こどもの、日
五月五日はこどもの日。
さあ、みんなでこどもに戻りましょう。
……準備は、いいですか?
渦に、まきこみ ま す よ
く る り、くるり、くるくるり。
「きゃはは!!」
くるり、くるり、くるくるり。
「わーん、めがまわるよー!」
くるり、くるり、くるくるり。
子どもたちの、声が聞こえてきました。
「ぼくのほうがはやいぞー!」
「あたしの、みて、みて!!」
くるり、くるり、くるくるり。
子どもたちの、はしゃぐ声が聞こえてきました。
「ねーねー、なんでひとりじめしてるの?」
「みんなでわけあわないとダメなんだよ?」
「うっせ―!おれはお金が好きなんだよ!!!いっぱいためるんだ!!!」
くるり、くるり、くるくるり。
子どもたちの、強気な声が聞こえてきました。
「ねーねー、なんでよわい子いじめてるの?」
「かわいそうな子にはやさしくしないとダメなんだよ?」
「だって泣いてるの見るとおもしろいもん!もっと泣かせるんだ!!!」
くるり、くるり、くるくるり。
子どもたちの争う声が聞こえてきました。
「ねーねー、そんなにがまんしてるとつらくない?」
「いやなことは言わないとダメなんだよ?」
「わたしががまんしたらうまく行くから、やだけど、いいの。」
くるり、くるり、くるくるり。
子どもたちの、悲しそうな声が聞こえてきました。
「ねーねー、なんでそんなに楽しそうなの?」
「楽しみはみんなでわけあわないとダメなんだよ?」
「おれの楽しそうなすがたを見て、よろこべばいいんだよ!!」
くるり、くるり、くるくるり。
子どもたちの、素直な声が、あちらこちらでこだましています。
「ねーねー、なんで一人ぼっちでいるの?」
「おともだち作ろうよ、みんななかよくしないとダメなんだよ?」
「だれも話しかけてくれないからでしょ!もっと気を使ってよ!!!」
くるり、くるり、くるくるり。
子どもたちの、正直な気持ちが、あちらこちらで溢れています。
「ねーねー、なんで決まりごと守れないの?」
「みんなで決めたんだから、守らないとダメなんだよ?」
「ぼくはそんなのさんせいしてない!かってにルールを決める方が悪い!!」
くるり、くるり、くるくるり。
子どもたちの、遠慮のない主張が、あちらこちらで撒き散らされています。
今日はこどもの日。
今日は、大人が子どもになれる日。
この場所で、みんな子どもになります。
この場所で、大人を手放し、子どもにかえります。
この場所で、子どもという器に、大人になった自分を乗せることができます。
子どもという器は、大人の持っている遠慮を持ち合わせていません。
子どもという器は、大人の持っている愛想を持ち合わせていません。
子どもという器は、大人の持っている常識を持ち合わせていません。
子どもという器は、自分の中にある欲を隠そうとしません。
子どもという器は、自分の中にある心を隠そうとしません。
子どもという器は、自分の中にある悪を隠そうとしません。
子どもという器は、身勝手な正義を通したくてたまりません。
子どもという器は、身勝手な行動をせずにはいられません。
子どもという器は、身勝手な誰かを許すことができません。
大人の器を捨て、子どもになって、自分の全てを開放できる日、それがこどもの日なのです。
ここは、年に一度、大人が子どもになれる場所。
ここは、年に一度、自分の全てをさらけ出すことができる場所。
ここは、年に一度、心の奥深くにある自分自身を開放できる場所。
クルリ、クルリ。
コーヒーカップのように、回る子どもたち。
クルリ、クルリ。
回る速さは千差万別。
クルリ、クルリ。
回る器は十人十色。
大きな器に小さな器。
丸い器に四角い器。
器は、自分そのもの。
器は、自分が今まで生きてきた結果、出来上がったもの。
器に乗りこむことはもちろん、触れる事すら、他人には叶いません。
みな、自分の器を操って、思い思いに自分を開放しています。
みな、自分の器を操って、思い思いに自分を開放するため、周りにちょっかいを出しています。
たくさんの器が、自由自在にくるくる回って、楽しんでいます。
たくさんの器が、自由自在にくるくる回って、まわりを観察しています。
たくさんの器が、自由自在にくるくる回って、一緒に笑っています。
