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時間割  作者: はやはや
5/7

4時間目:社会

 社会の時間に担任が斬新なことを提案した。

 教科書の見開き2ページに書いてあることを、何でもいいから覚えろ、という。

 文章を丸々覚えなくていい、単語でもいい。とにかくその2ページに載っていることなら、何でもいいという。

 一定時間経ったら、全員起立して自分が覚えたことを挙手で発表するという。ただ、内容が人と被るのはダメだと言われた。

 担任が発表者を指名するのだから、運も大きく作用する。

 嫌な予感がした。私はこういう運に、とことん恵まれない。

私と同じことを覚えた誰かが、先に指名され答えてしまうに違いない。

 何か不公平だ……と思っているうちに、担任は

「よーい。始め!」

 と暗記の時間をとりだした。

 私は素直に教科書を開く。



 自分の中の感情を顕にすることなく、素直に指示に従う私。

今なら抱きしめてやりたいと思う。



 教科書を開くと、右下に写真が載っていた。子どもが三人並んで、大根を齧っているものだった。その見開き二ページは、戦後のことが書かれていたのだと思う。

 私は写真の下に解説文を見つけた。

〝大根で飢えをしのぐ子どもたち〟とあった。

 なぜかその言葉から目が離せず、写真の中の女の子の笑顔に胸が痛む。


 この時代は十分な食料がなかったもんな〜

 大根って、そんなに美味しいのか。

 今度食べる時は、よく味わってみよう。


などと考えるうちに暗記時間が終了した。

 大根の件しか頭に入っていない。

 仕方がないので、大根一本で勝負することにした。



 全員起立する。何人かが答えた後でも、大根のことには誰も触れない。いけるかも? と自信がわく。

 ついに私が指名され自信を持って答えた。

「大根で飢えをしのぐ子どもたち!」

 私の発表を聞いて、担任がぽかんとする。

 担任は急いで、教科書に目を戻し、私が言った言葉と同じ言葉を探しはじめた。

「あ、写真のことね」

 と、何か腑に落ちない表情で言い、でも、間違いではないので、着席するように言われた。



 30年近く経っても、あの時の担任の腑に落ちない表情が気になっている。

 覚えないといけなかったのは、あの指定された2ページに、書いてあった()()で、写真の下の解説文は、()()にカウントされていなかったのではないか。

 いやでも、何でもいい、と言ったはずだ。

 この悶々とした疑問はもう解決されることはないだろう。

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