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天翔けるヴァルキュリアス  作者: 袋石ワカシ
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第1話  出会い



  第1話    出会い



 

 その日、少年は夜空に輝く星を見つめていた。

 少年は、遠い昔から姿を変えず大地を見守る星が大好きだった。

 そんな少年は齢17、もう青年に近づきつつある年頃と言っていいのだが童顔で少し小柄だった。

 そしてきれいな顔を持っていた。

 彼が女装をして女であるといえばそう見えてしまうほどに。

 「兄さん、そろそろおうちの中に入ったら?寒いですよ」

 季節は秋の終わり、日に日に寒さが増してきていた。

 冬はもうすぐそこだ。

 

 「うん、そうするよ」

 

 妹は自分と同じフェルム王国魔導士官学校に通っており優秀な成績を収めていた。

 妹と少年は2人でこの郊外の家に住んでいた。

 最後にもう一度、夜空を見上げる。

 そんなとき、夜空の一か所がパッと眩く光った。

 そして、薄い光が落下していた。

 よくよく前を凝らしてみると光に照らされた落ちてくる物体は人影にも見受けられた。

 空を飛ぶ人と言われると出てくる答えは一つしかない。

 

 「天空騎士か?」


 天空騎士とは、騎士と呼ばれているが装甲をまとい空を飛ぶ空戦部隊のことをさす。

 空中戦や制空権の確保を目的とする天空騎士団は、創設されてからまだ歴史の浅い部隊である。

 その創設は、およそ60年前の東の隣国テルム共和国との戦争が起源とされている。

 その戦争は、かつてないほどの兵力、物資、軍事費用を投入する総力戦となった。

 そのとき、戦力の確保のため考えられた構想が天空騎士だったのだ。

 今まで、≪飛翔魔法≫を使える人が少なかったため、空を戦場とする部隊は存在しなかった。

 しかし、激化した戦争にはもはや常識などは関係なかった。

 どんな兵種でも構わないからとにかく前線へ投入せよ、それが軍部の考えだった。

 そこで、今まで徴兵されなかった、そして軍事的に使用されなかった≪飛翔魔法≫を使える者たちが徴兵され天空騎士団として前線へ投入された。

 そして、戦争への勝利と引き換えに天空騎士の多くが戦死した。

 ≪飛翔魔法≫を行使できる者はなぜか女に多かった。

 そしてそれとは引き換えに男性には、異常なほど強い≪攻撃魔法≫を行使できる者が多かった。

 これは、神の定めた男女の平等そして区別であると教会が公言している。

 男と女が2人で1つであることも。

 戦後、男は花形の≪攻撃魔法≫による攻撃部隊として徴兵されていた。

 一方の女性は、≪飛翔魔法≫をもって男を支える部隊であるとして徴兵されていた。

 しかし、≪飛翔魔法≫に目覚めるものは少なく部隊は少数である。

 この考え方は手段を常識を問わない戦争により、多くの女性を死なせてしまったことを反省した当時の軍部が軍隊のあるべき形として取り入れたのだ。

 そしてこの少年は男であるのに珍しく≪飛翔魔法≫を行使することができた。

 正確には≪攻撃魔法≫≪飛翔魔法≫の両方を行使することができる。

 男であるのにも関わらず≪飛翔魔法≫を行使できることは、魔導士官学校に伏せていた。

 なぜなら、異端として扱われるからだ。

 普通、人は一つ以上の魔法の種類を行使できない。

 それは、一種類の魔法に特化するからだ。

 魔力についてわかりやすく説明すれば、魔力は器のようなものに満たされているとする。

 この器は、人により大きさが異なる。

 そして、その器は一種類の魔力つまり一種類の魔法士か入らない。

 違う種類の魔法は相容れぬ仲なのだ。

 複数種類の魔法を行使できる人はそれだけ魔力の器があると考えられる。

 魔法の種類と言っても一種類を行使できるだけで属性や威力の差がありバリエーションは多彩だ。

 二種類以上の魔法を行使できる者は、多くの人から嫉妬を買うのだ。


 「兄さんどうしたの?」

 

 兄さんと呼ばれた青年はそれには答えず落ち行く光だけを目で追っていた。

 

 「マズいな、飛翔せよ、フリューゲル!!」

 

 えっ、兄さん突然どうしたの!?と驚く妹の部屋着の裾を揺らし閃光とともに少年は夜空へ飛び立った。

 その姿は、光跡をたどっても追うのは困難な早さだった。

 

 「もう……、どうしたんだろ?」

 

 妹は、落下していく光には気づいていなかった。

 





 「あんな速度で地面とキスしたらバラバラになるぞ」

 

 落下する光はもう少しで地面に接触しようとしていた。

 

 「間に合え!!加速せよ、アクセレラション!!」

 

 秋の終わりの空気はただでさえ冷たいのに加速したことによって刺さるような冷たさになった。

 それでもこらえる。

 そして、落下する光に照らせれる人ははっきりと確認することができた。

 風にたなびく髪が長かったので女性であることも確認できた。

 地上まで100メートル強。

 

 「おいっ!!」


 呼びかけるが返事はなかった。

 

