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葛城満葉をかたる

01 葛城満葉とは?


 葛城満葉は馬鹿である。

 これは、私が葛城満葉という存在に触れ、感じ、知った結論である。

 馬鹿と一言に言っても存在を否定する発言ではなく、時には馬鹿という言葉に良い意味でという前置きを置く事でそれは肯定的、むしろ悪口では無く賛辞とも呼べる素晴らしい褒め言葉とも化けるのであるが、ここではその前置きは置かない。そう、良い意味も悪い意味も形容詞は無く、ただ馬鹿なのである。

 葛城満葉はイコールで馬鹿。svcで馬鹿。それが私が葛城満葉を表現する最も適した補語だ。


 「馬鹿、馬鹿とうるさい」


 と、満葉のあのハスキーなボイスで脳内再生された罵詈はここでは無視する。と言ってもこれは私が彼女の性格から無意識に記憶を元に生み出した幻聴であり無視したところで何の問題はない。あるとしたら、彼女は馬鹿と言われ怒るような人種だと曲解されてしまう可能性があるという事だけだ。

 実際に葛城満葉に、私が今語った葛城満葉は馬鹿論を話せば彼女はうるさいと文句を口うるさく罵る事もせず無言でグーパンチを私にお見舞いするだろう。その時に私がどれだけの被害を受けるのか、そういう被害者の都合を一切考えない、通称『無責任パンチ』を。

 では葛城満葉がどれだけ馬鹿なのか。『無責任パンチ』という波動拳並みの常人では意識的にコマンド入力を行わなければできない離れ業を日常的に、息を吸う様に行う彼女について少し触れるとしよう。

 彼女身長175センチ。体重56キロ。鋭い釣り上がった目元と長身の美女。ミステリアスな顔立ち、スタイルの良さを見せびらかす様な悦の入った歩く姿勢、自身に満ちたその態度。それら全てを表現する人物が葛城満葉。私が大学2年の頃。目先の事しか考えない、将来という言葉が脳の辞典に入っていない堕落という二字で表現される私が出会った、始めて心の奥底から美しいと、溢れんばかりに、感情が乱れるほどその容姿に身を震わした初めての同性の人物だった。

 私が彼女を知らない、男が女を選ぶ時の基準で彼女を評価するとそれは『完璧』の一言で済まされる。

 美し過ぎる程に美しいのが彼女の第一印象だった。

 全てのあらゆる男を知り、男だけでなくあらゆる同性を知り尽くし、あらゆる体験を経験し、あらゆる世界に触れたそんな上位存在。あらゆる非日常を集めそれを一つに凝縮しそれを形にしたのが彼女。

 そんな風に思った。

 その今にして思えば余りにも評価し過ぎた過大評価を、ただの綺麗な石ころにダイヤモンド並みの価値をつける様な無邪気な子供の愚行に気付いたのはそれから3日後、彼女を目撃した後の私のストーキングによって早すぎる露呈をする事になる。

 ストーキングをした事は少しここで釈明する。

 ストーキングする事に少しの罪悪感があった。ストーキングをした事と言うより犯罪を犯しているという事に罪悪感があった。

 そういう罪悪感の逃避として私は一つの言葉を借りる。


 『バレなければ犯罪じゃないんだよ。』


 私の恩人の決め台詞、もとい戯言だがその台詞を借りれば、このストーキングは犯罪じゃないと言える。

 しかし犯罪でない犯罪が成功しても必ずしもいい事ばかりではない。

 この時私は身を持って知った。

 罪を犯せば必ず報いを受けると。



02  大学とは?


 二ヶ月の空白期間。労働者から羨望の目で嫉妬される大学生の合法的な無職生活。夏休み。

 この二ヶ月に何を行ったか。モラトリアム人間はその行いで評価できると言える。

 バイトをし資本主義らしく社会に奉仕し対価を得る人物もいれば、後先の事を考え、人生の設計を計画しスキルを身につける人物もいる。その一方長い、長過ぎる長期休養という四文字熟語を行う人物もいる。

