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第一章 第4話 - いきなり試練だブウ -



 空は青く澄み渡り、流れる風の冷たさが尚のこと日の光の温かさを感じさせる。

 細かく連なった雲が、かなりの早さで濃い影を連れて来ては去ってゆく。


 高原特有の清々しい空気を直前まで全身で感じていた俺であったが、突如現れた気配はそれらを全て瞬時に塗りつぶしてしまった。



 広葉樹の林から俺が立っている河原まで、およそ50メートル。

 その間には足首ほどの高さの鮮やかな緑色の草花が風になびいているものの、身を隠せるものは何一つない。

 気配の主はそれを承知の上なようで、俺に近づくために林の影からゆっくりとその姿を現した。



 景色の中から溶け出すように現れたそれは、茶色の毛並みをもつ狼であった。




(ま、まさか狼がいるなんて……!)




 オークの身体を手に入れた俺でも、中身はただの30歳日本男子。

 こちらを正面から捉えた狼たちの姿など、怖いに決まっている。

 人間の世界にはない凄まじい威圧感。本能的に恐怖を感じる。


 鼻を低くした姿勢で徐々に近寄ってくる狼は、木漏れ日から出てくるにつれてその姿がはっきりと見えるようになった。



 見るからに、ただの狼ではない。

 見た目こそ完全に俺の知る狼であったが、決定的に違うのはその大きさ。堂々とした四つ足で歩み寄るその体高は、ゆうに1メートルを超えている。

 頭胴長にすると成人男性の身長ほどはあるかもしれない。

 草を踏みつけながら前進してくる前足は巨大な体躯を支えるためか大きく発達しており、その先端には汚れた爪が伸びている。

 ぬらりと湿った鼻の下には、1本もかけることなく生えそろった牙が見えていた。

 全身を覆う毛並みは金属のようにぎらついた光沢を纏い、体が揺れるたびに剛毛の1本1本の固さをあたりに主張している。



 それはまるで遥か昔、新生代の地球に生息していたダイアウルフのような巨大な狼。




 そんな恐怖と敵意の塊のような生物が、まっすぐにこちらを向いて歩いてきた。

 さらに恐ろしいことに、気配の主はこの1匹だけでは済まなかった。

 はじめに現れた1匹を先頭に、林の木々の間から同じ群れのものと思われる狼が1匹、また1匹と這い出てきたのだ。

 扇状に横並びになった狼は全部で8匹、それらすべてが俺の方角にじりじりと足並みをそろえて近付いてくる。




 この状況────

 どう考えても彼らは、獲物を狩ろうとしている。


 当然、獲物とやらは俺。




(ひッ……!? どっ、どど、どうすれば……どうすればいいブウゥ……!!)




