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天翔けるヴァルキュリアス  作者: 袋石ワカシ
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第9話  アスラ、いじめられる



  第9話





 午後の授業が終わり、私は帰る支度を始めた。

 そこへ、エリーナ・クシャトリヤが彼女の友人だろう2人を伴ってきた。


 「どうしたの?」

 「今から私たち勉強会を開くのですけど良かったら参加しませんか?」


 これは、エリーナ以外の生徒と交流する願ってもないチャンス。


 「いいのですか? よろしくお願いします」


 無論2つ返事で了承だ。

 みんなで図書室の方に向かう。

 

 「アンナさんは、なんであんなにお強いのですか?」


 何も会話がないよりは気まずくなくていいな。

 しかし、なんてこたえようか……。

 私は≪飛翔魔法≫が得意ですとか、本能のままに戦ってますとか才能を感じさせてしまう答えを言ったら絶対快くは思われないだろうな。


 「うーん、難しいですね…。私は、守りたいものがあるからそして、経験があるからだと思います」


 これが無難な答えだろう。


 「経験っていうのはどこかで戦闘訓練を受けたのですか?」

 「いいえ、私は前の学校のとき家から空を飛んで通っていました。そして学校では剣を少しだけ習っていましたから」


 前の学校では剣術は必修科目で運動苦手な人以外は総じてレベルが高かった。

 ところがこの学校は自分の使う武器のの鍛錬を積むため剣術が生徒全員の必修科目であるわけではないのだ。


 「そうなのですか…。私も経験を積まないといけないですね」


 図書室は大きく広かった。

 前にいた学校のよりもさらにデカいな。

 思わずあたりを見回してしまう。


 「どうかしたのですか?」


 エリーナが不思議そうに見てくる、なんか田舎者って思われそうだな、やめよう。


 「いえ、なんでも」


 奥の方まで行くと、いくつかのテーブルと各テーブルに4脚の椅子があったのでそこに座った。


 「ここは、自習フロアなんです。私たちもこうしてよく利用しています」


 辺りを見れば、ほかにも同じように勉強をしている生徒たちがいた。

 そして近くの柱には、お静かにという張り紙がある。


 「教え合いはしてもいいですが可能な限り静かにお願いしますね?」


 と、図書館司書の女性に声をかけられた。

 そして黙々と、勉強会は進んでいった。

 これなら、一人でやるのも変わらないのでは?と思うが。






 「今日は誘ってくれてありがとうございました」

 「また今度」


 寮の前で別れを告げて解散していく。

 僕も部屋に戻ってちょっと休憩してからテスト勉強の続きでもするか……。

 そう思って、部屋へ戻ると僕の部屋の前に座っている少女がいた。

 

 「……どうして…」


 声をかけようとしたが思わずかけるのをやめてしまった。

 僕の部屋の前で泣いていたのは見覚えのある少女だった。

 アスラか……。

 少女は泣いていた。


 「…どうしたの……?」


 しかし、アスラは答えない。

 嗚咽を漏らすばかりだった。

 冬の廊下は冷えるから部屋の中に入れてあげよう。


 「入りな?」


 僕は部屋の鍵を開けてアスラを部屋の中へと入れた。

 女子と2人っきりの部屋か…。

 そう思いつつ戸棚に入っている茶葉を取り出してケトルに水を入れて沸かす。

 沸騰したので紅茶を淹れた。

 オレンジペコーだ。

 それをアスラの前に置く。


 「……ありがとう…ございます……」


 しばらくたっても彼女は何も言わない。

 2人の間にあるのは紅茶から立ち上る湯気ばかりだ。

 やがてそれも少なくなった。


 「飲みなよ、冷めちゃうよ?」


 そう優しく言うと彼女はそっとマグカップに口を付けた。

 相当深刻な悩みかな……。


 「今日は…どうしたの?」


 しばらくの沈黙が流れて彼女が口を開いた。


 「……私…いじめられたの……」


 やはり、深刻な悩みか。


 「何が理由で?」


 そっと寄り添うように話しかける。


 「………私が≪飛翔魔法≫を使えないから…弱い…から」


 彼女の周りに友人らしい人は少ない。

 それが理由だったのか。

 

