第7話 模擬戦闘
第7話 模擬戦闘
そして朝がやってきた。
この日は特待生としての実力を示すために模擬戦闘を行う日である。
軽めに朝食をとりストレッチや体操をして体をほぐしておく。
学園寮での朝なので今までずっと一緒にいた妹の声が聞こえないのは新鮮でありちょっと寂しくもあった。
鏡の前で、女装がしっかりできているかを確かめる。
「問題ないかな…」
時間までまだ15分ほどの余裕があったが会場の演習場まで移動することにした。
演習場までの道を歩いていると学園の生徒などの天空騎士団の女子たちに好奇の目で見られる。
そんな中、声をかけてくる少女がいた。
「おはようございます。頑張ってくださいね。応援してます」
銀髪の少女、アスラだ。
「はい、応援ありがとうございます。頑張ります」
とりあえず女の子らしい声色で返しておく。
その後、控室に入るとエマニエ司令官がいた。
「いよいよだな。緊張しているか?」
「いえ、そこまでではありません」
「そうか、ならいい。いぇきどな緊張感は欲しいがあまり緊張していると実力は発揮できん。健闘を祈るぞ」
司令官はそれだけ言うと控室を後にした。
部屋には自分だけ。
頭の中で戦い方を練る。
相手のことを知らないとどうしようもないがパターンを想定しておくことは大事なことだ。
時間を迎えて控室を出る。
演習場の端には天空騎士団の関係者が集まっていた。
視線が集中する。
演習場の中央に設置されていた少し高くなっているスペースに登る。
「彼女が特待生の……失礼した。彼女が特待生として私が招いた学生だ」
エマニエ司令官の声が拡声器によって演習場の中に響く。
そういえば、名前をまだ考えていなかったっけ。
さすがにこの場で男の名前は言えないもんな。
「今より彼女には特待生としての実力を示してもらう。対戦相手はアリシア・クライシスが務める。皆には特待生としての彼女の実力を見極めていただきたい」
その声にこたえるように上空から武装した金髪の少女が降り立った。
長身の少女だ。
学園寮に泊まっていた数日間で小耳にはさんだ話ではあるがアリシア・クライシスは、各国の空戦部隊の中でもトップクラスの実力を持つ少女らしく【断罪の剣】という二つ名を持つ実力者らしい。
その名の由来は、王都にいた犯罪グループの約15名あまりを相手取り治安維持隊につき出したことにある。
「紹介にもあった通り3年のアリシア・クライシスだ。あなたの特待生としての実力、見極めさせていただく」
意志の強そうな眼をしている。
「はい、よろしくお願いします」
軽く礼をした。
そのタイミングを見計らっていたかのように拡声器からエマニエ司令官の声が演習場へと響き渡る。
「それでは、これから模擬戦闘を始める。両者ともに上昇せよ」
「飛翔せよ、フリューゲル!!」
アリシア・クライシスはこちらに一瞥くれると上昇していった。
その後を追うように自分も上昇する。
「飛翔せよ、フリューゲル!!」
地面を蹴って上昇する。
アリシア・クライシスは高度100mほどのところに待機していた。
彼女の武器は、〈ヤークトタイプ〉の装甲なので魔導銃だ。
それを2丁携帯している。
しかし、構えているのは1丁だ。
おそらくもう片方はリロードする時間に使うのだろう。
こちらも武器を構える。
魔導銃とやり合うのは初めてだ。
そこに、頭部装甲内に内蔵されている通信機器から通信が入る。
エマニエ司令官の声だ。
「2人とも聞こえているか? 判定はどちらかの降参、または戦闘不能か武器が使用できなくなった場合とする。準備はいいな?」
「はい」
アリシア・クライシスの応答する声が聞こえてくる。
なのでこちらも慌てて返事をする。
「はい」
「よし。では……模擬戦闘、開始!!」
その声とともに空砲が放たれた。
「3点バースト」
タン、タン、タンッと魔導銃が放たれる。
こちらに向かって3本の火箭が迸る。
「加速せよ、アクセレラション!!」
3本の火箭を避けて距離を縮める。
すぐ横を火箭が通り過ぎていった。
あと30mで剣の間合いに入れる。
しかしアリシアは寄せつけまいと魔導銃を連射する。
ダダダダダダッ!!
