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終わりです。

 その日、解散となった後、校門前で俺を含めた十人は話し合っていた。

「正直、どう思う?」

 真っ先に口を開いたのは、泉田だった。

「そりゃあ、監督になってくれるのは有難いよ。でも、なんかさ……」

「胡散臭いな。何か、裏がある気がするぜ、俺は」

 今泉いまいずみが、フンと鼻を鳴らして言った。エース特有の態度のデカさはあるが、恐らくチームで一番ポテンシャルが高い。なんでこんな弱小校に来たのかが不思議なくらいだ。

「でもさ、他に監督やってくれる先生は多分居ないし、信じてみるしかないんじゃない」

 遊佐がそう反論すると、今泉も黙った。他のメンバーも沈黙。ただそれは、肯定の意味ではなく、他に選択肢が無いからだった。


 **********


「久しぶり。という訳で、新監督の千歳です。皆よろしくね~」

「……」

 俺たちは意気消沈していた。今日は既に三月の中旬。去年の九月から今日まで、公式戦どころか練習も一切無かったからだ。それに、四月には部活紹介をしなければならないのに、話し合いさえしていなかった。

「あれ、他に部員は居ないの?」

「俺たち十人だけです」

「ああそっか、二年生は全員強制退部になったんだっけ」

 千歳は重大事項をいともあっけらかんと言うと、「じゃあ、今日一日は、『君たちの普段の練習』を、見せてもらおうかな」と続けた。

「え? それだけですか?」

「うん、今日はそれだけ。じゃあ、練習開始!」

 そう言われたら、そうするしかなかった。

 ランニング、キャッチボール、素振り、守備練習……。

 俺たちは「いつも通り」にやった。


「これで終わり?」

「はい」

「よし、じゃあ集まって……って、もう集まってるか。休みは週何回だっけ?」

「二回です。日曜と水曜の」

「明日は土曜日か……。じゃあ、明日は休み」

「え」

 俺たちはざわついた。いつもなら普段通りの練習か、練習試合をする予定なのに。といっても、わざわざウチと練習試合をしたがる学校なんて今は無いだろうが。

「その代わり、このアンケート、書いてきて。月曜までに」

 そう言うと千歳は、プリントを一枚ずつ配った。

「正直に書いてね。じゃあ、終わり」

 千歳はそれだけ言い残し、今週の活動は終わった。


 帰宅後、俺は早速、プリントを読んだ。

 なになに……。全部で九問あるのか。


『1:あなたがスポーツ活動をするうえで、最も求めるものはなんですか?』

『2:あなたの理想とするものは何ですか? または誰ですか?』

『3:あなたが野球を始めた理由は何ですか?』

『4:あなたの得意なことは何ですか? 野球に関係なくても構いません』

『5:あなたが、勝負事で最も大切だと思うことは何ですか?』

『6:前監督の指導方針について、個人的にはどう思っていましたか?』

『7:6の答えについて、その理由は何ですか?』

『8:新監督である千歳香奈について、第一印象はどんなものでしたか?』

『9:部活動停止期間に、何か成長したことはありますか? 無ければ「ない」と書いても構いません』


 こんなアンケートをして、何か分かるというのだろうか。

 半年の部活動停止期間がやっと明けたと思ったら、よく分からない新監督に練習を一日分潰され、おまけにこんなものまで渡してきた。教え子を知るためかも知れないが、やっぱりよく分からない。

 俺はその時の気分で、適当に記入した。


 **********


 週明けの月曜日、部室にて。

「はい、じゃあこの前のアンケート、提出してね」

 誰一人欠けることなく、全員が集まっていた。この野球部、出席率は高い。まあ、十人しか居ないから誰が休んだか一発で分かるのが大きいと思う。

「じゃあ今日も、『いつも通り』の練習しといて」

 そう言われるのは二回目なので、俺たちは特に驚かなかった。

 練習の合間に千歳の様子をチラと見ると、どうやら俺たちが書いてきたアンケートを読んでいるようだ。もうちょっと真剣に書いたほうが良かっただろうか。

 そんなこんなで金曜日と同じメニューを終えた。


「怪我人とか居ないよね? じゃあ、今日は終わりです。お疲れさまでした」

「先生、ちょっと!」

 今泉が呼び止めた。

「ん? なーに?」

「この前と今日と、見てるだけじゃないですか。監督ならもっと指示を出したらどうですか」

 俺もそれには同感だ。すると、千歳からは意外な言葉が返ってきた。

「あーゴメン、私あんまり練習メニューとか詳しくないんだよね。君たちで決めてもらって構わないよ。勿論、怪我しない程度にね」

「じゃあ、何のために監督を引き受けたんですか」

「理由がなきゃいけない?」

「……ええ、そうですよ。少なくとも俺は、何の指導もしない奴にはついていきたくない」

「おい、今泉!」

 高瀬が喝を入れる。今、野球部はただでさえ評判が悪いのだ。千歳にまで監督を辞められたら、それこそ廃部まっしぐらだ。

 長い長い沈黙の後、千歳は口を開いた。

「……何の指導も、って、さっき言ったよね?」

「え? あ、まあ」

「指導なら出来るよ。『野球の』指導は、期待しないでほしいけど」

 指導できる? でも野球の指導は期待するな? だとしたら、何の指導をするつもりだ?

 俺の頭の中にはクエスチョンマークが並んだ。

「はい、解散、解散。続きは明日ね」

 千歳は半ば強引に、今日を終わらせた。

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