第8話 友達を作りたい
第8話 友達を作りたい
僕は、高等部2年の教室へと行く。
初日と第一印象が大切だから今日は頑張る。
初日から男であることだばれないためにも身だしなみ、言葉、所作の3つは気を付けたい。
鏡の前で1回転する。
「服装よし、女装よし、ウィッグの具合も問題なし」
自分の教室へと急ぐ。
念を入れて身だしなみを整えていたらちょっと遅くなった。
教室の扉を開けて中に入る。
すると教室内にいた生徒が一斉にこちらを向く。
こういうの苦手なんだよなぁ……。
「あの子が、アリシア先輩を倒した人なの!?」
「可愛いぃぃ!!」
「あれが【断罪の剣】を倒した人ね」
いろんなことを囁き合っている。
そういえば席はどこなんだろうか。
教室を見渡してみると真ん中に誰も座っていない机と椅子があった。
えええっ!! 真ん中!?
すごく入りにくい。
知らない群衆という名の海にある絶海の孤島。
そんな感じだ。
が、教室の前でいつまでも立っているわけにはいかず硬直しかけた足を前に出して歩く。
そばを歩くだけで何人かの生徒が後ずさった。
歓迎されてない。
もうもといた学校に帰りたい。
こうして新しい学園生活は幕を開けた。
しばらくすると教師が入室してきた。
「おはよう」
眼鏡でクールな感じの女性だった。
キャリアウーマンという言葉を擬人化しましたみたいな感じの女性だ。
「「おはようございます」」
教室で雑談をしていた生徒たちが雑談をやめて挨拶を返す。
「えーと…名前は何だったかな……そうだ聞いてなかったか、特待生はどこに座っている?」
その言葉に待てしてもクラスメートの視線が突き刺さる。
その目線の先から先生も僕を見つけたらしかった。
「名前は……アンナです」
口から出まかせを言った。
名前なんて考えてなかったっけ。
「皆さん、せっかく外部から彼女のようにレベルの高い生徒が転校してきたのですからこの機会に彼女からいろいろ学ぶようにしましょう」
うわ……これを機にほかの生徒と話すことはできそうだけど僕から何かを学べっていうのもちょっとプレッシャーかな。
授業中も突き刺さる視線を感じながらだった。
「本当にキツい。まるで針の筵だ」
授業の内容はさっぱし入ってこない。
僕は、耐えかねて机に突っ伏してしまう。
そこへ、声がかかった。
「アンナさんといいましたか?」
声をかけてきたのは優しそうな銀髪の女の子だった。
少し妹に似てるかな。
「はい、失礼ながらあなたは?」
少女はニコッととしてこたえる。
「エリーナ・クシャトリヤです。なんか困っていることはありませんか?」
貴族の令嬢か。
「…実はもう視線が気になって落ち着いて授業を受けれませんでした」
慣れない環境で慣れない多数の視線。
今さらながらに、もといた学校に戻りたいと思った。
「そうですよね。なので私が…必要でしたら勉強を教えます。…その代わりに…私に戦い方を教えてくれませんか?」
最後の方は、少し恥ずかしそうだった。
「それだけで、私に勉強を教えてくれるのですか?」
「それだけなんてことはありません。そんなにも、です」
しかし、戦い方といわれてもな……。
僕は、ほぼ直感と、本能で戦っているからな…うまく教えてあげられるかどうかが心配だ。
「いつからですか?」
「アンナさんのよろしいときに」
テストが近いのでなるべく早く復習はしておきたい。
「じゃぁ、きゅからでもお願いできますか?」
「はい」
エリーナ・クシャトリヤは、ニコッと笑みを浮かべると自分の席に戻っていった。
授業の開始を知らせる予鈴が鳴った。
昼食は、仲のいい人同士で自由に食べれるので唯一今日話したエレーナと同席した。
この、学校の食堂はメニューが豊富で目移りしてしまう。
どれもおいしそうだ。
まぁ、これから長くここにいることになるから全部を食べることは可能だ。
本日のおすすめは、牛肉のワイン煮込みらしく食堂を見渡せばそれらしい料理を食べている人が多く見受けられる。
なので僕もそれをオーダーすることにした。
やがてテーブルの上に邱氏係が運んできてくれたそれは、大きくいい香りがした。
これは、見た目がもうおいしい。
ナイフで一口サイズに切って口へと運ぶ。
口の中で噛むとワインの風味と肉汁が同時に爆発した。
「おいひい」
思わず口に出てしまった。
一緒にいたほかの生徒が物欲しそうな眼で覗き込んでくる。
「はいどうぞ」
僕は、同じように適当なサイズに切り分けたそれをみんなの皿に配った。
「ありがとう」
「おいしそう」
これで、友達作りはいっぽくらい前進しただろうか…?
「お礼です」
すると、牛肉のワイン煮込みをあげた生徒たちからそれぞれの料理が切り分けられて僕のお皿に置かれた。
白身魚とハーブのポワレ、合鴨のパストラミ、地鶏の香草焼き。
どれも、本当においしい。
「口の中で踊っているようです」
ハーブは、多種多様な味わいをもたらしパストラミは胡椒でピリリと、地鶏は食感が普通の鶏肉とは別次元だ。
「おいしいようで何よりです」
少女たちは、自分っちの料理を切り分けて分け合い始めた。
……大事なことに僕はそのとき気付いた。
…こっこれは、間接キスではないのだろうか?
少し意識しただけで顔が赤くなるのが分かる。
みんな、僕が床でごめん。
「顔が赤いですよ…?」
エレーナが心配してくる。
「いや…あまりにもおいしかったもので」
「おいしいと顔が赤くなるんですね。フフフ」
少女たちは笑い始めた。
なんだか、ここでもそれなりにうまくやっていけそうな気がする。