「回避は無理か!?」
剣に魔力を付与して撃ち出される魔弾を斬る。
そのまま弾と当たれば剣は砕けてしまう。
砕ければ、そこで模擬戦闘は終了だ。
魔弾を斬ると斬られた魔弾は爆発を起こす。
魔弾の威力の強さは、使用者が事前に込めておいた魔力を撃ち出すものなので使用者の魔力の強さで威力が変わる。
相当にアリシアは魔力があるのだろう。
「くっ……」
魔弾は斬るか避けるかしたが爆発までは避けることができずに巻き込まれる。
爆炎の中を抜けて気が付けば肩口の装甲がそがれていた。
そしてわずかながらに血が滲んでいる。
「墜ちろ、すべてを滅せよ、ファイアーライセン!!」
ひときわ大きな魔弾が撃ち出される。
あんなのに当たったらこちらの命はないだろう。
「魔を振り払いう障壁をなせ、フィーア・アンチマギーシェル!!」
対魔法の障壁を4枚重ねる。
そこへ着弾。
4重の障壁が1枚ずつ破れていく。
破れないように、魔力を注いでいく。
そして最後の1枚。
かろうじて、防ぎとめた。
「今のを防ぐか……評価を改めないといけないな」
アリシアは、今までの眼つきと変わっていた。
強敵を見る眼になっていたのだ。
かなりの魔力を消費した。
持久戦はできそうにない。
早いうちに何とかしなけらばな。
あの攻撃を同じように何回もしのぐだけの余裕はない。
次の攻撃で終わらせる。
そのためには2丁の魔導銃の弾が尽きたところを狙うか銃を破壊または奪うしかない。
弾が何発撃てるかもわからないので弾が尽きるまで待つというのは確実性に欠ける。
確実なのは奪うか破損させるかだろう。
「加速せよ、アクセレラション!!」
最高速度で突貫する。
「うおぉぉぉぉっ!!」
声が女の出す声じゃなかったがそんなこと気付く暇さえないだろう。
「くらえ!!」
対するアリシアも魔導銃を連射する。
ダダダダダダダダッ!!
無数にほとばしる火箭。
あまりにも数が多い。
全てを避けるのは難しい。
肩口や腕の装甲や脚部の装甲に被弾する。
しかし、こちらの速さを捉えられてないのか致命的な命中弾はない。
「なぜ、当たらない!?」
アリシアの焦る声が聞こえる。
距離はそんな距離だった。
「当たれ!!」
持っていた剣を擲つ。
アリシアはそれを体をひねって避けた。
そこに一瞬の隙が生じる。
「くっ!! こんなもの!! 何!?」
アリシアの注意を擲った剣に向けておいてその間に、カイト・シールドを突き出し体当たりする。
「ぐぁ…!!」
アリシアはそれを腕にくらい苦悶の声を上げる。
それでも、カイト・シールドにゼロ距離で魔弾を撃ちこんできた。
カイト・シールドが弾け飛ぶ。
撃たれる前に手放していたが魔弾の爆発に腕が巻き込まれ感覚がなくなった。
しかし、それは至近距離で爆発に巻き込まれたアリシアも同じ。
爆炎の中へと突っ込み残った唯一の武具である右腕のパイルアンカーを構える。
そして、アリシアの魔導銃に思いっきり突き立てる。
アリシアがもう1丁の魔導銃を握るまでの刹那の間だ。
直後、ズドーンと腹に響く振動が起きる。
パイルアンカーを突き立てた魔導銃が爆発したのだ。
あまりの至近距離での爆発に意識が一瞬とびかけた。
その間に体は落下を始めていた。
爆発の閃光でやられて上手く、明るさを調節できていない視界には同じように落下していくアリシアの姿が映った。
このまま落ちれば2人とも体はバラバラになってしまうだろう。
「……うっ…飛翔せよ…フリューゲル……」
とびかけた意識をつなぎ≪飛翔魔法≫を行使する。
あと地上まで30mほどか。
アリシアまで近寄り抱きとめ、演習場中央にある少し高いところへと向かう。
疲労した体、神経には少し応えたが、よろめきながらも着地。
そっと腕に抱いていたアリシアを横たえて立ち上がる。
そして右手を天高くつき上げる。
それは勝者の義務のようなものだ。
相手に敬意を払いつつも、自分の勝利を示すための行動。
演習場には、見ていた天空騎士団関係者たちからの拍手や歓声が響いた。