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天翔けるヴァルキュリアス  作者: 袋石ワカシ
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第4話 総司令官と対面です



  第4話



 

 休日になった。


 「これで問題ないかな?」


 鏡の前で自分の姿を確認する。

 その姿を、女である妹に確認してもらうのだ。


 「兄さん、女装もいけますね。可愛いですよ? でも、ひとつだけ問題があります」


 妹は問題の箇所をビシッと指さした。

 そこは、しょうがないんじゃないかと思ってしまう。


 「さすがに去勢はダメですけど胸くらいはどうにかしたいですね」


 どうしたものか、確かにこのままでは女性らしさに欠ける。

 すると、ニナが何かを思いついたのか自分の部屋へと入っていった。


 「兄さん、これをつけてみましょう」


 渡されたものは2枚のそれなりに膨らみのある曲線的な板だった。


 「えっこれは?」

 「パットです。わっ私がつけているわけではありませんから。ちょっとこれを着けてみてください」


 ニナのでなければ慌てる必要もないいだろうに。

 ゴソゴソと服をめくって差し入れるようにつけてみる。

 その間、妹は目を手で覆っていたが開かれて指の隙間から見ているのはまるわかりだった。

 

 「そういう仕草も女らしくしてください」

 「えっ?見てたの?」

 

 ちょっといじってみる。


 「いや……見てたわけじゃなくて…その、何となく音から察することができて……」


 ふ〜ん、音からね。

 

 「ま、とにかもかくにもこれで少しは年相応の女らしくなりましたね」


 論点のすり替えをする妹。

 

 「じゃあ、そろそろ行ってくるから」

 「飲料とか食料、その他小物はそのバッグに支度しておいたのでそれを持って行ってください」

 

 そう言って、小さなバッグを手渡してきた。

 荷物はニナが用意してくれたのだ。

 気が利く妹で助かる。

 僕が抜けているところを補ってくれるのはいつもニナだ。

 

 「行ってきます」

 「行ってらっしゃい」

 「飛翔せよ、フリューゲル!!」

 

 体が宙に浮く。

 そして、上昇。

 下を見ると、段々遠くなる家の庭先でニナは手を振っていた。







 家から天空騎士団の演習場までは空を飛ぶとあっという間である。

 上空に着いたので高度を下げる。

 そして地表近くでほんの少しだけ上昇して着地のときの足への負担を和らげる。

 今はこの動作になれてしまってるので当たり前のようにできるが昔は違った。

 この動作は、何度も練習で失敗しているのだ。

 上昇のタイミングが遅いと地面にそのまま着地することになってしまうし、早いと高いところから着地しなければならなくなるので、足の骨を折ることになる。

 演習場の広い芝生スペースに降りる。

 さて、どこに行けばあの女性にあえるのか。

 

 「名前を聞いておけばよかったな」

 

 どっちに歩いていいのかもわからない。

 まさに右も左もわからない状態だ。

 困った……。

 

 「あの……何か御用でもありますか?」


 すると、後ろから声がかかった。

 いつの間に近くに人がいたらしい。

 そうだ…入り口を尋ねよう。

 そう思って声のしたほうへと振り向く。

 そこにいた人は見覚えのある銀髪の少女だった。

 

 「あ、いや……」


 一応もう一度確認のために顔を観察する。


 「あの…どうかしましたか?私の顔に何かついてるのですか?」


 そう言って少女は顔をぐしぐしと手でこね回す。


 「いや、そういうわけじゃなくて…どこかで見おぼえありますよね?」

 「えっそうですか?ごめんなさい私は覚えがありません」


 そういえば僕は今、女装しているんだっけ。

 

 「あ、ううん気のせい。何となく似ている人を見たことがあったので」


 慌てて取り繕う。

 

 「私、ここに来るの初めてなんですけどここにいる人で金髪で長身の妙齢の女の人に心当たりはありませんか?」


 とりあえず特徴を並べてみた。

 ここで心当たりがない、と言われてしまうとちょっと困る。


 「あ…エマニエ司令官のことですか?」

 「多分その人だと思います」

 

 そんな名前だったのか。


 「どこにいるか、わかりますか?」

 「はい、この時間なら北棟の1階の司令官室にいると思いますよ」


 こんなにも簡単に教えてくれるとは思わなかった。

 いくらエマニエさんに呼ばれているからといって何の取次もなしに天空騎士団演習場の敷地内に入っている僕は、はたから見れば不審人物のはずだ。

 この少女はどこかそういうところがぬけてしまっているのだろうか?


 「あまりわからないので案内をしてくれると助かるのですが」

 「わかりました、いいですよ。しかしなぜ、エマニエ司令官のところに行きたいのですか?」

 「あ…はい、私は今日エマニエ司令官に呼ばれているからです。でもここに来るのは初めてなのでよくわからなくて……」


 

 いくら何でも、こんな形で天空騎士団の演習場に来たのだからこれから入団するとは言えない。

 なので、当たり障りのない範囲で答えておく。

 

 「そうなのですか。司令官からの呼び出しなんて珍しいですね」

 「えっ珍しいことなんですか?」


 あの交渉力ならいろんなところで前回あったときのようにスカウトをしていそうに見えるが珍しいことらしかった。


 「はい、私たちはみんな天空騎士団にあこがれてここへ来るんです。なので司令官に見込まれて呼ばれることはめったにないことなんです」


 そうこうしているうちに建物の入り口らしいものが見えてきた。

 警備兵が2人立っている。

 警備兵は、アスラが生徒なので会釈をして通した。

 アスラの後に続いて僕も入る。

 入ると広々としたエントランスがあった。

 天井が高い。

 入ったところの通路を右へと曲がりしばらく歩く。

 

