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俗 君の寝れない夜

忽然と浮かび上がる、『大和』という名前の謎。


皆がその名で君を呼ぶ、その奇妙な現象に、君は少しだけ背筋を凍らせるのだった。


「…………おーい」


君の記憶が正しければ、自分の名前は『大和』では無いはずだ。なら、皆が君を『大和』と呼ぶのはなぜだろう? 同級生や先生は、君の記憶にもある高校1年からの知り合いだし、元の名前で呼ばれていた記憶もある。


「……おーい」


しかし、論理的に考えて、皆が君の名前を間違えてしまったとは考えづらい。そうなると、もしかしたら君の記憶が間違いなのかも知れないという疑念が……。


「おーい。私の話、聞いてる?」


なんて考え込んでいた君だが、その思考に割って入る呼びかけで、目の前の黒髪美少女に気が付くことが出来た。


まあ、気が付くといっても、彼女はさっきから居たし、食後の談笑中に思索へ深けこんでしまったのは君だ。彼女からすれば、突然現れたという感覚を持たれるのは心外だろう。


なので、君は話を聞いて無かったという失礼なことに対して、素直に謝るのだった。


「ふふ、素直でよろしい。私は寛大だからな、少々話を聞いて無かった君のことは、少々怒るくらいで許してあげよう。以後、無視することが無い様に(^_^#」


威圧感のある笑顔を浮かべた彼女は、どうやら無視なんていう非道な行為を行った君を、少し怒るくらいで許してくれるらしい。これを聞いた君は、なんて寛大な女性だ! と、感動するかもしれない?


「それで、話を戻すけど、明日の夕飯は何を食べたい?」


彼女が君から無視されている間、話していたのは明日の夕飯のことだったようだ。


ただ、お腹いっぱいの現状で、明日の食べたいものを聞かれても思い浮かばない。


だから、あれこれ悩んだ末に、なんでも良いと答えてしまった君へ、彼女は少しだけ残念そうな顔を向けてきた。


「うーん、なんでも良いと言われるのが一番困るんだけどなぁ」


どうやら、彼女のお気に召す答えではなかったようだ。


「まあいいか。帰りが遅くなるほど活動的な君の為に、明日は精のつくトンカツでも作ってあげよう。そうなったら、今のウチに下ごしらえでもしておこうかな」


少し意地悪を言ったかな? と、小悪魔的な笑みを浮かべた彼女は、少し伸びをして席をたった。


「さて、それじゃ君にはお風呂へでも入って貰おうかな?」


そうやって勧めてくる彼女だが、そんなことより君には彼女へ聞きたいことがあるはずだ。


それこそ聞きたいことなんて山ほどあるけれど、今一番聞きたいのは、君が先ほど頭を悩ませていたことに関係すること。


つまり、貴女の名前はなんていいますか? と、君は聞きたいはずだ。


ただ、流石の君でも、自分の嫁の名前を本人に聞き出すのは憚れるのか、なかなか言い出せずにいた。


けど、ここを逃すと今日はもう聞き出す機会はないだろう。さて、君はどうする?


「うん? どうした? お風呂に入らないのかい? それとも、私と一緒に入りたいのかな?」


……どうやら君の意思なんて関係無いようだ。意地悪な笑顔を浮かべ、からかう彼女にやられた君は、おずおずと風呂場へ向かうのだった。



そして、風呂から上がり布団に下半身だけ突っ込んだ君だが、上半身だけは起こしている。


本当は寝ようと思ったのだが、君は寝る前の彼女との約束を思い出したのだ。


いや、正確に言えば約束したわけでは無いのだが、彼女は寝る前に「お休み」と言いたいらしいので、それくらいなら叶えてあげようと君は思ったわけだ。


だから、寝室の扉が開いて彼女が入って来た今、まあいきなり「お休み」と言うつもりではないけど、声をかけようと君はしたのだ。


のだが、君は固まってしまって、声が出なかった。風呂上がりの、火照った彼女の扇情的な姿は、どうやら君には刺激が強すぎたようだ。


「どうしたんだ? 固まって?」


薄いピンクのパジャマを着た彼女は、そのメリハリのはっきりした体のラインを惜しげもなくさらしていた。


おそらく、昨日も同じ服装をしていたはずだが、動揺していた君ではそれに気付くことができず、今さらまた別の動揺をするはめになったのだ。


「おーい、聞こえているかい?」


そんな君を、心配そうにする彼女へ、なんとか大丈夫だと伝え、お休みと伝えると、


「ああ、お休み♪」


なんてセリフを、見たことも無いほど綺麗な笑顔で彼女は返してきた。


それを見た君は、いよいよ動揺してしまい、赤面してしまうことだろう。


そんな、寝れそうもない夜を、君は昨日に引き続き迎えたのだった。

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