 「そんなんでいじめられるのは、あまりにも理不尽なことだ」


 いじめの理由は大概が弱い者いじめだ。

 この学園は、生徒のほとんどが生徒兼天空騎士団団員だ。

 弱いものがいじめられてしまうことは実力がものをいう軍隊の中では仕方のないことであると言える。

 しかし、これを仕方のないこととして容認していいことであるかはまた別問題だ。

 実力は人それぞれだ。


 「……そうだよね…弱いのもしかたないよね……」


 アスラは悪い方向に向かってるな。

 これでは今後伸びないだろう。


 「でもね…弱いからしかたないっていうのは違うと思うんだ」


 違う、と断定してしまうとそこに逆らおうとしてしまう心が生まれるだから自分が思うということにとどめておく。


 「練習すれば、努力すればあなたは伸びることができる、と思うんだ」

 「…私は、今まで頑張ってきたんです!! あなたもそれを否定してしまうの?」


 被害者意識が高まって自分が正しいと強く思ってしまっているな。


 「違う、あなたの頑張りを否定するわけじゃない!!」

 「だったら!!」


 アスラは泣きじゃくりながら嗚咽交じりの声でそう言った。


 「聞いてくれ…あなたは自分が他人から認められたいと思うからそうなる。私は短い期間だけど誰よりもあなたのことを見ていた。あなたは無論努力していた。でも、焦りすぎた。人には人のペースがある。それは守るべきもの。あなたは焦ってこのペースを無視した。つまり自分を無視した、受け入れられなかったの」


 アスラは泣き崩れた。


 「……じゃあ…私…どうすれば…………いいの…?」


 僕は彼女の背中を優しくなでた。

 

 「私が、練習に付き合う」

 「……え…でも」


 彼女は、しばらく泣いていたがやがて泣き止んだ。

 気持ちの整理がついたのだろう。


 「まずは自分を受け入れるところから始めよ? 夜8時くらいに演習場の格納庫前で待ってるから」


 練習に誘うことにした。








 約束の時間になった。

 この時間は、整備員が整備やメンテナンスを終えていない。

 誰にも見られない時間なのだ。

 遠くからありてくる人影が見えた。

 アスラは、自分を受け入れることを決意できたらしい。

 今夜は満月に近いので夜間練習といっても明るいと言えば明るい。

 そのほうが彼女もやりやすいだろう。


 「こんばんわ」

 「…うん。……よろしくお願いします」


 どこか、まだ立ち直れてはいない雰囲気ではあるが……。


 「とりあえず、フルークアーマーを装着しましょ」


 格納庫の重い扉を2人がかりで開ける。

 普段は鍵が駆けられているのだがこっそり鍵を拝借してきたので問題ない。

 (エマニエ司令官からも許可を得た)

 しばらく彼女がフルークアーマーを装着し終えるまで待つ。

 格納庫にただ金属音だけが響いた。


 「終わりました……」

 「じゃぁ外に出て飛んでみましょうか」


 いちおう格納庫の扉を施錠した。

 鍵は落とさないようなところにしまわないとな。


 「いきますよ? 飛翔せよ、フリューゲル!!」

 「飛翔せよ、フリューゲル…」


 冬期仕様とはいえ、このファイティングウェアだと寒いな。

 時期はもう冬だ。

 大気は鋭いと感じるほどに冷えきっている。

 装甲内にある暖房装置が頼りだ。


 「何が、苦手なんですか?」


 そこを克服するのがこの練習の目的だ。


 「……攻撃です…」


 彼女のフルークアーマーは、〈フェンサータイプ〉だった。

 攻撃が苦手ということは、〈フェンサータイプ〉は、装甲が薄いので相手に致命打を与えるより早く自分が攻撃を受けてしまい負けてしまうということなのだろう。


 「わかった、とりあえず、全力で私にかかってきて」


 実力矢癖を見ないことには何にも言えないだろうから。


 「……うん」


 少し彼女と距離をとり攻撃を待つ。


 「いきます!! ブーストフルバーニア!!」


 背部や脚部の魔石からエネルギーを噴射し加速をかけて突貫してくるアスラ。

 彼女は剣を水平に構えて突きの姿勢をとった。

 加速して弱い力でも深く刺そうという考えか。

 剣先がすぐ前まで迫ってきたとき僕は、その剣を巻き取るようにしてからめとった。

 後ろに下がりながらだ。

 そうじゃないと突っ込んできた彼女の勢いにとまっていたこちらが圧倒されてしまうからだ。

 彼女はその場で止まった。

 

