12 ニューハーフとして生きる
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「私、マスカレードで働くまでは、メイクもしたことなかったし、女の子っぽい服を着たこともなかったんです」
私の突然の告白に、目の前のマーサさんは面食らったようだが、黙って続きを待ってくれていた。
「でも、ここの皆さんは優しくて、私、つい甘えちゃってました。メイクをして、きれいなドレスを着た私のことを、皆さんがほめてくれるから、それがただうれしかったんです」
マーサさん以外のお姉さんたちも、みんな黙って私の話を聞いていた。
「これまで、私の心が女の子だっていうことを、誰かに話したことはありませんでした。ここでは、無理して男の子っぽく振る舞わなくてもいいし、ラクだな、とさえ思っていました。とんだ思い違いです」
一旦話を切り、考えをまとめる。
「先輩の皆さんが、生き生きと働いてらっしゃるのを見て、私も経験を積めば皆さんみたいに働けると思っていましたが、そうじゃないと気づいたんです。皆さんは、ニューハーフという生き方を選んで、日々努力しているからこそ、輝いているんだと」
誰も、何も言葉を発しなかった。
「マーサお姉さん、本当にごめんなさい。私、気合入れなおして頑張ります!」
皆の視線が、こんどはマーサさんに集まった。
マーサさんは、顔を赤くして「な……」と言った。
「な……?」
皆の頭の上に、はてなマークが浮かぶ。
「生意気だぞ、お前!」
耳まで真っ赤にして、マーサさんが言った。
「新人のお前から先に謝られちゃったら、先輩であるボクの立場がないだろ!」
控室に漂っていた緊張感が、みるみるほどける。
「それに、なんだよ『気合い入れなおす』って。お前、男かよ」
私は涙ぐみながら、「すみません、男です」と言った。