だけ、阿黒賢一の表情が変わる。何かを見抜かれたような、都合の悪い顔に。
「ライフイズコインのルールには罠が仕掛けられている。それは、secondでかけるコインの枚数だ。」
対面に座っている阿黒の瞳をみつめる。阿黒をみつめるその瞳は全てを見抜いているかのような不気味な瞳であった。
「ゲームマスターは、firstでコインを賭ける時、0は選択出来ないと言っていた。だが、secondの説明の時、ゲームマスターはコインの最低枚数を指定していなかった。つまり、secondでは0を選択できるということだ。」
阿黒に向けていた瞳を一瞬だけ、ゲームマスターに向けた。
「君はそこに注目した。君はゲームのルールを逆手に取ることが得意だから。」
亜久津成義の脳裏に阿黒賢一と君塚渉の戦いがムービーとしてながれる。
「君は俺が13の仕掛けに気づく人間だとわかっていた。なぜなら、俺が君の前回のゲームをみていたことを知っていて、俺が君の実力を知っていると知っていたから。」
亜久津は一息ついてから再び話し始める。
「だから君はもうひとつのトラップをはった。1ではなく、0を選択するというトラップを。君の筋書きでは、俺は、君が1を選択したと思い込み2を選択し、このラウンドを獲得する。1と0たった1の差だが、君の策を見抜いたことで、油断しているであろう俺にはそれがあとから刺さってくる。そして、最終的に負けてしまう。」
自身のタブレットを指さしながら話し続ける。
「だか、そうはならなかった。俺は君が0を選択することすらよんでいた。だから、1を選択した。1で勝てるのは0だけ、同じ1であると引き分けになってしまい、2以上であると負けてしまう。1を選択し、このラウンドを獲得した時点で君の選択した数字が0であることが確定した。」
迷いのない手つきでタブレットに数字を入力していく。
「これで君は俺のことを騙すことが出来ずに、デスコインを10個獲得してしまうという最悪の道に進んだ。そして、このゲームはライフコインを多く使える者が絶対的に有利である。なぜなら、こういうことができるからだ。」
亜久津はタブレットにある決定ボタンを押す。
「俺は、firstで10コイン賭けた。これで君は最低でも11コインかけなければ差は縮まらなくなってしまった。だが、これにも負けてしまうと君と俺との差は開いてしまい、君の命はとてつもない速さで短くなってしまう。」
タブレットに向けていた視線を再び阿黒賢一に向けなおす。
「君は俺のことを1ラウンド目で騙せなかった時点で詰んでいたんだ。これから先、君は死への一本道を走るという選択しか残されていない。残念だがココが君の墓場だ。」
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