 「迷うな!! その隙に相手から攻撃を受けるぞ」

 「はい!! ハァーッ!」


 アスラは剣を振りかぶりながらこちらに向かってきた。

 そして剣を振り下ろす。

 

 「加速せよ、アクセレラション」


 その剣を瞬時に加速してかわす。

 そして彼女のわきを通り抜けざまに軽く蹴る。


 「うぐ……」

 「振りかぶりが大きいと振り下ろすまでに時間のロスができる。隙もだ」

 「はい」


 彼女は再び攻撃態勢をとり突貫してくる。

 僕は、彼女の足を狙った。

 軽く剣の側面で脚部の装甲を叩く。


 「足にも注意しなよ」

 「はい!!」


 やる気になってきたようだな。

 どこまで彼女のやる気を引き出せるか、そして自信につなげるかが問題だ。

 

 「ブースト、フルバーニア!!」

 

 アスラは剣を体の中央に構えている。

 そして近距離で一閃。

 振りかぶるのはやめたらしい。

 が、まだその剣は鋭さに欠けている。

 

 「まだ、遅い!! もっと早く振れ」

 「わかりました!!」

 「アァー!!」


 気合とともに胸部を狙って剣を一振り。

 そして、すぐに振った剣で足を薙いできた。

 

 「そうだ、連撃だ。相手に攻撃する間を与えるな。攻撃こそが最大の防御だ」

 「はっはい!!」


 後ろに退きながらそう言ってやると、アスラは引いた分だけ攻撃市ながら間合いを詰めてきた。

 学習能力は高いな。

 しかし、一本調子といえばそうだった。

 だから見切りやすい。

 彼女が横薙ぎにした剣を上から、押しつぶすようにして剣先をあらぬ方向に向けさせてから彼女の頭上にコトンと剣の側面を落とした。


 「えっ?」


 アスラは、いつの間に? という顔をした。


 「あなたの問題点は分かった。それは予想外の動作に対して柔軟に対応できないということ。無駄な動作が多いこと。連続的な攻撃が一本調子になりやすいことだ」


 アスラはどこに入れていたか、手帳と筆記用具に僕の言ってアドバイスをかき始めた。

 真面目な子なんだな……。


 「具体的にはどうすればいいんでしょうか?」


 自分で考えてもらうほうが望ましいのだが、彼女の実力の底上げは急務だ。

 気づくまでの時間がもったいない、こちらで言ってしまおう。


 「予想外の動きへの対処は経験を積み予想外の動きをなくすことが一番望ましい。でも、それが無理なら相手がこういうとき、どう出てくるのかということを予測するでもいい。無駄な動作を減らすためには無駄のない動きを自分で考えて試せばいい。連続攻撃が一本調子になりがちなのはみんな同じ。そして上を狙ったらしたを狙うという上下をバランスよく狙うことが大事。それこそ、相手にとってお窓外になる動きをしたりだとかフェイントを入れるとかでもいいと思うよ」


 アスラは、一生懸命に手帳にペンをはしらせていた。

 そして書き終わるとニコッと微笑んだ。

 

 「今日はありがとうございました。またよろしくお願いします。


 その顔にはさっきまでの暗さはなくただ明るい微笑みになっていた。

 まるで憑き物が落ちたみたいだ。


 「うん、今度。次は〈フェンサータイプ〉以外の攻撃を想定してやってみようか」

 「はい」

 

 2人の頭上は気がつけば星空が雪雲に変っていて、そこから雪を降らせようとしていた。

 

 

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