 大慌てしていたせいで、頭の中で並べた言葉さえも語尾がブウになる。

 あまりの恐怖で足が震え、どうすることもできない。



 そう、ここは大自然のど真ん中。

 更に言えば、異世界という何もかもが未知の大地。

 こんな巨大な狼はおろか、どんなモンスターが出ても不思議ではないはず。



 そんな中で俺は愚かにも、武器一つもたず、丸裸の状態でやかましく泣き喚いていたのだ。

 獲物を狙う存在からしたら、まさに襲ってくださいと叫んでいるようなものだったのだろう。

 この狼たちは、集団で襲い掛かることで俺を「狩れる」と見積もったようで、こうして群れを率いて取り囲んでいる。


 先頭を歩く狼は、すでに草原から河原の石地へと到達している。

 その速度にあわせて、左右に展開している別の狼たちも俺を逃がさないようにと川べりに陣取った。

 もはや包囲網は完成しており、あとは徐々に距離を詰めればその爪と牙は容易に届く。



「ヴヴヴヴヴ……!」



「や、やめてェ! ……こっちに来るな! 来るなブウ!!」



 狼が発しているうなり声が幾重にも耳に届くほど近づいてきた。

 俺は少しでも身体を大きくみせようと、両腕をいっぱいに広げてばたつかせてみるが、4本足の団体さんには全く通じていないようだ。


 そんなものなど目に入らないかのように、不気味な笑顔にさえも見えるほどに口の端まで牙をむいた狼たちが、後ずさる俺を容赦なく追い詰める。





 逃げ道はもはや、背後の川の中しかない。

 そう思った次の瞬間、正面の狼の顎がガパリと大きく開いた。


 獲物の肉を噛みちぎることに特化した牙を見た瞬間、俺は青ざめ叫んだ。





「いッ、嫌だブウーーーーーーー!!!!!」




 俺は恐怖のあまり、狼たちに背を向けて川の中へと逃げだした。

 浅い川底をバシャバシャと踏みつけながら逃げ始めた俺を見て、背後の狼たちが一斉に駆け出す気配を感じる。

 後ろを見る余裕などない、見る勇気もない。

 両腕をもがくように振り回しながら、無様な恰好で逃げ続ける。




「ぎゃああああああ!!! いッ、嫌だ!嫌だ、嫌だ、嫌だブウウウウウウ!! 死にたくないブウウ!!!」





 恐怖で足が思うように動かない。

 懸命に逃げているはずが何度もよろける。

 水底の石に生えた苔がぬめり、踏ん張る力がほとんど効いていない。

 そうこうしているうちに背後の狼の足音が、河原の小石を蹴る音から水音へと変わった。

 背中からいくつもの水を蹴る音が響いてくると同時に、おぞましい鳴き声が発せられる。


「ガウッ! ガァァァアアア!!」

「ヴァウ! ヴァウヴァウッ!!」



「うわぁぁア"ア"ア"ア"ア"!! 嫌だァ! 助けてブウ! 誰か助けてブウウウウウウウ!!」




 涙声になりながら必死になって対岸に向かって助けを乞うが、その声は誰にも届かない。

 狼たちは、緑色の肌を持つ獲物目掛けて一斉に距離を詰め始める。



 がむしゃらに足を踏み出した瞬間、ほかの水底よりもやや深くなっていた窪みに足を取られて、ついに俺は水中に転倒してしまった。

 腹から水に落ち、膝を思いっきり石に打つ。

 水へと倒れ込んだことで豚鼻から大量の水が鼻腔の奥まで入り込む。水をかぶった瞳が視界を奪われ、立つことすらままならない。



「ぶはぁぁあッ! あああッ……!! 嫌だァァ! まだ死にたくないブウ!!」




 思わず、天を仰ぐ。




「まだッ、まだ俺は何もしていないブウ!!!」




 力いっぱい、青空へ叫ぶ。






「……この世界でも……この姿でも生きて行こうって、決めたんだブウウウウ!!!!」





 すぐ背後に殺意。

 ついに振り返った俺のわずか数メートル先には、すでに牙をむき出しにした狼が迫っていた。

 その四つ足は水を蹴飛ばし、尻もちをついている俺に向かって驚くほどの速度で飛び掛かってきた。



「ガアアアアアアアアアアアア!!!」




 空中へと飛び上がった狼が、まさに噛みつかんとする映像がスローモーションのように流れる。


 最初の1匹が狙っているのは、恐らく腕。


 まず反撃を防ぎ、行動を封じ、致命傷を与えるのだろうか。


 すぐ後ろにも別の狼が迫っているのが見える。


 あぁ、自分は数秒後には引き裂かれるのだろう。


 この牙に、この爪に────





「うわあア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"!!!!!!!!」





 ガフッ、という音とともに右腕に痛みが走る。




 噛まれた、間違いない。

 あの顎と牙では、腕など骨ごとかみ砕かれてしまうに違いない。

 まもなくこれと同じことが全身で行われ、8匹もの狼に肉という肉を食いちぎられる。

 俺は恐怖に耐えることができず、目を瞑っていた──




 しかし





 バシャアアアアアアアアアン!!



