第1話
転移をしたあとのなんとも言えない感触が全身を襲う。
俺は転移の鈴というこれまでに訪れた街に一瞬で移動出来るアイテムを使い
はじまりの街に来た。このはじまりの町は文字通り
このゲーム【OBC】を始めるにあたって、最初に訪れる街だ。
サービス開始から3年たった今もこの町は賑わっている
自慢じゃあないが、俺はこのゲームでそこそこ強い。
ではなぜ、この初心者が集うはじまりの街に来たのか
それはーー初心者狩りを防ぐためだ。
初心者狩りとは、初心者を騙す行為を指す。
半年前に初心者狩りがだいぶ減ったが、最近また増え始めた。
その手口はまず初心者をダンジョンまで誘導し、探索する。
すると宝箱が発見されるのだ。なぜならビギナーズラックとやらで
ダンジョンに初めて入った者は宝箱が必ずあるシステムが存在するからである
なぜそんなシステムがあるのか。要はパチンコなどの賭け事と一緒さ。
1度当たりを引くと、もう1回迷宮に足を運ぼう。ってなるだろ?
少し話は反れたが、それで宝箱を発見したら、その宝箱の中身を奪うんだ。
それで初心者は泣き寝入りってわけ。俺はこの行為を許せない。
だからこうして度々初心者を守っている。
そのおかげで【初心者狩りを狩る者】なんてクソダサい二つ名まで貰う羽目になった。...略して狩り狩りだそうだ。....ほんとにだせぇ。
誰だよこんな名前付けたやつ。俺は心からそう思っている。
まぁ何がともあれ、なぜ俺がこんな事をしているかと言うと
俺が初心者だった時助けてもらったんだ。初心者狩りから。
別に親が殺されたとかそんな大それたものじゃあねえ。当たり前だけど。
ただあの守ってもらった時のあの頼もしい背中は忘れやしない。
あの厳つい鎧に包まれていて、大剣を軽々しく振り回すあの人は
言うてみれば、俺の憧れのような人だった。
颯爽と現れ、次々と俺を嵌めようとしたやつらを倒していく
あの様は目に焼き付いている。ただ、別にその人の真似ってことで初心者狩りを狩っているわけじゃない。俺を助けたのはただの偶然だそうだ。
あの人は今も前線で強力な敵と戦っているだろう
ーーこんな始まりの街でくすぶっている俺とはちがってな。
そりゃそうだろう。プレイヤーランキング上位のプレイヤーが
こんなはじまりの街で初心者狩りをするような雑魚を倒しているのだから。
とは言っても俺だって前線に行くことはあるけれど
基本はこうやってはじまりの街で目を光らせている。
と、こんな話をしていると発見した。
初心者狩りを行おうとしているやつだ。
バンダナの男が女性プレイヤーに話しかける。
女性プレイヤーは治療師の初期装備を装備していて、
辺りをきょろきょろと見回して、オロオロとしている。
そんな動きをしていたらたとえ初心者じゃなくても間違えられても仕方がない
まあ十中八九初心者だろうけど。
別に無理もない話だ。このゲームにはチュートリアルとやらがない。
キャラメイキングをしたら、このはじまりの街の街へと放り込まれるのだ
メニューのヘルプにはどうしたらいいかある程度は載っているが
それもプレイヤーに通告しない不親切設定。
ほんとにはやくチュートリアル追加するなりなんなりして欲しいものだ。
そうすると、初心者狩りする輩も減るはずなのに。
あのクソ運営に何回フィードバック送っても一向に修正される気配がない。
おっと。今はクソ運営の話に時間を取られている場合じゃねえ。
今はバンダナの男を追わないと。
あの男と女性プレイヤーがなにか話している。
俺は聞き耳スキルを発動し、聞き耳をたてた。会話がはっきりと聞こえてくる
「ねえ。君初心者でしょ」
「え!!よくわかりましたね!!」
「...そりゃ分かるよ。それでこのおじさんが手ほどきをしてあげるよ。
このゲームチュートリアルないから分からないでしょ?」
「え。。ほんとですか!!ありがとうございます!!」
ここからだ。ここでダンジョンに誘ったら黒確定だ。
普通初心者は簡単なクエストをこなして、装備を整えてからダンジョンにいく
「じゃあダンジョンに行こ」
はい。黒確定。
「え!!いきなりですか?」
「まあ大丈夫。仲間もいるから」
仲間..初心者狩りの仲間など所詮雑魚だろう。
多数VS俺でも負ける気はしない。
「じゃあ着いてきて」
さて。俺もついて行きますか。
冷たい風が吹いた。なにか嫌な予感がしたような気がしたが
気にしないことにした。が、こういう予感は割と当たるものだ。
とにかく、今は最前を尽くそう。