三日目
『おはよう』
「おはようございます」
今日も同じように目を覚ます
やはりランタンには弱い灯りが点っていた
不思議に思いながらも洞窟を出る
今日はちゃんと朝に起きられたようだ
「おはよう!」
「おはようございます」
妖精は明るく挨拶をしてくれた
今日はとある目的がある
『水浴び?』
「ええ、そろそろ身体を清めたくて」
果物しか食べていないためか、
身体は全く臭くなく、むしろ柔らかい甘い臭いがするが
汗をかいていないわけではない
『それじゃあ、川か湖かな。どっちがいい?』
流れがあった方がいいかな?
『ああ、でも川はちょっと遠いね。湖でいいかい?』
特に問題ないだろう
「大丈夫です」
『ちょっと複雑だから、その子に案内してもらった方が分かりやすいかも。私の案内でもいいだろうけど』
「分かりました」
「また女神様とお話?」
「はい、少しお願いがあるのですが」
妖精は心当たりが有ったらしく、快諾してくれた
朝食として林檎を二つ食べてから、出発した
森の中を歩くこと数十分
たしかに、これでは誰かについて行かなければ迷ってしまうかもしれない
「もう少しだよ」
木々の間に光が見えてきた
微かに水の音が聞こえる
「ここの水は綺麗なんですか?」
「うん、透き通ってるよ。お姉ちゃんもいるし」
お姉ちゃん?
また神様だろうか
『神より少しだけ位が低い存在かな?』
『たしか精霊と言ったかな』
小声で聞いてみると、所々疑問系で教えてくれた
「ついたよ」
「おお」
想像していたより綺麗だった、人の手が入っていない神秘的な湖だった
直径10mぐらいの円形で、水は透き通り、
中心には細く繊細そうな美しい樹が、しかし力強く立っていた
暫し見とれていると、
樹に妖精に似た、少し強い光が集まってきた
光が人の形に集まり、少女の姿を形取った
少し妖精に似た、しかし目鼻立ちがしっかりとした大人の女性といった印象だ
こちらに近づいてくる
「え、あ、こんにちは」
「こんにちは」
精霊と思われる女性は無表情であったが、
少したってから柔らかく微笑み、応えてくれた
「あなたが連れてきたんだね?」
精霊が妖精に向かって話しかける
「うん、そうだよ!」
「偉いね、迷わなかった?」
「何回来てるとおもってるの? もう大丈夫よ!」
会話の様子からして正しく姉妹のような関係だと窺える
「ところで、君は? 此処いらの者ではないね」
「嗚呼、すいません。私はケイと申します」
「へ~、そんな名前だったんだ」
「そういえば名乗っていませんでしたね」
「それで、何をしに来たんだい?」
つい話が逸れてしまったが、精霊が戻してくれた
「水浴びをしたいと思ったのですが、、」
精霊は私の、所謂頭の頂点から爪先までをじろりと見て
「いいよ」
精霊はぶっきらぼうにそう言った
「ありがとうございます」
「ところで君は凄い善性だね」
「はい?」
服を脱ぎ、水に入ったところで精霊に話し掛けられた
「ああ、身体を拭うならこの葉を使うといい」
精霊は樹の葉を一枚摘み、渡してくれた
「ありがとうございます」
有難く受け取る
「ケイはね、女神様とも話せるんだよ!」
妖精が自分の事のように自慢気に話し出した
「ほう、それは凄い」
流石に神様と自由に話せるのは精霊からしても普通ではないようだ
『誇っても良いんだよ』
女神様も自慢気だ
「そういえば、貴女達のお名前を伺ってもよろしいですか?」
水浴び中、ふと聞いてみた
「僕の名前はアルヴィナだ、ヴィーナでいいぜ」
「この子に名前はないね」
「そうだね」
そうだったのか、てっきり私と同じく名乗り忘れたのかと
「よければ君が名前を付けてあげたらどうだい?」
「え?」
「友人に付けて貰った名前ならこの子も気に入るだろうし」
「女神達の寵愛を受けた者なら尚更有難かろう」
「いいね、それ!」
そんなものだろうか、名前なんて大事なものを
つい昨日会ったばかりだというのに
「いいんですか? 本当に?」
「うん!」
『付けてあげるといいよ』
女神様まで乗り気だ
名前を付けるのは何度かやったが、
こういうのは下手に意味を考えすぎてもいけないのだ
ここはもう素直に
「リンというのはどうでしょう?」
「リン? 良い響きね!」
「確かに、何か意味は有るのかい?」
「ええ、私の故郷に鈴という音を出す道具がありまして、その音がこの子はの翅のねとよく似ていたので」
「じゃあ、そのスズという名前ではないのかい?」
「鈴という文字を、それとは別にリンと読むのです」
指で土に鈴の漢字を書く
「珍しい言語だね、私も知らないよ」
たしかに、生前の世界で私の知っている漢字を使っていた国は二、三ヶ国だけだ
「とにかく気に入ったわ!」
名付けは成功したようだ
一応 “邪気を払う” “心を癒す” といった意味を込めていたのだが
それは言わなくてもよいだろう
身体を一通り拭き、服を着た
湖を後にしようとすると
「一寸待ってくれ、僕も君を気に入ったから加護を与えよう」
ヴィーナさんは私に近づき、額にキスをした
体が仄かに光った
顔が少し赤くなった気がする
「、、ありがとうございます」
『ヒューヒュー』
「よかったね、私ともお揃いだよ!」
「君なら何時でも来て良いぜ」
、、、来づらいな
その後ヴィーナさんに別れを告げ、帰路についた
「ねえ、ケイ」
「なんですか、リン」
「ふふ、なんでもなーい」
さっきからずっとこの調子である、
よっぽど名前を気に入ってくれたようだ
洞窟まで戻って来た、昼を少し過ぎた頃だった
ミカンとさくらんぼを食べ、妖精改めリンと雑談、ランタンで魔力を操る訓練をし、夕食を食べ、一日が終わった
少し気になることがある、
何故私が目覚める頃にランタンに灯りが点いているのだろうか
女神様ではないようだし、リンはできない
私が寝ている間に自分で付けたというのも些か不自然だ
「どうなんでしょうか?」
洞窟の中で横になりながら女神様に聞いてみる
『さあ、どうだろうね。いずれ分かるんじゃない?』
『あんまり考えてると眠れなくなってしまうよ』
はぐらかされたような気がしないでもないが
眠れなくなるのは困るので、素直に眠ることにする
いつになく運動したためか、
今日はランタンの灯りが消える前に眠りに落ちた
【安眠】【快眠】発動