七日目
「おはようございます」
『おはよう~』
どうやら、言の葉の女神様は昨日の一言で精一杯だったようだ
少し残念だが、また話しかけてくれるのを待とう
ランタンにいつものように薄い灯りが点っている
昨日はつけてすらいないのだが
おそらく眠っている間に付けてしまったのだろう
という結論を出し、もう気にしないようにしよう
「おはよう!」
「おはようございます、今日も元気ですね」
「うん、私はいつだって元気だよ!」
洞窟を出て、リンと合流する
木箱に座り、朝食を摂りながらリンと話す
「今日は何をしましょうか」
「今日はね、お爺ちゃんに会いに行こう!」
「良いんですか?」
「うん、昨日聞いてみたらいいって」
お爺ちゃん、といえば森の神様だったか
「ちょっと変な道通るけどちゃんと着いてきてね」
ちょっと変な道とは一体?
「じゃあ行くよ」
「はい、案内お願いします」
「任せて!」
リンの先導で森へ踏み出す
変な道という単語に少し興味を抱きつつ、ついて行く
見慣れた木々の合間を歩くこと数分、徐々に見たことのない景色に変わっていった
さらに歩くこと十数分、もやがかかってきた
リンの翅の光だけがくっきりと見える、リンがいなかったら確実に迷っていただろう
翅の音と光をたよりについて行く
気がつくと地面は土ではなく岩に変わっており、耳を澄ませば遠くない場所で水の音が聞こえる
幻想的と言うべきか、独特な雰囲気が漂っていた
「ちゃんと着いてきてる?」
「ああ、すいません」
少し離れてしまっていた、小走りで追いかける
「ここが“ちょっと変な道”ですか?」
「ううん、それはもう少し先だよ」
たしかにここら辺は変というかんじではないか
「こっからが変な道、気を付けてね」
「分かりました」
「ね? 変だったでしょ?」
「、はい」
言われて踏み出した道は、特になんてこともない道だった
しかし何かが決定的に“変”だった
形容できない違和感があった
『あまり気にし過ぎない方がいいよ』
「うわっ」
「何!?」
突然話しかけられたもので吃驚した
『失礼しちゃうな』
「すいません女神様、リンも驚かせてごめんなさい」
リンは察してくれたようで許してくれた
「もうつくよ」
不思議な体験に期待が高まる
「ただいまお爺ちゃん」
少し広い場所に出た
中央に巨大な樹木がそびえ立っており、枝葉が空を覆っている、
圧倒的な存在感を放つそれはゆっくりと目を開き、口を開いた
「おかえり、リン そしてよく来たな、人の子よ」
「初めまして、ケイと申します」
「うむ、まあ座るといい」
お爺ちゃんと呼ばれたその大木は穏やかな声で座るように勧めた
足下から芽が生えて曲がりながら成長して丁度よい高さで止まった
「失礼します」
木に腰掛け、リンも私の肩に座った
「では、改めて。儂はこの森の管理をしておるものだ、名前は特にない」
「神と呼ばれてはいるが、神格はない。ヴィーナより少し偉いぐらいかの」
「神様にも位があるんですね」
森の神様との挨拶を終えた
「君は林檎が好きだったかの、どれ」
私のすぐ横からまた別の木が生え、私の頭ぐらいの高さまで成長すると見る間に赤く丸い林檎を実らせた
「ありがとうございます、よく知ってますね」
ありがたく受け取る
「この森の木は皆儂の息子、それにリンが毎日話すからの」
「毎日ですか、何かすいません」
「よいよい、小さい子の話を聞くのはいつだって老いた者の楽しみの一つだ」
母も似たようなことを言っていた
「ヴィーナからも聞いておる、えらく神々に好かれておるようじゃの」
「どうやらそのようですね」
「ふむ、そうじゃの、、、」
「すまぬが少し上を向いて口を開けてくれ」
「?」
素直に従ってみる
すると口の中に水滴が落ちてきた、舌に軽い衝撃を受ける
驚いて身体を動かしてしまいリンが落ちそうになる、慌てて支えた
「今のは一体?」
「儂の葉に結んだ露だ、リンが世話になったのでな、儂もお前に力を授けようと思うてな」
「それは、、、ありがとうございます?」
疑問符がついてしまった
森の神様は笑っている
「もう、お話終わった?」
「うむ、待たせたな」
リンはずっと肩の上でさくらんぼを齧っていた
その後は森の神様、リンと共に暫し会話を続けた
「そろそろ日没かの」
「もうそんな時間ですか」
「ここは時間分かりにくいからね」
「ではお暇します」
「うむ、名残惜しいがの」
しまったランタンを置いてきてしまった
日が暮れたならあまり足下は見えないだろう
「大丈夫送ってやろう」
足下が仄かに光り出した、リンの翅の光に似ている
「ではな、ケイよ、リンに良い名前を付けてくれてありがとう。これからもこの子をよろしくな、、、、それにあの子のことも」
最後の方は聞き取れなかった
「ばいばい、ケイ」
「さようなら、今日は楽しかったです」
光が強くなり、一瞬目の前が真っ白になった
目を開くとそこは見慣れた洞窟の前だった
瞬間移動というやつか、異世界ってすごい
洞窟の中に入り、ランタンに灯りを点す
今日もまた良い疲労感だ
「おやすみなさい」
『おやすみ、ケイ』
【安眠】【快眠】発動