「ギャフッ……!」






 大きな水音とともに、短い悲鳴が聞こえた。






「えっ……?」




 何が起こったのか。

 恐ろしさで閉じていた目を見開く。



「な、何だブウ…………!?」



 そこには、10メートルほど先にびしょ濡れになって半身を水に沈めている狼が1匹と、その周囲には先ほどまで恐るべき早さで迫っていた他7匹の狼が立ちすくんでいた。

 全員がこちらに敵意を向けてはいるものの、すぐに飛び掛かってくるような雰囲気はない。




「えっ? えッッ!?」




 ふと、じくりと右手に痛みを感じる。

 目をやると、手首のあたりに狼に噛まれたのであろう歯形がくっきりと残っており血がにじんでいる。

 大型の獣特有の歯並びが容易に見て取れる、恐ろしい歯形が───


 が、それだけだった。


 傷はごく浅く、牙が深々と食い込んだような形跡はどこにも見当たらない。

 骨をかみ砕かれたような異常な痛みもない。手首も、その先の指も動く。

 あの強靭な顎と牙で噛まれれば、”普通の人間だったら”この程度では済まないはずだが────




「……こ、これって……もしかしてブウ……」



 じり、と心に希望の光が灯る。


 おそらく、最初の1匹は間違いなく俺の右手首に噛みついたのだろう。

 だがオークとなった俺の腕は人間の頃とはくらべものにならない程の固い皮膚と筋肉に覆われており、手首のような細い部位であっても貫通することはできなかったのだ。

 そして恐怖で無意識に振り回された俺の腕は、噛みついた狼の咬合を振りほどき、10メートル先の水面へと投げ飛ばした。







 この身体は


 女神が授けた、この醜い身体は────





 大型の狼など、敵ではないのだ。






「こ、これすごいブウ……戦えるブウ!!」



 周囲の狼は、食い殺す予定だった獲物の突如の反撃に戸惑っているようだった。

 全員で襲い掛かるつもりだったようだが、投げ飛ばされた仲間の狼を見て尻込みをしたのだろうか。

 しかし誰よりも戸惑っていたのは俺自身で、自らの力を実感できずに震える両手をみつめていた。



 はっと我に返り、今自分が襲われていることを思い出す。

 この身体なら、戦えるかもしれない。

 そう感じ、震えていた両掌をギュウっと握りしめる。


 凄まじい膂力を感じる。

 拳の中で固い皮膚がこすれる音がする。

 同時に、前腕の筋肉がモコリと膨らみ、血管が浮き出る。

 上腕も、肩も、大胸筋も、次々と力がみなぎる。





「よォォォォし、かかってこいブウウウウウ!!!!!!!」





 こう叫んだ瞬間、俺の中でなにかのスイッチが入った。


 右足を川面へ一歩踏み出す。

 水底をドズンと踏み抜いた振動は周囲へと伝わり、まるで小さな地震が起きたかのような衝撃が走った。

 ストンプと同時に舞い上がった水霧の向こうから、反撃を決意した俺の────恐るべきオークの顔が現れた。



 その姿は逃げまどっていた先ほどの無様な様子からは掛け離れており、まさに物語に出てくる獰猛なオークそのものだった。

 みるみる上がっていく体温は吐き出す呼気に乗り、牙の隙間や豚鼻から勢いよく湯気になって放たれる。

