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桜5.誤報DEゴーゴーイング

「誤報がいっぱい飛んでいく……」

文字通り飛んでいってしまったのだからしょうがない。

 誤報ゴーホームとか言ったところで、絶対戻ってくるわけがない。

 空いっぱいに飛んでいく、誤報を乗せた鳩たち……私はそれを、ただただ見守る。

 彼らは、飛び立ってしまえばもう戻ってくることはなく、王都の神殿までまっすぐに飛んでいくらしい。もちろん、脱落者は何名もいることを想定し、10羽以上が一斉に放たれた。余所に情報ふりまかれててもいいのだろうか……ちょっと、情報の取り扱いについてモノ申したいところである。

 こうなってしまっては、1羽2羽撃墜したところでどうしようもなく、誤報の行方を見送るばかり。

 誤報……私の名前がサクラってなったままというのはもちろんのこと、そもそも聖女発見からしてニセ情報なのだから、誤報にもほどがあるというものではないか。

 それでも、それで王都に呼んでもらわにゃならないのだから、見送る以外の術があるものか。

 呼ばれる聖女は佐倉なのだから、アマルナに頑張って欲しいところだけれど、アマルナ発信の報告だから、彼女をニセ聖女にする術は既に断たれた。

 私、クリステルが、サクラって名前をあだ名にして、聖女として働いていかなきゃならない……変な話だが、そう通達しちゃったのだからしょうがない。

 まいったなぁ……私の計画がぽしゃりまくりである。


 あの後、まなじりつり上げた村長の娘の手により、猫のように襟首つかまれた私は、母の元へと連行された。

 佐倉は私じゃなく、アマルナの前世の名前だと説明するいとまもなく、引っ立てられて今に至る……。

 今がどんな状況かって? そりゃ、王都まで飛んでいく鳩たちがよく見える状況だ。

 家の庭の、一番がっしりとした木の枝。ブランコの隣にロープで宙吊りされてしまっている。

 うちの父の筋肉は、こういうことに使われるべきものではないと思うのだが……お仕置きとなるとかならずこうして吊るされるのが常。そうして、まさしく手も足も出ない状況で、誤報が飛んでいくのを眺めるばかり。

「ごめんなさいごめんなさい、こ~め~ん~な~さ~い~ってばぁ~」

柔らかそうな茶色の髪を後ろで一つにまとめ、かわいらしい顔を般若のように歪め、腰に手を当てて先ほどから説教垂れている母に、もう一度謝罪の言葉を告げる。だけども、そんなこと聞いてもいないとばかり、説教の言葉はマシンガンの如くに繰り出されてきて、参ってしまう。

おかしぃなぁ……ゲームの中では、マリーママといえば甘々で、なんでかんでもはいはい聞いてくれる優しいお人だったはず。

 なのに、どうしてだろう、私の前では眦つり上げ怒る姿ばかりが展開されている。小さいころは、メロメロに甘やかしてくれたはずなのだが、いつの間にか、甘やかしよりもお叱りか怒鳴り声ばかり聞くようになってしまった。

 そういえば、はじめは木登りしても川を泳いでも心配で泣いていたはずのお人が、いつから猫のように襟首つかむようになったんだろう……それはほかの村人たちにも当てはまることなのだが、本当に謎だ。

「ちゃんと反省したら、下してあげるから! しっかり何が悪かったか考えなさぁい」

「はーい、覗き中にほかのことに夢中になって、大声出したのが悪かったでーすっ!」

「ちがう! 覗きなんてすんなっつーてんでしょうが、この馬鹿娘」

「だーってーっ、だってだってだって、自分の仕掛けがうまくいったかどうかって、どうしても気になるでしょう?」

「そういう余計なおせっかいからして、すんなっつーてるんでしょうがっ」

こぶしを振り立てて怒った顔は、それでもゲーム中のグラフィック同様にかわいらしのだが……それでも笑顔ばかりだったはずの彼女からは想像できないものだ。

 ゲーム中に三枚あるマリーママがらみのグラフィック、そして立絵も含め……すべてたおやかに笑っている姿ばかりだった。甘やかしキャラだったはずなのに、現実では結構厳しく苛烈なお方だ。

