完璧な実験体
神々は世界を創った自らの世界『ヘルヘブンズ』のエネルギー確保のために。
『ヘルヘブンズ』神々が住まう世界、記憶をエネルギーに変換し、様々な物の動力として利用している。
基本、生物は自らの記憶または他者の肉体を摂取することでその者の記憶を生命エネルギーに変換し生命維持に利用しているが、全ての記憶をエネルギーにしているわけではない。
稀に生命エネルギー以外に変換する生物も現れ始めた。それは魔法やスキル、特殊能力と呼ばれている。その者は世界の記憶をエネルギーに変換していた。
ある程度記憶が蓄積されると、回収者いわゆる死神が回収に向かう。この仕組みのお陰でヘルヘブンズを維持することができているのである。
そして神の世界『ヘルヘブンズ』の他に小さな世界が幾つも創られることになった。その世界一つ一つに神がいて管理をしていた。ヘルヘブンズは最高神のゼウスが管理している。
数多ある世界の一つに科学の発展した世界があった。その世界の学者たちは神に近い、いや神よりも力のある完璧な人類を創ろうとしていた。そして悪魔、精霊、鬼などこの世界の力ある者の一部を使い一人の少年を創った。
その少年はアレンと名付けられ、学者たちから大切に育てられ幸せだった。特にアリスという女性に懐いた。
アレンは様々なことを覚え、自分の能力にしていった。
アリスはアレンの細胞から新たな生物(動物)を創り出そうとしていた。その生物にレゼと名付け日々研究に没頭していった。
だか、その研究を快く思わない学者たちがいた。その学者たちは人類だけを完璧な存在とし、理想の世界を創ることを目標とした委員会を設立し、反対するものには容赦なく研究停止又は追放を言い渡していた。
「完璧な人類に近いアレンから新たに家畜を創るなんて馬鹿げてる」
「なぜ?」
「完璧な存在は人類だけで十分だからだ」
強く机を叩き委員会トップの初老の学者は言いはなった。
「人類だけが完璧な存在だなんてそんな世界間違ってる」
アリスは肩を震わせ初老の学者を睨み付けた。
「いいか、その実験体は廃棄しなさい」
そう言って初老の学者は部屋を出ていった。
委員会の決定に納得できなかったアリスは隠れて研究を続けていた。そして、レゼに自我が芽生え始めた頃事件は起こった。アリスの研究が委員会に見つかり、アリスは研究所を追放されることになったがアリスの研究への執念を恐れた委員会メンバーの一人が秘密裏にアリスを亡きものにしようと企てた。
アリスにお別れを言おうと彼女の部屋を訪れたアレンはアリス殺害の現場を目撃してしまう、ショックのあまりアレンは自らの力を暴走させてしまった。
暗い水の中をゆっくりと沈んでいく感覚がふと、無くなりまばゆい光が辺りを覆い、次に覚醒したとき、レゼは筒状の水槽に浮かんでいた。
ここはどこだろうとぼんやり思ってるといきなり爆発音がして水槽が割れ、外へと放り出された。衝撃はあったが痛みは全く感じなかったので起き上がると、だいぶ目線が低いことに気が付いた。
丸みのある体は黒い毛に覆われ手足はふにふにしていた。
耳は長く、もふもふの尻尾が付き、左右の目の色が朱と蒼で違っていた。
周りに意識を向けてみると、資料のようものが散乱していた。
○月◇日
アレンの体組織の一部を様々な生物に移植しその経過を観察する
╳月○日
体組織は黒ウサギと融合したがこちらのアクションには無反応
◇月╳日
実験体にレゼと名付け、脳に基礎知識をインストールする
○月○日
レゼの主な能力
自らの影から有機物又は無機物を作り出す
肉体損傷の自動統合再生
アレンの能力はいまだ確認できず
......
......
どうやら自分のことが書かれているらしかった。
資料を読んでいる間も轟音が響き今にも建物が崩壊しそうだった。
そろそろここに居るのは危険みたいだからとりあえず外に出た方がいいかなと歩き始めようとした瞬間地面が崩壊し、レゼは暗闇の中に吸い込まれていった。
やっと明るい所に出れたのに、また暗闇か....
そこでレゼの意識は途切れた。
力が暴走し膨大なエネルギーが放出された研究所は火の手が上がり人々の悲鳴が飛び交いまさに地獄絵図と化していた。そこには自我を無くし全てを破壊尽くさんばかりに暴れているアレンの姿しかなかった。
暫くすると静寂が辺りを覆い世界から色がなくなると地面や空がめくれ始めた。
花びらが散っていくように.....それは儚くも美しい光景だった。
そして世界は消滅した。