とある流浪人の疑念
私は自由の身だった。
家にも社会にも囚われず
ただ思うが儘に流れては
その日その日を費やしてきた。
ある日、私が流れ着いた町ではデモ行進が行われていた。
『市民に自由を!』
と大きく書かれた横断幕を掲げ
人々は叫んでいた。
「私たちに自由を返せ!」
私は自由という言葉について考えた。
他者に囚われず
社会にも囚われず
ただただ当てもなく放浪する。
言うなれば
私のような者が自由なのだろうか。
私は気になった。
彼らの言う自由とはなんなのかと。
私は農夫に聞いた。
私は自由なのかと。
農夫は答えた。
おまえはただの逸れ者だと。
私は問うた。
おまえは自由なのかと。
農夫は怒鳴った。
これのどこが自由なのだと。
私は商人に聞いた。
私は自由なのかと。
商人は答えた。
おまえはただそこに在るだけの存在だと。
私は商人に問うた。
おまえは自由なのかと。
商人は眉を顰めた。
どこに行っても自由はなかったと。
私は娼婦に聞いた。
私は自由なのかと。
娼婦は答えた。
あんたの自由には価値がないと。
私は娼婦に問うた。
おまえは自由なのかと。
娼婦は目をひん剥いて叫んだ。
あんたなんかには一生理解出来ないだろうし、理解されたくもないと。
ついに私は王への謁見を申し出た。
しかし、それは叶わなかった。
傭兵によって門前払いを食らったのだ。
それでも諦めなかった。
王が城から大量の護衛を率いて現れたところを狙った。
当然のように私は捕まった。
何物にも囚われずに生きてきた私には理解できなかった。
それでも私は王に叫んだ。
私は自由なのかと。
王は嘲笑して答えた。
あぁ、自由だとも。好きなところで朽ち果てるがよい。
私は王に投げかけた。
おまえは自由なのかと。
王は憤怒した。
あぁ、自由だとも。今、この場でおまえを処刑してやろう。
私はようやく理解した。
私は初めから何も持ってはいなかった。
しかし、自由を見聞り、自由を理解ろうとした。
その時、私は自由に束縛された。
そして、私は自由に食い殺されたのだ。
私は自由に生きているようでありながら
『生』と『死』の恐怖に束縛され
『自由』に翻弄されていたのだ。
『自由』という概念そのものが『束縛』だったとは。
しかし、首筋に重い衝撃がのしかかってきたその時、
ついに私はこの束縛から解放され、自由を手にしたのだった。