 意味は食って出して読んで視て食って寝る。

 まぁ私だ。少ない、余りにも少ない日銭、一宿一飯では無く、一食一パンの生活、ダンボールを食すゴキブリの様な生活。

 それらを耐え抜いた先にあるのは虚無と5キロ減った脂肪だけ。

 しかし、そんな生活もいつかは終わりを迎える。

 24時間は短い。24時間を×60しても短い。永遠という言葉以外は短いと感じながら私は大学に向かう。


 大学は遊ぶ場所。私が大学に入学してその言葉が比喩でも揶揄でも嫉妬でも負け犬の遠吠えでも無く、言葉通りの、先人達の経験から来た真っ当で正確な大学を表すこれ以上ない言葉と知った。

 と言っても遊ぶだけでは脳がない。

 無さすぎる。

 だから、私はその言葉に逆らって大学生活を送ることにした。

 遊ぶのでは無く、遊ばない。遊ばない事に全力を尽くす事にした。

 そうなると遊ぶと言う事をまず知らなければならないと私は思った。

 遊ばない為には遊ぶを知る必要があると。なんだか遊ぶ事に理由を付けるため、無理やり屁理屈を捏ねまくった結果の到着地点だが、その通りなので弁明はしない。

 だから私は最も遊んでいる印象があった、所謂ネットで馬鹿にされるヤリサーに入った。

 ヤリサーで一年遊べば、遊び尽くせばあとの大学生活は理想的遊ばない生活を送れるだろうと、自分の飽き性という特性を過信し過ぎた計画。そしてそのまま一年が過ぎ、2年の夏休みが過ぎた。

 そして、この時期に私は彼女と出会う。当初の目的を忘れ、堕落と性に溺れる青春を送った私の目の前に彼女、美し過ぎる彼女。葛城満葉と出会う。


 「こんなところに部室棟があったんですねぇ……」


 彼女の第一声はこんな感じだったと思う。ハスキーだが猫を被る為に無理やり絞りだした甘ったるい声。その言葉の意味よりも私は彼女に目を惹かれた。いや私以外の全ての部員が彼女に惹かれた。そのあまりにも妖艶で美しい彼女に。

 黒く透き通った黒髪。その長髪に似合う二重瞼の美しい瞳、鼻筋と顎の美しいEライン。平均男性の身長よりも長身だか彼女の美しいプロポーションは嫉妬も憧れも沸かない素直な称賛しか無い。釣り上がった瞳に少し怖い印象もあるが、それすらも魅力的で、吸い込まれる様な深みのある味があった。

 前述の通り、私は彼女が美しかったことを十分過ぎる程に痛感したが、この時ある感想もまた湧いた。それは言ってしまえば嫉妬だ。しかし私には嫉妬では無く、悲しみのような憐れみの感情があったと思う。


 『この人は多分モテない』


 私が葛城満葉を美しいと思ったと同時にその正反対の意味を持つ感想も湧いたのだ。



 葛城満葉はヤリサーに興味を持たなかった。その時一言二言彼女と言葉を交わしたが内容は覚えていない。多分活動時間とか活動内容とかの話だったと思う。彼女が去った後私も部室を去った。勿論彼女を追いかける為である。

 そして彼女を知る為のストーキングを決行した。



 彼女を観察して解った事は数あれど、やはり私が先に述べた通り、彼女に関して語るとするならそれはただ一言『馬鹿』と言うことに集約する。

 馬鹿。実は葛城満葉は馬であり鹿である化物だった。などと気を衒うつもりはない。これはファンタジー小説では無いのだ。一般的であり、雑文の一つであり、駄文だ。と、自虐をしてみたがこれも伏線だったりするのかもしれない。何故ならこれは語りである私の小説なのだから。

 さて、改めて。葛城満葉は意味通りの馬鹿。

 馬鹿と言う言葉の正確な意味を私は定義づけるつもりは無いが、彼女の行動から反射的に出た言葉が馬鹿なのだから彼女は馬鹿そのものもなのだろう。


 さて、色々と不毛な事を述べたがそろそろ彼女を観察した結果を発表しよう。



03 挨拶とは?


 「おはようございます」

 それが葛城満葉の口癖だった。彼女は数多くの人物と出会う度、全く同じ抑揚で第一声でその口癖を言う。昼でも夜でも変わらずおはようございますと。

 社会人ならおはようございます、だ。とバイトの先輩に言われた事を思い出す。お疲れ様はサークル感覚でだらしないと理不尽に叱咤された私の嫌な思い出を。その後に知った事だがおはようございますを言わない会社も普通にあるらしい。なんだそりゃ。

 初めのうちは彼女のこの口癖も対して気にはならなかった。しかし、15人目を超えたとき(この時私はカウントしていたのだが)それは異常に思えた。

 普通に考えて、知人いや彼女たちのやり取りを見るにそれは友人、そんな関係の人に対して毎回そんな仰々しい挨拶をするか?

