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暴走族のミキオ

作者: 宮 虎吾朗

暴走しない暴走族のミキオは夜空に爆音を轟かす!それを見ていたのは…

 信号待ちの交差点の先頭で爆音を響かせているのは暴走族のミキオです。

 ミキオは暴走族、といっても暴走しませんし、信号無視もしません。現に今も赤信号でちゃんと止まっています。そして青信号になるかならないかのうちに発進するのではなく、むしろボーッとしているのか、後ろの車にクラクションを鳴らされたりすることがあります。


 そんなミキオがすることといえば、今のように赤信号の交差点でアクセルをふかし夜空に爆音を響かせるぐらいです。それも遅くても夜9時ぐらいまでしかやりません。夜は眠たくなり、家に帰って寝ます。

 ミキオは暴走族、というより爆音族です。

10人中11人ぐらいがそう答えると思います。


 ミキオはいつもドカタ仕事のアルバイトの帰り、同じ道を通り、だいたい同じ交差点で赤信号に捕まります。

 「俺も、もう18だから こんなことしてる場合じゃねーかな」とか思いながらも、交差点で止まるとアクセルをふかして爆音を夜空に轟かせてしまいます。


 ある日の帰りに、なんか視線を感じるなと思って、そっちの方を見ると、ある病院があり、窓にある小学生らしい女の子と目があいました。よく見ると手を振っているのか振っていないのか分からないぐらいに手を振っているように見えます。

 

 はっきりしないのが嫌いなミキオは、いつもの倍ぐらいに、張り切ってアクセルをふかしてみました。すると爆音は月まで届くぐらいに轟きます。

 

 その爆音を聞いた病室の窓の少女は、今度は

腕がひきちぎれそうなほど手を振っています。

 女の子が爆音に反応したのかわかりませんが、ミキオは「ふーーん」てなりました。


 爆音→弱く手を振る→大爆音→激強に手を振る こんなやり取りが1か月ほど続きました。


 ミキオは就職が決まりました。地元にある釣具店で働くことになる予定です。

 ミキオは釣りが好きなのです。「3度の飯より釣りが好き」てわけではないのですが、気の合わない人と御飯を食べにいくよりかは、よっぽど釣りのほうが好きです。針にエサを付けて魚のアタリを待ちながら、海の景色を見てボーッとするのが心地良いと思っています。風呂に入ってボーッとするのと同じぐらいに心地良いと思っています。


 ただ、その釣具屋に本採用になるにあたり、新人研修というものが遠い県外であるようで、ミキオは地元を1か月ほど離れることになりました。


 新人研修が始まるまでの間もミキオは、相変わらずに、あの交差点で爆音を轟かせます。そして相変わらず少女は最初、振っているのか振っていないのかわからないぐらい小さく手を振った後に、大爆音を聞いてから、腕がちぎれそうなほど手を振ります。


 「長い入院だな」ミキオはそう思いながらも「ふーーん」と言って新人研修に旅立ちました。


 「やめなさい!腕がちぎれるわよ。」という母の静止も振り切って、窓の外の大爆音に手を振っているのは、カエデです。

 「カエデ」 この名前は元々はといえば

「モミジ」と「カエデ」 この2つの候補から選ばれた名前です。

 カエデの父親が「モミジ」と「カエデ」のどちらにしようか迷って、決めあぐねていたところ、山村紅葉が あまり好きではないという母親の鶴の一声で「モミジ」ではなく「カエデ」に決まりました。


 名前の由来などはカエデにとってはある意味どうでもよく、そんなことより闘病中で、ずっと長く続いている入院生活を楽しい時間にしていくことのほうが、よっぽど大事と思っています。

 カエデは生まれつき難病を患っており、現在は小学3年生なのですが外での生活は厳しく、病院の中が生活の中心となっています。外で生活できるようになるには、人生を左右するような大手術を行う必要があります。


 カエデは暇な時、取るに足らないことを考えます。他の人からしたら本当にどうでもいいような事を真剣に考えます。

 例えば こうです。

 空腹のオオカミと腹いっぱいのオオカミが戦ったらどちらが勝つか?なんてことを寝る前に真剣に考えます。

 カエデは「おなかがいっぱい」とは言いません、「腹いっぱい」と言う茶目っ気のある女の子です。


 空腹のオオカミなら怒りっぽくなってるだろうし身も軽いから、腹いっぱい幸せいっばいの動きの鈍いオオカミには負けないだろう。

 いや待てよ、オオカミも腹が減りすぎれば機敏な動きは無理か、だったら腹いっぱいでエネルギー満タンのオオカミには勝てないか?

 いや、そもそも腹いっぱいのオオカミなら気持ちが満たされてるから「オマエとは戦う理由がない」とか何とか言ったりして… てな感じのことを考えながら眠りにつくのでした。


 カエデが窓の外の爆音にきづいたのは、一年前ぐらいからでしょうか。

 どこで何をしていても楽しめる自信がカエデにはありましたが、やはり外での生活が羨ましいのか、自由気ままに爆音を轟かしているバイクを見て、気づいたら小さく手を振っていました、そして気づいたら腕が引きちぎれるぐらいに手を振っていました。


 


 1か月が過ぎ、新人研修が終わってミキオは地元の釣り具店で働けることになりました。


 地元に帰ってきたミキオがまず向かったのは、あの交差点です。まだ入院中かな?とか思いながら、あの交差点に着くと、ちょうど信号が青から赤に変わったところでした。


 ミキオはアクセルをふかして爆音を響かせました。1か月ぶりの爆音です。

 しかし窓に少女の顔はありません。


 「ふーーん」ミキオが言いました。

 

 ミキオはさらにアクセルをふかして、大爆音を夜空に轟かせます。


 窓に少女の顔はありません。


 「ふーーん」またミキオが言いました。


 そのうち信号が青に変わりましたがミキオは発進しません。後続の車がクラクションを鳴らしています。


 ミキオはアクセルをこれ以上ないぐらいに

 目一杯ふかしました。


 轟音が宇宙のすみずみまで響き渡りました。

 

 ミキオは…

 カエデが何処かで腕が引きちぎれるぐらいに手を振っているのを感じ取りました。


 

 

 

 


 

 


 


  

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― 新着の感想 ―
[良い点] ミキオとカエデ、爆音を出す・手を振るだけのつながりでしたが、 二人は確かにつながっているのだな、と感じました。 じんとくるお話でした。
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