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君の学校生活-放課後編-

学校にいる間、君は妻と名乗る彼女のことを、それとなく皆に聞いて回っていた。


ただ、名前さえ知らない彼女のことを探すのは、さすがに難易度が高く、どうしても有益な情報を得ることは出来なかった。


このデジタル社会で、君の主観が混じった彼女の容姿を伝え、そんな生徒を知らないか? なんて聞いて回るなんて非効率なことをしても、そうそう簡単に上手くいかないのは当然の結果だとも言える。


せめて、彼女の写真でもスマホで撮っておけばよかったのだが、それも後の祭りだ。


終いには、困りに困ってグー○ル先生に聞いてみたのは、ご愛嬌だろう。


まあ、そんな風にして過ごした学校生活も、もう放課後だ。同輩の諸君は各々の支度をはじめ、既に教室から去っている者もいる。


君もいつもなら、さっさと教室から去るのだが、今日はそうもいかない。昨日の今日で、彼女の存在を忘れて去るなんて不届きなことは、お天道様が許さないのだ。


そう、許さないのだが。さてしかし、彼女とは待ち合わせ場所すら決めていない。これは、どうしたものか?


なんて悩んでいると、君に話しかけてくる人物が二人。


「よう、大和。これからどうするよ? お前、暇だろ? なら、俺に付き合えよ。昨日から冴えないお前に、俺が活を入れてやるぜ」


そんなことを冗談めかして言ってくるのは、長身の芥だ。その誘いに、少しだけ気付くのが遅れた君だが、暇が有れば彼とつるむのが日課だ。その誘いに乗って、君は遊びに行きたい誘惑に駆られもするだろう。しかし、そうはいかない。


もちろん、なぜそうはいかないのかと言えば、


「ちょっと、お二人さん。仲が良いのは良いけど、貴重な青春時間を怠惰に過ごすのは見過ごせませんな。どう、これから部活といかない?」


なんて君たちを、部活動に誘ってくる千明に付き合うためではなく、妻と名乗る彼女と帰宅するためだ。


「うっせ、お前はさっさと野球部にでも行ってろよ。マネージャーだろ? こんなところで、油を売ってていいんですか―?」


「うっわ、ムカツク奴ー。私が気をきかせてやってるのに!」


「チミは、アホかな? そんなもんは、余計なお世話なんじゃ!」


そんな風にじゃれ合う同級生を眺めるのも楽しいのだが、確かにこんなこんなところで暇を潰しているわけにもいかない。


君は、彼らの誘いに断りを入れ、とりあえず校門前の中庭へ向かうのだった。



なんて意気揚々と中庭に出た君へ、SNSからメッセージが一つ。


画面を見れば、嫁と書かれた人物からのメッセージだ。


『昨日に引き続き、申し訳ない。私は少し遅くなるから、先に帰っててくれ』


それを見て君は、直ぐに彼女に返信をしたの後、別の人物へメッセージを送るのだった。


そして、返ってきた返事は、次の通りだ。


『なんだ、やっぱり暇なんじゃねーか。それじゃ、今日は河川敷に来てくれよ』


君はそのメッセージを見て、こう思うことだろう。いやいや、直ぐに返事を返してきた芥こそ、暇人なんじゃないかと。



冬とはいえ、まだまだ季節が変わったばかりで、日中は暖かいこの季節。


河川敷へ着くと、そこに居たのは芥と、暇を持て余した学校の同級生の野郎ども数名だった。


やっているのは投手と打者、それに数名が守備についた野球モドキの遊びだ。


投手をやっているのは長身の芥で、どこからか持ち出したのか分からないネットへ、めっぽう速い球を投げ込み、バッタバッタと三振の山を築いていた。


「おーい、大和。こっちこっち! 気づけー」


そんな同級生の呼び声に、呼ばれているのが自分だと気付くのが遅れた君だが、気付いたからと言って颯爽と駈けつけたりはしない。


のっそのっそと歩いていくのを、「エラそうに!」なんて野次をかけてくる連中を無視して、君は三振したバッターへ近づく。


「おっせーぞ、大和。さっさと来いよ、さっさと」


ああ、自分が遅いと文句言われているのかと、呑気に思った君だが、もちろんそんな文句に悪びれることはない。


漂々と、三振した同級生と変わり、バッターボックスに立つのだった。


「しゃー、打てよ大和! さっきから、皆三振しかしないから、守備についても寒いし暇で仕方がないぞ!」


そんなヤジを外野から飛ばすのは、三振に切って取られた面々だ。恐らく彼らは、君が打つことを期待しているのだ。


なぜ、そんな期待をしているのかと言えば、


「お前ら、俺から三振した分際でよく言うぜ」


「うっせー、こっちはお前が打たれた瞬間をSNSへ投稿してやろうと、スタンばってんだよ。お前のカッコ悪い写真で、いー感じにバズらせてやんよ」


打ち取られた悔しさちょっと、イケメンと評判の芥へのやっかみが大半といったところだろう。


「ふん、まあいい。そんな写真なんて、撮るのは不可能だからな」


そんな台詞とともに、意気揚々と投げられたストレートへ、君は綺麗な空振りで応えるのだった。



そんなこんなで、同級生と楽しく遊んで帰宅した君を出迎えたのは、おかんむりの妻だった。


「こーら。遅くなるなら、連絡の一つでも入れたらどうなんだ。こっちは、夕飯も準備して待っていたんだぞ」


それを聞いて君は、ああそうだったと、今さらながら後悔することだろう。


まだ、一人暮らしの生活が抜けきらない君は、共同生活をするにあたって、やらなければならないことがなかなか思いつかないのだ。


だから、こんな風に彼女から怒られる羽目になる。


こうなると、悪いのは君だ。ここは言い訳をすることなく素直に謝るべきだろうと思い、不備を詫びるのだった。


「まったく、仕方がないな。今日のところは許してあげるから、さっさと上がってくれ」


まあ、彼女もそれで許してくれる当たり、君には甘い。



そして、彼女と食事をとりながら、今日あったことなどを面白おかしく話す君であったが、そこで疑問に思うことがあった。


それは、昨日から懐いていた違和感で、この怒涛の連日のため失念ぎみだったことなのだが、このようにその日あったことを思い出しながら話すにあたって、浮かび上がってきた疑問だ。


それは、君へ投げかけられる『大和』という名。その君が『知らない名』は、いったい『誰のこと』を指して言われていたのだろう? という、疑問だった。

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