 そんな普通な感想が湧いた。彼女にとっては普通ではないそんな感想を。

 その後に大学の課題や彼女の趣味なのか良く小説のタイトルが聴こえてきた。

 良く挙がる作家は『森見登美彦』や『宮部みゆき』が多かった。

 ああ、読みそ~。またも普通の感想が湧いた。

 私も何冊か読んだことがある。だから彼女の風貌とその作風を照らすと彼女がその作家達を好みそうと思った。

 私も小説を語る事はあるがいつも短く話題は終わる。

 わかるわかるー。なんて言葉を現役女子大生と何度交わしただろうか。

 そんな中身を語らないわかる評価を私は良くする。何故なら私が中身を語ると陳腐に感じるからだ。

 中身は読書日記にでも書いてろ!

 それが私の持論だ。人に話すものではない。

 とまぁ私は言い訳は十八番だ。


 さて、話を戻す。

 脈絡がない?唐突?

 隙があれば自分語りそんな私はなんて駄目なやつなんだ、と反省したので許してもらいたい。

 そして、馬鹿らしいストーキングによって得るものはあまり無く2日続いた。この時点で馬鹿なのは私だった。私はなんて馬鹿なやつなんだ。その上人を馬鹿にする馬鹿なのだから手に負えない。

 観察の三日目。私は直接彼女と接触した。勿論、「今までストーキングしてたんだけど、馬鹿じゃないじゃんお前」、なんて言う為に接触した訳ではない。「馬鹿なところみせろよ」と馬鹿にする為に行ったのではない。

 何度でも言うがここまでは不思議な所はあれど、私にとって彼女の評価は『完璧』だったのだ。

 だが、完璧な彼女に惹かれた私は彼女に近よらずにはいられなかったのだ。

 街灯に集る虫のように。彼女は私にとって眩しすぎた。

 「やぁこんにちわ。前にテニスサークルの部室であったよね」

 ヤリサーといえばテニスサークル。そんな常識を書く事もないと思ったので記述は無かったが、ヤリサーと言えばテニスサークルだ。

 「あら貴方は。おはようございます。えっと確かーーーさんでしたね」

 なぜ意図的に名前を隠すのか、だって?深い意味があるのだよ。

 「覚えててくれたんだね嬉しいなぁー、ちょっと気になったんだけど、なんでおはようございますなの?」

 私は2日間頭の中でたまりに溜まり、溜まりすぎて夢にまでおはようございますと言われる始末であったその疑問を吐露した。

 だって寝てるのにおはようございますだよ?矛盾を我で通す彼女に少し文句も言いたくなる。夢の中だけど。

 「え?」

 彼女は素っ頓狂な声をあげた。当然だ、出会い頭「どうしておはようございますなの?私が寝ぼけた顔してるようにも見えたんかおら」なんて言われたらそりゃ誰でも困惑する。彼女はそんな不躾な質問に対して困惑こそあれど完璧な解答を突きつけた。

 「私、両親が芸能人なの」

 ほ、ほーん。なるほど芸能人。芸と能のある華やかな、あの芸能ね。芸能人の挨拶はおはようございますなんて私でも知ってる。芸能人に知り合いはいないけど、知っている事もあるのだ。

 その時素直に納得した。なら仕方ないと。

 「なら仕方ないね」

 「用ってそれだけ?」

 「ごめんね、変な事聞いて。実は葛城満葉さんに私頼みたいことがあるんだ」

 「なにかしら、悪いけど私テニスサークルは入る気ないんだ」

 少し申し訳なさそうにそういった。そんな人を気遣える外面を完璧に演じた。流石は芸能人の子供だ。葛城満葉という人物を彼女は完璧に演じている。私はそう思った。そして私はそんな完璧な彼女を見て決心を強め、覚悟を決めた。

 「いやサークルはどうでもいいんだ」

 「そうなの?じゃあなにかな、私にできる事なんてあんまり無いんだけど、同じ講義とってたっけ?」

 「いや、そういうのでもないんだえっとね……」

 

 『葛城満葉さん、私と付き合ってくれませんか?』

ここまで読んで頂いた方には感謝という言葉しかかける言葉が見つからない。

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