たくさんの器が、自由自在にくるくる回って、互いをけん制しあっています。
たくさんの器が、自由自在にくるくる回って、思いの丈をぶちまけています。
たくさんの器が、自由自在にくるくる回って、自己満足に思いやりを押し付けています。
自分の器で回る楽しさに没頭している子どもがいます。
「こんなに早く動けるようになったんだぞ!!!」
自分の器を自慢したい子どもがいます。
「俺の器が一番かっこいいし、上手に回れてるだろ!!!」
自分の器の大きさを気にして隠れるように回る子どもがいます。
「ちいさいけど、私だって回ることぐらい、出来るもん……。」
自分の器よりも他人の器が気になってしまう子どもがいます。
「みんなの器は大きくていいなあ……。」
自分の器を回すことに一生懸命で泣きそうになっている子どもがいます。
「うまく回らないよ、なんで僕だけうまくいかないの……。」
自分の器に自信が持てないことを恥ずかしく思いながらぼんやりと流れている子どもがいます。
「こんなんじゃダメだってわかってる、でも止まったら目立つから、流されるしかないの。」
クルリ、クルリ。
レコード盤のように、回る子どもたち。
クルリ、クルリ。
回る速さは緩急自在。
クルリ、クルリ。
回る器は百人百様。
重厚な器に儚い器。
柔らかい器に刺々しい器。
いろんな子どもが、たくさんいます。
笑っている子も泣いている子も怒っている子も無表情な子もいます。
ケンカをしている子も慰めている子も嘘ばかりついている子もかっこいいことばかり言う子も愚痴ばかり言う子もいます。
自慢げに話す子も弱気に話す子も黙ったままの子もいます。
子どもは、大人として過ごす自分の姿を隠しません。
子どもは、大人として過ごす毎日を堂々と晒しています。
いつもの様に、弱そうな人をイジメて喜んでいる子どもがいます。
いつもの様に、おせっかいを焼いて満足している子どもがいます。
いつもの様に、自分の感情を爆発させてすっきりしている子どもがいます。
いつもの様に、人の心配をしている自分に酔っている子どもがいます。
いつもの様に、他人の言葉を真に受けて自分の言葉をなくしている子どもがいます。
いつもの様に、手柄をすべて独り占めしようとする子どもがいます。
いつもの様に、適当に話を合わせて無難に過ごしている子どもがいます。
いつもの様に、誰かの心をへし折ることに夢中になっている子どもがいます。
いつもの様に、わかったふりをして適当に流している子どもがいます。
いつもはできない分、弱そうな人をイジメて喜んでいる子どもがいます。
いつもはできない分、おせっかいを焼いて満足している子どもがいます。
いつもはできない分、自分の感情を爆発させてすっきりしている子どもがいます。
いつもはできない分、人の心配をして自分に酔っている子どもがいます。
いつもはできない分、他人の言葉を聞いて怒りを爆発さている子どもがいます。
いつもはできない分、手柄をすべて独り占めしている子どもがいます。
いつもはできない分、適当に話を合わせず大喧嘩している子どもがいます。
いつもはできない分、誰かの心をへし折ることに夢中になっている子どもがいます。
いつもはできない分、わかったふりをして適当に流さず問い詰めている子どもがいます。
ここには、子どもしか、いません。
いいことも悪い事も、大人の分別を持たずにただただ披露しています。
ここにいる間は、みんなが子どもなのです。
いい人も悪い人も、ここにいる間は、みんなが子どもなのです。
クルリ、クルリ。
水車のように、回る子どもたち。
クルリ、クルリ。
回る速さは川の流れのように。
クルリ、クルリ。
回る器はおもちゃ箱をひっくり返したように。
個性的な器に似たような器。
集まる器に孤立する器。
子どもの頃、大きな夢を語った人が、とても大きな器を持っているのが見えますね。
……おや、大きな器に、大きな自分を乗せて、辺りを傍観している子どもがいますよ。
「すごいなあ!!おっきくなったね!!」
「うん!夢を叶えるためにがんばったんだ!」
「いいなあ!ぼくも大きくなれるようにがんばるぞ!!!」
……おや、大きな器に、小さな自分を乗せて、器の大きさに戸惑っている子どもがいますよ。
