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空元気です。

 突然、今の生活が終わりを告げることが決まったら、どう思うだろうか。

 終わったら、ではなく、第三者によって終わりが決められたら、という話である。

「という訳で、野球部は廃部だから」

 校長の一言で、俺の青春は終わりを告げられた。


 **********


 廃部を告げられた翌日、俺は野球部の部室に来ていた。

「あ、ふく……」

 部室には、控え選手の遊佐ゆざたつきだけが居た。

「ああ、遊佐。お疲れ」

「……廃部、だってね」

「ああ」

「ずっと、頑張ってきたのに……」

 遊佐は泣き出してしまった。声は立てずに。

 俺だって悲しい。悔しい。泣きたい。

 でも、遊佐の涙のほうが明らかに重い。俺たち同学年は十人。遊佐は唯一、試合に出られない選手だからだ。

 ここの野球部はただでさえ勝ててない。でも、俺たちはまだ一年生だ。もう少しチャンスをくれたっていいじゃないか。

 そう思っていると、捕手の米沢よねざわが、少し乱暴にドアを開けてやって来た。


「おい、聞いてくれ。廃部を延ばしてもらった」

「延ばすって?」

 俺は耳を疑った。

「校長は今すぐにでも廃部にしたがってたけどな。教育委員会に報告してもいいんですねって言ったら、『それは困るぅ~、よし分かった、君たちが卒業してからにするぅ~』ってさ。やっぱりあの狸、世間体と保身にしか興味ないみたいだな」

 やっぱり食えない男だな。あっはっは、と笑う米沢を見て、俺はそう思った。

 ただ、米沢の笑顔が空元気であることも、容易に察しがついた。


 数十分後。

 選手十人全員が集まり、話し合いが行われた。

 議題は勿論、これからどうするか。

 米沢が廃部の延期を告げても、喜ぶ奴はいなかった。それもそのはずだ。

 延ばしてもらったところで、俺たちが勝てる保証など、どこにもない。

 せめて、公式戦53連敗などという、更新中の記録が無ければ、幾分かは良かったのかもしれない。もしくは、86点差という、県内の公式戦での最大得点差が無ければ、良かったのかもしれない。が、結果は結果、変えられない。


「やっぱり、公式戦一勝じゃないか? 目指すのは」

 一塁手の高擶たかたまが口を開く。名前を書くときに、半数以上に間違えられると本人は言うが、真偽は分からない。

「じゃあ、勝つために何をするべきだ?」

 主将のたかが返す。

「そりゃ、練習して……」

練習しただけ(・・・・・・)で、勝てるの?」

 高瀬がそう言うと、高擶を含めたほとんどの部員が口をつぐんだ。

 だが、遊佐だけは違った。


「練習しただけじゃ確かに勝てない。でも、練習しなきゃ勝てないよ」

「じゃあ、俺たちに足りないもの、言える?」

 高瀬が問い返す。

「まあ、まずは……監督でしょ」

「だよなぁ」と漏らしたのは、遊撃手の泉田いずみた

「監督、辞めちゃったもんな」

 今の二年生が集団万引き、暴行など、めちゃくちゃにやってしまったのが、廃部への引き金。監督も責任を取って辞めてしまったから、指導者もいない。あと二年で定年ではあったが、選手からは好かれていた人だった。

 夏の大会で三年生が引退した直後にこれ。さらに、延ばしてはもらえたものの、校長は「廃部」と確かに言った。

 本当に腐ってると思う。二年生も校長も、今の結果と地位を簡単に受け入れている自分たちも。


「あとはまあ、勝つときに足りないこと、だよな」

「ああ」

 三塁手の古口ふるくちが発言し、外野手の瀬見せみがそれに同調した。

せき先生、良くも悪くもエンジョイ勢だったからな」

 前監督の関根は、よく言えば楽しんで成長することを重視、悪く言えば勝つのは二の次、といった方針だった。公立校だし、よっぽどのことが無い限りは解任の心配はない。


 今年の夏も初戦負け。ただ、上級生は、「九回までやれたんだから頑張ったほうだよな」という会話を交わしていたので、要するにそういうレベルである。正直、どこをどう取り繕っても、五点差の無安打無得点負けは「頑張った」レベルではない。しかも相手は貧打で、打たれた安打は四本だけ。失策五つが全て失点に絡んだ。

「大体、得意なことだけやって勝とうなんてのが、虫のいい話だよな」

 瀬見と同じく外野手のあらが言った。その時、部室の扉が突如として開き、俺たちの輪の後ろから拍手が聞こえた。


「そのとーりぃ。みんな分かってんじゃないのさ」

 女性で、身長は百五十センチとちょっとくらい。十人のなかで一番小さい俺、吹浦(とおる)より小さい。

「あの、どちら様ですか?」

 そう高瀬が問うたが、米沢は「俺は知ってるぞ、入学した時に全員覚えたからな」と得意そうに言った。

「お、まさか一年生で知ってる生徒が居るなんてね。どこの担任もしてないのに」

「そりゃあ、教師のネタは俺の大好物ですからね。名前くらい把握しとかないと」

 グヘヘ、と笑う米沢は無視し、改めて名前を聞く。


「よくぞ聞いてくれた。私はとせ香奈かな。担当授業は、主に三年の現代社会と政治経済ね。という訳で、これからヨロシク」

「よろしくって、何がですか?」

 高擶がそう言うと、千歳は事もなげにサラリと答えた。

「何って、君たち野球部の監督に決まってるじゃん」




◆◇◆追記

 読んで下さりありがとうございます。弱小校が成長していくという王道ストーリーですが、飽きるまではお付き合い頂けたらと考えています。それではまた次回。

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