 「気を失ってるか」


 地上まで残り30メートル。

 体をなるべく落下する女性に接近させ抱きとめた。

 そして上昇する。

 地面までは10メートルをきっていたから間一髪だった。

 あとほんの少し遅れていたら2人して命尽きただろう。

 そう思うと今さらながらにひやひやしてきた。

 抱きとめた女性は、華奢な体に装甲をまとう少女だった。

 軽くぺちっと頬を張っても目を開ける様子がないので家へ一時的に連れて帰ることにした。

 180度方向を変え元来たほうへと戻る。

 それにしてもその少女は想像よりも軽かった。

 





 家に戻って、少女を抱きかかえたままなんとか家の戸を開けると妹が飛びだしてきた。

 

 「どうしたの兄さん、急に!!って誰この女の子!?まさかお兄ちゃん、人さらいになったの?可愛いからって……」


 盛大な勘違いをしていた。

 

 「そんなんじゃないよ。この人が落下しているのが見えたから地面にぶつかる前に拾いに行っただけ」


 妹は名をニナという。

 ニナは、興味深げに抱きかかえられた少女の顔を覗き込んでいる。

 

 「私より可愛いですね……」


 何と言っていいか反応に困る。

 間違っても年頃の少女相手にそうだねなんて言葉は言えなかった。

 話題をそらした。


 「この人、気を失ってしまってるみたいなんだ。外は寒いから目覚めるまではここで寝かせてあげてもいいかな?」

 

 ニナは苦い顔をした。


 「そんなの断れるわけないとわかって聞いてるんですか?ちょっとこの人の寝るところを準備してきます。間違っても変なことはしてはいけませんよ?」


 そんなこと心配しなくてもいいのに。

 ニナは、そんな不要なことを気にしていた。

 妹が、寝どこの準備が終わるまでしばらくこの人の顔を眺めていた。

 少女は、銀髪だった。

 その髪は、まるで白銀を糸にしたような美しさで少し見とれてしまった。

 自分の黒髪と比べると色だけではなく毛質も大違いだった。

 

 「兄さん、準備ができましたよ」


 しばらくすると妹から声がかかった。

 よいしょ、と少女を抱きかかえて運んでいく。

 この家には、2人しか住んでいないのでベッドは2つしかない。

 仕方ないので妹は、クッションをいくつも並べマットレス代わりにしその上に予備用のシーツを敷いて簡易ベッドを作っていた。

 そこに、そっと少女を横たえる。

 

 「このままだとクッションとシーツに金属のにおいが移ってしまいますね」

 

 少女の装甲はライトアーマー(軽量の鎧)で部分的なものなので重くはないが金属なのでにおいは移ってしまうかもしれなかった。

 

 「しょうがないだろう…この人が目覚めるまでは」

 「そうですね、やっぱり起こしましょう」

 

 なにも話を理解してなかった。


 「いや、だから手荒な真似はよくないって」

 

 しかし、言うが早いかげしげしと胸部の装甲を妹は殴っていた。

 しばらく殴って目を覚まさないので今度は激しく体をゆする。

 そして、頬を張る。

 パシッ!! 乾いた音が部屋に響いた。

 痛そー、ってか赤くなっていた。

 すると、うっすらと目が開けられた。

 

 「……っあ…」

 「やっと目を覚ましましたか?」

 「……ふぇ…?」

 

 目は開いているが今まで気を失っていたからかまともな応対はできそうにない。


 「あ…あの、ここは……?私は、フルークアーマーの故障で…失速して落下中だったはず……」

 

 目に光が宿りようやく焦点があった。

 

 「ああ、その通りだった。僕は君が落ちるのを偶然見つけた、だから拾った。君は気を失っていた。それと怪しいものではない。一応自己紹介をしよう、僕の名前はアレスと言う」


 あのライトアーマーはフルークアーマーと言うのか。

 フルークは飛ぶことをさす。

 よく見ると脚部や、腕部、背部に、魔石が埋め込まれてあり、それに飛行するときに魔力を注入すると飛行できるのだろう。

 魔石は、ブースターの役割をしていた。

 

 「君は、天空騎士なのか?」

 「はい、ですが私はこのフルークアーマーを装着しないと飛翔できない一般兵です。でも天空騎士が満足に空を飛べずに落下するなんて恥ずかしい話ですよね……」

 

 このちょっと特殊なライトアーマーはフルークアーマーと言うらしかった。

 

 「なんで君が天空騎士に?」

 「今、天空騎士団の戦力拡充が行われていて≪飛翔魔法≫を行使できない一般兵でも女性なら入団できるんです」

 

 隣国テルム共和国との外交関係が悪化の一途をたどっているから戦争も視野に入れて、ということか。

 

 「そうか、聞かせてくれてありがとう。今日はもう遅いからここに泊まってくといい」

 「ありがたい話ですが私は今、行方不明の状態にあるでしょうから要らざる捜索をさせる前に基地へと帰ります。お世話になりました。ご迷惑をおかけしました」


 そう言うと頭を下げて玄関のほうへと歩いていく。

 そして、扉を開けると最後にもう一度頭をこちらに向けて下げた。


 「ありがとうございました。失礼します」


 少女は、閃光とともに空中へと去っていった。

 

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