「大きくなれないよぉ……。大きな器が恥ずかしいよぉ……。」
「これから大きくなれるかもしれないよ!」
「ね、まずは小さくなってないで、体をのばす所から始めてみたら!」
子どもの頃、それなりに夢を持っていた人は、適度な器を持っているようですよ。
……おや、適度な器に、大きな自分を乗せて、器の小ささに戸惑っている子どもがいますよ。
「ちょっと大きくなり過ぎたかも?」
「うわあ、大きくてへん!器が小さすぎ!」
「自分が小さいからって、うらやましいんでしょ!」
子どもの頃、夢を持てなかった人は、小さなちいさな器を持っているようですよ。
……おや、ちいさな器に、大きな自分を乗せて、遠くを見渡している子どもがいますよ。
「小さな器しか持てなかったけど、大きくなれたからいいや!」
「器が見えないくらい大きくなったんだね!」
「器の大きさって関係ないんだね、へえ……。」
子どもの頃、夢を持てなかった人は、小さなちいさな器を持っています。
……おや、ちいさな器に、小さな自分を乗せて、足元を見て流されている子どもがいますよ。
「うっわ!ちっさ!!!お前そんなんで大丈夫なのかよ!」
「大丈夫じゃ、ない。」
「これから大きくなれるのかもしれないよ?とりあえず顔上げて、周り見てみたら!」
「みたくない。」
「ふーん、そっか、じゃあねー!」
「あっ……。」
「わーかわいそう!なぐさめてあげる!」
「あ、ありがと。」
クルリ、クルリ。
めまいのように、回る子どもたち。
クルリ、クルリ。
回る速さは目まぐるしく変わる。
クルリ、クルリ。
回る器はくんずほぐれつ。
戦う器に逃げる器。
見つめる器に目を逸らす器。
ここには、子どもたちしか、いません。
みんな、思い思いに子どもを楽しんでいます。
やりたいことを楽しむ子どもがいます。
やりたいことができないと嘆くのを楽しむ子どもがいます。
やりたいことを語るのを楽しむ子どもがいます。
やりたいことを語る事ができないと悲しむのを楽しむ子どもがいます。
子どもたちは、喜びも悲しみも怒りも嘆きも諦めも、すべて楽しんでいるのです。
大人が楽しめない感情を、子どもという器で楽しんでいるのです。
……どうです?
子どもは、楽しむことができましたか?
……どうです?
大人に戻る準備は、出来ましたか?
……どうです?
自分を開放することはできましたか?
……間もなく、こどもの日が、終わってしまいます。
大人に戻ったら、ぐっと飲み込まなければならない事ってありますよね。
大人に戻ったら、ぐっとこらえなければいけない時ってありますよね。
大人に戻ったら、ぐっと耐えなければいけない場面ってありますよね。
……私は、あなたが心配でなりません。
思いっきり泣いていた、あなた。
思いっきり逃げていた、あなた。
思いっきり困っていた、あなた。
思いっきり悩んでいた、あなた。
思いっきり叫んでいた、あなた。
子どもだった時の事を、思い出したのですか。
子どもだった時の事を、思い出してしまったのですか。
子どもであるから、相手にされませんでしたか。
子どもであるから、ないがしろにされましたか。
子どもであるから、あきらめなければなりませんでしたか。
子どもだったのに、許されませんでしたか。
子どもだったのに、見逃してもらえませんでしたか。
子どもだったのに、気を使ってもらえませんでしたか。
子どもだったのに、受け入れなければなりませんでしたか。
……大丈夫、目が覚めたら、すべて忘れています。
……大丈夫、目が覚めたら、すべて思い出せる事を忘れています。
……私は、あなたと、来年またこの場所で会えることを信じたいのです。
あなたには、特別にお土産をお渡ししようと思って、ここでお待ちしていたのですよ。
……こちらを、お持ちください。
とっておきの、勇気を包んでおきました。
周りの目を気にすることなく、真実を口に出せると思いますよ。
誰かの思惑に引きずられることなく、自分の道を選べると思いますよ。
我慢強さで隠すことなく、理不尽な状況をさらけ出せると思いますよ。
……五月五日は、こどもの日。
さあ、そろそろ、大人に戻る時間です。
……準備は、いいですか?
くるり、くるり、くるくるり。
くるり、くるり、く る く る り
渦 が 、 巻 い て ……。