 まぁ、つっこみまくりクリステルの母という時点で、普通の人じゃないっていうのは当然といえば当然。

 でも、もうちょっと私に優しくしてくれてもいいものを……と思えてしょうがない。


「サクラさまぁ、今、送った鳩たちは、半日もかからず王都に行きますからぁ。ご安心くださいねぇ。でも、返事はぁ、人の足なので4~5日かかりますかねぇ」

お願いだからRUNする前にホウレンソウ、私のGOサインを受けてくれい。

 マシンガンのごとく繰り出される母の説教とサラウンドで響き渡る、アマルナの暴走行動。どちらも全く止まる気配を見せないのだから困ってしまう。

 にしても、5日か……当然といえば当然なのだが、まったくもって悠長な話だ。

 田舎で閉鎖的な場所だからってわけじゃない。ただ、村単位の自給自足で事足りてしまっているだけのこと。物流も流通も何もなく、外からの品物といえば、雑貨屋さんが月一回、近くの町に繰り出す程度。年に一回、村の若者たちが町のお祭りに繰り出す程度。

 しかも、移動手段に馬すらもない……人の足がほとんどで、荷物はヤギやロバが背負うのみ。犬すらも、ペットではなく貴重な労働力だ。

 情報は人づてしかなく、電話やテレビはもちろんのこと、新聞すらもない。そもそも隣町までも、丸々一日かかる場所だ、ろくな情報が入ってくるわけがない。流れるのはもっぱら、ご近所さんのゴシップオンリー。

 どこそこの娘がおせっかい過ぎて邪魔なレベルだとか、どこそこの奥様がまた今日も怒鳴っていただとか、どこそこの子がまたなんかやってるとか……その程度のこと。

 王都に連絡するにあたり、アマルナが伝書鳩を持っていただけ万々歳で、下手したら人を出して10日以上待ちぼうけもあり得た話なのだ。

 そうなると、いっそのこと、アマルナと連れ立って5日分の食料抱えて行った方がマシではないかと思えてくるが……生まれてこの方、前世も併せてウン十年、旅はおろか丸一日歩き続けることだってなかった私に、それが可能とは思えない。食事も寝るところも休むところもあったとて、歩き続けるのはさぞや辛かろう。筋肉痛とかも考えれば、道程は倍ではすまないかもしれない。

 そもそも道も方向もわからないし、5日分の食料の用意だって容易くない。いや、5日分……つまりふたりで30回分……パンだけにしたところで、持てるのか? って量になってしまう。

 やっぱり迎えを待つしかなく、いっそのことリムジン……はないだろうが、馬車とかでお迎え来てくれないだろうかと期待するばかりである。


 ゲームを信じるならば、あの誤報によってお迎えが来るはずだ。

 普通なら、いきなり田舎から『聖女発見』なんつぅ怪しい文章に、速攻アタックかましてくるようなバカはいないだろう。だけども、ゲームではそうなっているのだから、きっと、そういうバカがはちゃめちゃ動いてくれるのだろう。

 王都までたどり着いてしまえばこっちのものだ。ゲーム知識をふんだんに利用して、佐倉に逆ハーを築かせてしまえばいい。

 ゲームと現実は違うとはいえ、こちらだってよる年波……じゃなかった、年の功より亀甲でもない、えぇっと……まぁ、年上の魅力というやつだ、あれでなんとかできるはずだ。

 佐倉に、めいっぱい甘々ラブラブ生活をおくらせなくちゃならない。

 佐倉が、この世に未練だらけになるぐらい、幸せにしなくちゃならない。

 佐倉が、もう容易く死なんて選べないよう……。

 とりあえず、今は手も足も出せない状態なのだからしょうがない、時間はまだまだたっぷりあるのだから、失敗した分の汚名返上も含め、これからの計画をきっちり練らなければいけない。

 佐倉、あなたが幸せになるために……。

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