 恐怖で震えていたはずの手足は戦闘体勢になった身体の交感神経が齎す武者震いへと変わり、己に戦いを挑んできた敵を見抜くその目は、動脈血のごとく赤く光った。



 先刻までとは正反対に、突如変貌した獲物に恐怖した8匹の狼は、その身に向けられた反撃の意思に怯え毛を逆立てている。

 もはや目の前にいるのは狩りの対象ではなく、絶対に逃げなければならない敵だ。

 しかし先頭を切って飛び掛かった後、水面に叩きつけられたリーダー格の狼はまだ撤退の指示を出せずにいた。

 そんな事情などおかまいなしに、俺は狼たちへ更に一歩踏み込む。

 すると、思わず反撃のために、近くにいた1匹の狼が飛び掛かってきた。




「ガウウッ!!」


「効かないブウウウウッ!!!」




 視界の端にその攻撃を捉えていた俺は、左手でその跳躍を受け止めた。

 狼は受け止められながらも肩に噛みつこうと口を開けたが、俺は左手で触れていた狼の前足をつかみ、そのまま足元の水底へと狼を叩きつけると



「どりゃあああああブウウウ!!!」



 俺は狼の上へ、勢いよく尻から落ちた。

 ヒップドロップである。



 ドバシャアアアアアアアアアアアアアアアアン!!



 流線形で大質量の尻が落下したことにより、周囲には隕石の落下を思わせるほどの見事な円形の水しぶきがあがる。

 水の中で尻の直撃を受けた狼はそのまま




「はっはっはー! どうだ! 効いたかブウーー! ……………あ、あれ!?」




 水中で動かなくなった。




「え、えぇぇぇえ!? やりすぎたブウーーーー!?」



 自分では散々追いかけられた仕返しにちょっと反撃をしただけのつもりだったが、勢い余って絶命させてしまったようだ。

 こちらが先に命を脅かされたとはいえ、意図せず生物の命を奪ってしまったことに対しとてつもない罪悪感に襲われる。


 ヤバい、この身体は力の加減が全くできない!

 いや、まぁ……こんな巨大な肉の塊が上に落ちてきたら無事では済まないのは当然なのだが。




 仲間を殺される様を見て怒ったのか、続けてもう1匹の狼が襲い掛かってきた。




「ま、待つブウ! ごめんブウ! 殺すつもりは無かったブウーーー!」





 真正面から勢いをつけて走ってくるが、今度は十分に距離があったため俺も迎撃態勢を取る。

 やってくることは前の2匹と同じ。空中に飛び跳ねて噛みついてきた。




 ガブウッ!



「あ"ァ痛たたたたーーーー! 痛いブウーーーー!!」



 今度は手首ではなく掌を噛まれた。

 いくら皮が頑丈でも、びっしり生えた狼の歯で噛まれれば、痛いものは痛い!




「ああああああ、やめてェ! やめてブウ! 止めッ…………!!」




 ブオオオオオオン!!!



「ガ、ウ…………!」



 狼に掌を噛まれているという恐怖感のせいで、必死に振りほどこうと噛まれた腕を大きく振るう。

 噛まれていないほうの手で狼の首ねっこをつかむと、そのまま強引に引きはがし放り投げた。

 すると、剛腕による投擲力に加え振りほどいた際の遠心力が乗った狼の身体は、まるで水切り石のように勢いよく水面に叩きつけられながら飛んでいき



 バッシャアアアアアアアアン!!!




