五日目
「おはようございます」
『おはよう、とうとう私が起こす前に起きたね』
確かに、生前は誰よりも早く起きていたので
そもそも誰かに起こされるのは新鮮だったはずだ
「ありがとうございます、女神様」
『ん? 何が?』
「いえ、何でも」
洞窟を出る、ランタンは点いているが気にしない
「おはようございます」
「おはよう!」
1週間も経っていないが最早習慣となった挨拶を交わす
木箱に腰掛けて一緒に朝食を摂る
葡萄とみかんと、、、、、、、林檎だ
今朝は大きい果物が多い
しっかりとお腹を満たしたところで、
「リン、一つお願いしても良いですか?」
「うん、いいよ」
まだ要件を言ってないけれど、
この子の将来が少し心配になってきた
「この森を少し案内して欲しいんです」
「わかった、今まで行ったことない場所でしょ?」
「ええ、出来れば」
「あ、お爺ちゃんに会いに、、は無理か」
「思いつかなければその辺で大丈夫ですよ?」
「ごめんね、歩きながらで良い?」
ということで、散策を開始した
『最近私空気だな』
「あっちには丘があってね、お花がいっぱい咲いてるんだよ」
「そっちにはリスの巣があるんだ」
いつぞや聞いた頭にドングリをぶつけたリスかな?
リンについて行きながらいろいろな場所を見て回る
丘の上の花畑、リスの巣、苔むした岩、10mはある巨大な岩、規則的に並んだ岩、大きいまん丸の岩
岩多いな、好きなのかな?
長い間歩いたが、基本はリンが気に入っている場所を回っていたようだ
その中で気になった所が二つ
一つ目は、明らかにお地蔵様だった
まごうことなきお地蔵様だ、随分と懐かしく感じたので、砂を拭ってお弁当のみかんをお供えしておいた
合掌した後、その場を去った
二つ目は、祠だ
あまり広くはなかったが、中は立派な造りだった
雰囲気からして何かを祀っているわけでもないようだが
何やら魔方陣?のようなものが地面に刻まれていた
少しヒビが入っていた
「ここ気に入ってるんだ、さっきのお地蔵様だっけ? の場所も良いけど」
たしかに空気が澄んでいる気はする、頭が冴える感じだ
『――何者だ?』
、、、、、吃驚した
くぐもった声が頭に響いた
女神様の声の聞こえ方に似ている
しかしどうやら足下から聞こえている
リンには聞こえていないようだ
「すいません、勝手にお邪魔して」
「すぐに出て行きます」
「? どうしたの?」
『――待て』
「はい」
『――その赤い物はなんだ』
赤い物? 林檎かな?
「これですか? 林檎という果物です」
『――我の知っている林檎はそれ程大きくはない』
この森ではみんなこれぐらいの大きさだったが
別の所から来たのか?
「貴方はこの下にいるのですか?」
『――いかにも』
「何故か聞いても?」
『――貴様に教える筋合いはない』
「確かにそうですね、そろそろお暇しても?」
『――その前に林檎を陣の中心に置け』
言われたとおり陣の真ん中に林檎を置いた、
すると林檎は落ちるように床の下へ消えた
『――これは美味なり、うむ、気に入った』
それについては同意だ
『――他に果実はないのか?』
「ええ、今は持っていませんし周辺にも実がなる木は有りませんね」
すると足元の声はふむ、と言って少し黙っていた
『――おい人の子よ、貴様明日またここに果実を持って来い』
「いいですけど、」
よほど気に入ったようだ
『――待てよ、よくよく考えたら変な奴だここは人が入ってこられる場所ではないし、何故我を恐れない?』
ブツブツと小声でよく何かを言っていたようだが聞き取れなかった
「どうかされましたか?」
『――いや何でも無い、行ってよいぞ』
「では失礼します、神様」
『――! 待て、貴さ
祠を出ると冴えた空気も柔らかくなり、声も聞こえなくなった
他は前世と変わらない、といっても植生に疑問はあるが、様子だったし、大体の地形も頭に入った
今日の目的は達成された
「じゃあまた明日~」
「ええ、お休みなさい」
洞窟まで戻り、リンと別れた
今日は疲れたので早く眠ることにしたのだ
日が落ちきっていないうちに寝るのは少し勿体ない気もするが、女神様に
『時間なんていくらでもあるんだから君は寝たいときに寝て起きたいときに起きればいいの』
と軽く怒られてしまった
洞窟に入り、横になる
今日はもう眠りに落ちそうだ
『本当に君は面白いね』
「何か言いましたか?」
曖昧な意識で尋ねる
『いや、何でもないよ おやすみ』
「おやすみなさい」
数秒後、意識が途切れた
【安眠】【快眠】発動