 「ここです」


 アスラがこちらを向いて部屋を指さした。

 そして扉を軽くノックする。


 「アスラです。お客人を連れてまいりました」


 するとすぐに中から扉が開けられた。


 「君か。すまない迎えに行くのを失念していた。アスラ、彼…いや彼女をここまで連れてきてくれてありがとう。君はもう戻っていい

 「はい」


 アスラはこちらを向いて微笑むと踵を返していった。


 「危うく男であることがバレるところだったな。立ち話じゃなんだから入って椅子に腰かけてくれ」

 「お気遣い、ありがとうございます」

 「なに、呼んだのはこちらだ」


 エマニエ司令官は自ら、紅茶を入れてお菓子とともに出してくれた。

 

 「女装が似合っているな。よく見たら胸のふくらみまで……。君が1人でやったのか?」

 「いえ、妹が協力してくれました。下着から小物まで」

 

 エマニエ司令官が僕の着ていたライトイエローのワンピースの裾をまくり上げ下着を確認した。

 

 「ちょっと、何してるんですか!?」

 「いや、すまない。少し気になったもので。ちゃんと女性用の下着まで来ているんだな」


 エマニエ司令官は少しニヤついていた。

 

 「そういえば自己紹介をしていなかったな。私の名前はエマニエ・ブランドンだ」

 

 エマニエ司令官は貴族階級なのか。

 ブランドン家は侯爵家であったはず。

 

 「君が入団してくれたことに本当に感謝する。現在我が天空騎士団は戦力不足でな。隣国テルム共和国相手だと一人当たり3人を相手にしなければならないくらいの戦力不足なのだ」


 やはり戦争が近いのだろうか。


 「両国の関係はうまくいっていないのですか?」

 「……そうだ。戦争になる事態だけは何とか避けたいが備えはしておく必要がある」


 なるほど、それで≪飛翔魔法≫の行使できない一般兵にもフルークアーマーを装備させて天空騎士として訓練させているのか。

 かなり、軍備増強を急いでいる様子からすると相当に両国関係は緊迫しているのだろう。


 「では、あのアーマーは、そのために?」

 「ああ、そうだ。≪飛翔魔法≫の行使できない一般の人間でも天空騎士団に入団し、戦うことができるようにするためだ。しかし、魔力の≪飛翔魔法≫へと換える交換効率があまりよくないので時間制限があるが」


 技術の発展と文化の進歩は戦争によっておこる。

 そんな気がした。


 「では、もっと量産して天空騎士団の戦力を増やすわけにはいかないのですか?」

 「もっとフルークアーマーを生産できないか?ということだな。しかし、軽くて丈夫なフルークアーマーに使用できる金属は限られている。オリハルコンは、この国では取れないから輸入に頼らざるを得ない」


 オリハルコンは、軽くて硬い金属の代名詞ともいえる金属であり武具なんかに使われている。

 この金属は南の海洋国から輸入されているが埋蔵量が少ないため近年とても高価になってきている。

 

 「代用できる物はないんですか?」

 「金属としてはある。例えば、アダマンタイトやヒヒイロカネ、ミスリルがある。しかしこれらも輸入が困難な状態だ。一方、隣国テルムはアダマンタイトの鉱脈があるので輸入する必要がない。だから3倍近くの兵力差ができてしまった」


 アダマンタイト決して軽いというわけではないが硬い金属である。

 ヒヒイロカネは東方の国が原産地で軽くて硬くオリハルコンの一種ではないかといわれる金属だ。

 ミスリルは『真の銀』などといわれる金属で魔よけの力があるため対魔導装備の武具なんかに使われてる。


 「現状かなり大変なんですね」

 「そうだ……。暗い雰囲気になってしまったな。こんな話よりも君に渡さなければならない物がある」


 そう言ってエマニエ司令官は傍らに置かれた大きな箱のふたを開けた。

 中が気になるので身を乗り出して覗き込む。


 「これらは、君がここで必要になる物だ。生活必需品だ。ここの学園の制服とそれから武装の下に着るファイティングウェアだ。ファイティングウェアは衝撃を吸収できる。一応、制服もファイティングウェアも男用、女用ともに用意しておいた。あとは、小物がいくつかある。もしなにか足りないものがあったら家から持参してくれてもかまわない。あと、学園の教科書はもといた魔導士官学校のもので大丈夫だ」


 えっと……、ここで生活するの?

 

 「僕は家から通えばいいですか?」

 「いや、この学園には寄宿舎があるのでそれを使ってもらう」


 ここで生活することになるらしい。

 このことを話したらニナにまた怒られそうだな。

 そんなことを考えていると書類が手渡された。


 「詳しくはすべてそこに書かれている。それを参考にしてくれ」


 その書類は詳細に書かれており、それなりの厚さがあった。


 「あっ、そうだった。ひとつ大事な話がある。実は君は特待生の扱いになっている。そのため実力を天空騎士団の団員に示してもらいたい。特待生として入るにはそれなりの実力が必要だからだ。君の入学は週明けからということになっている。それまであまり時間がない」

 

 知らないところで話は進み知らないことを突然言われてしまった。

 

 「実力を示すためにはどんなことをするのですか?」

 「模擬戦闘だ。君の相手をするのは天空騎士団の団員のうちの誰かだ。ということで今日から付け焼刃だが私が訓練しよう。天空騎士団団員は君のことを知らないからな。今日の夜、いつでもいいので演習場に来てくれ」


 え?

 今日からですか。

 この人のペースに飲まれてしまうと話が何もこちらの了承を得ぬまま進んでしまう。


 「失礼しました」


 そう思いながら退室した。

 ニナには、いつもの2倍くらい怒られそうだ。

 

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