 最初に振り飛ばしたリーダー格の狼よりもはるか遠くで着水し、やはり動かなくなってしまった。





「あ…………ああああああ! ま、またやってしまったブウウウウ!!!」





 ふと、自分がマンガで見た『異世界転生』モノの主人公のようなセリフを吐いていることに気が付いた。


 しかし「無意識に狼を虐殺しちゃう系主人公」など、あまりに人聞きが悪すぎる。

 今回はあちらから俺を食い殺そうとしてきたので、きっと正当防衛だ、許してほしい。







 襲い掛かった仲間が蹂躙されたことで恐怖したのか、ここでようやく残っていた狼が逃げ出し始めた。

 キュウンキュウンと情けない鳴き声をあげながら全力で逃げていく。




「あ!? お、終わったブウ……!」




 全力で逃げていくその後姿を見ていた俺だったが、追いかけるつもりはもうなかった。

 先ほどの自分の逃げっぷりから察するに、このオークの身体は強靭な筋力を持ってはいるものの、素早く動くのは苦手としているようだった。

 きっとここから全力で追いかけたところで、彼らには追い付けまい。


 周囲には水に沈んだ2匹の狼の死骸と、半身不随のまま動けずにいるリーダー格の狼が残っている。



「ふうッ……ブフッ……ふううううッ……」




 戦いが終わった。

 頭ではそう理解しているはずなのに、身体が熱い。

 「戦う」と決めてから、身体が凄まじい変貌を遂げたのを自分でも感じた。

 オークの身体は一度戦うための火がつくと、元の状態に戻るまでかなりの時間がかかるのかもしれない。

 俺は荒ぶる息を抑えられないまま、水に浸ったままの最初に襲い掛かってきた狼のところまで歩いて行った。





 先陣を切って戦いを仕掛けたにも関わらず、相手の反撃を受け動けなくなった狼。

 恐らく俺に吹き飛ばされたときにどこかを打ち付けたのだろう、逃げようとするそぶりは見せるものの未だに立ち上がれないようだ。

 周囲にはすでに仲間の狼の姿は無く、完全に見捨てられてしまったようだ。



「こいつが一番槍をいれたのに、見捨てていくなんて酷い仲間ブウ……」




 しかし、自然の中で生き残るには手負いの仲間を見捨てていくのはある意味正しい姿なのかもしれない。

 仲間を助けるために全員で挑んで全滅でもしたら、その群れは潰えてしまう。

 無情にも思えるが、彼らは本能でその選択ができる。


 そう思うと、この異世界にも自分の住んでいたもとの世界に通ずるものがあるように感じ、嬉しくなった。




 俺がすぐ目の前まで来ると、リーダー格の狼は死を覚悟したかのように動きを止めてしまった。

 耳は垂れ、瞳は伏し目がちになりながらこちらがとどめをさすのを待っているようだ。



 どうすればいいのだろうか。

 俺のせいではあるが、どこか深刻な怪我をしているのであればここで見逃したところで待っているのは自然淘汰かもしれない。

 そうなれば、無駄に苦しむことのないようにここで介錯してやるべきで、当然それは俺がすべき。


 なのだが────





「ごめんブウ、やっぱり俺は殺すのは嫌ブウ………」





 俺はすっかりおとなしくなってしまった狼を水から抱き上げると、そのまま広葉樹の林へと歩いて行き、草の生い茂った上へそっと置いた。

 獣医ではないので詳しいことはわからない。

 だが、腰や首のあたりを抱えても痛がる素振りをみせなかったので、背骨や骨盤などの重要な部位に外傷は及んでいないようだ。

 運が良ければ野生動物の回復力で、元通りになるかもしれない。


 草花のベッドの上に置かれた狼は、ハッハッと舌を出しながらこちらを見上げている。




「お前も俺のこと襲ったし、お互い様だブウ。もし生き延びても、次は襲わないで欲しいブウ!」




 言葉が伝わるなどとは思えないが、おとなしく横になっている狼に対して語りかけてみた。

 こんな時、異世界転生で魔法を授かった主人公のマンガなら──



「傷よ、治れブウ────!!」



 狼の後ろ脚あたりに手をかざし、あたりさわりのない呪文を唱えてみる。

 残念ながら光もなにも出ず、狼に何か変わった様子などもない。

 周囲には相変わらず草花が風に揺れている。空気がすこし冷たさを増したように感じるのは、自分が水に濡れているせいか、もしくは夕方が近いのかもしれない。



「……はは、ごめんブウ。やっぱり魔法は使えないブウ! じゃあねブウ!」





 魔法不発の照れ隠しもあり、俺はそのまま立ち上がり、再び川のほうへと歩き出した。



 草むらで、命を助けられた狼はしっぽを振りはじめたのだが

 俺はそれに気づくことは無かった。




※戦闘時の生物が絶命する描写がレーティングに抵触する可能性がありましたので、

 全体的に柔らかい雰囲気の文章に修正致しました。(2020.09.16)

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