13 モテ期
13
夏休み明けの最初の講義の日、私が講義室に入ると、それまでざわついていた室内が一瞬にして静寂に包まれた。
私は、いつも自分が座っていた席に着く。
すると、再び室内にざわめきが起こった。
「同級生に、あんな女子学生いたっけ?」
「いや、いなかったはずだ」
「編入生かな?」
「うちの大学、そんな制度あったっけ?」
ただでさえ女子学生の少ない医学部で、いきなりメイクしての女子デビューは、やはりマズかったか。しかも、バストはDカップである。
「えーい、来ちゃったものはしょうがない。今日はこのまま講義を受けよう」
私は覚悟を決めて、一時限目の講義のテキストを取り出した。
※※※
「それで? どうだったの、大学は?」
その日の夜、マスカレードに出勤すると、すぐにリエさんが聞いてきた。
「いや~、それが……」
私は頭をかきながら答える。
「二人の同級生から告られて、女の子たちのグループに仲間入りできました」
私の報告を聞いたリエさんは、「ほら、やっぱりね!」と言って、隣のナナさんに「焼き肉、ごちでーす」と勝ち誇ったように宣言した。
「う~、医学部の男子学生っていうのは、そこまで見境がないのか……」
ナナさんが悔しそうに言う。
「だってさぁ、聞けば女子学生がほとんどいないっていうじゃない。そんなところに、エリカちゃんが降臨してごらんなさいよ、もう、大変なことになるじゃない」
リエさんは、「当然だ」というように言った。
「で、告ってきた医学生とは、付き合っちゃうの?」
さらにリエさんが追い打ちをかける。
「いえいえ、とんでもない。付き合うとか、あり得ないですよ」
私は慌てて言った。
「むしろ、外見が女子化したからって、いきなり告ったりできる相手のほうが、何考えてるかわからないっていうか……」
私が言うと、リエさんとナナさんは口をそろえて「もったいない!」と言った。
「エリカちゃんの同級生ってことは、将来医者になるのが確定みたいなもんでしょ? 院長婦人とか、最高じゃない!」
リエさんが言うと、ナナさんも「ねぇ」と言って、私をとがめるような目で見た。
私は苦笑いしながら、「私も医者になるから、別にパートナーが医者でなくてもいいですよ」と言った。
「でも、意外だったのは女の子たちと仲良くなれたことですね。あっけないぐらい、スムーズに受け入れてもらえました」
不思議に思って言うと、「そんなの、決まってるじゃない」と、リエさんが即答する。
「エリカちゃんが、女じゃないからよ」
禅問答のような答えに、私の混乱はさらに深まった。