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05.宰相との甘い密約……じゃないか

「まぁ、正直言って、グレゴワール氏ならば、クーデターを画策する程度はやりかねないというか……常々算段してらっしゃるでしょうけどね」

そんな言葉で、セドリックは私の否定をあっさり無視した。

 まぁ、養父はもともと、反国王派を隠しもしない。でも、そうとまで思われているというのはどうなのだろうか。ある意味、反逆組織の旗印にでもなっていそうで、その気がなくても担ぎ上げられてしまいそうな気がしてくる。

 つまるところ、養父を説得してクーデターを起こすのをあきらめさせたとして、他の人がその引き金を引けば、その犯人にされかねない。ならば、義父をなんとかする以上に、その周囲を黙らせることこそが必要なのかもしれないが……それこそ、どうしていいのかわからない。

「今、はっ! 今、別に、そういう、のっ、のはっ、ないの、ない、今はっ!」

慌てて紡いだ否定の言葉は、常よりももっと聞きづらく、自分でも何を言っているのかわからなくなる。さらに言葉を重ねようとは思うのだが、続けるべき言葉も見つけられず、困惑するばかり。

 だが、それでも意図は通じたか、セドリックはくすくすと笑いながらに、

「わかりましたよ」

と返事をくれた。

 でも、その胸の内の疑惑、晴れているわけではなかろう。

 頭のいい人たちの、こういうところ、本当に何を考えているやらわからない。

 どこぞのじじばば軍団しかり、マティアスしかり、悪いことをするときほど、笑顔が出るのが本当に恐ろしい。


「では、いっそのこと、私に嫁ぐかい?」

唐突に、ジェラルドがおかしなことを言い出した。

 ジェラルドは兄妹であり国王であり、そうですかと簡単に嫁げる相手などでは当然ない。

 というより、今の話のどこからそういう話に発展したものか……クーデターと結婚との関連性に、全く頭がついて行かず、ただ目を丸め見つめるばかり。

 ぼうっとジェラルドを見ていると、ぽんぽんと頭を撫でられる。

「お前が正統なる血を継ぎ、私は簒奪者の息子と言うのなら、いっそ一緒になってしまえばいいだろう? そうすれば、正統なる血も深まり、私も正統なる王の父として、しばし玉座を温めることぐらい許されよう。どうだ?」

男子直系の継承なのだから前国王が簒奪者というのがそもそもおかしい。その上、その正統なる血とやらは兄であるジェラルドも継いでいる。

 そもそも二つ心を抱いたの母で、王家の責任を全うするよりも、恋に生きた母こそが裏切り者だ。

 私のことを正当だと担ぎ上げたがる面々が欲しがっているのは、ただの傀儡であるところの私だ。それが王位を得るからこそ、利用し甲斐もあるのだ。

 ジェラルドと結婚したところで彼らにうまみはなく、ただ担ぎ上げるお飾りがなくなるだけに過ぎなければ、誰が賛同するというのか。

 もちろん、彼が勅命を出せば、私に……いや、私の意思も何も関係なく、養父すらも否定はできまい。

 私が呆れて返答も口にせずにいれば、頭を撫でる手はますます優しく、髪の先にまで撫で下りて、毛先を指に絡めて遊ぶ。

「なぁに、血が繋がっている程度のこと、王家の歴史をひも解けば、いくらでも前例はある。それに、君自身はグレゴワール氏のご令嬢である以上、なんら障害もなければ問題もない」

「……そんな、問題じゃ……」

否定の言葉を口にするが、どうやらジェラルドは半ば本気らしく、額を突き合わせて更にと勧めてくる。

「嫁いでくるなら優しくするぞ。実際、今のところ、お前以上にかわいいと思う相手はおらん。妾も側室も作る気はさらさらない。なれば……」

「ジェラルド様」

さらなる口説き文句を聞く前に、セドリックがその手を止めて引きはがしてくれた。


「何を言ってるのですか。あなた方が結婚するぐらいで、全てが解消するなんてことありえませんよ」

呆れたような物言いに、思わずちょっとほっとしてしまう。

 セドリックにまで、国王との結婚が一番いいと勧められたら、うっかり頷いてしまいかねない。たとえ違うと思っていても、その言葉に流されてしまいそうだ。

 そもそも、結婚する気のなかった20歳。周囲も……反国王派は王位を継いでから王配をと、国王派は継承権争いを万が一にも起こさせないために未婚をと求められ、今まで結婚のことなど考えたこともなかった。

 今更結婚を持ち出されるとは、驚くばかりだ。

「……なにより、クロエは私の妹でもあるのです。それを……」

「だからどうだというのだね、お前を兄と呼べば問題なかろう」

「いりません、こんな弟」

「なんでだ、仕えている主人に対して、あまりにも失礼ではないか?」

「だからこそ、見えているものがあるとお知りください」

なんだか話は反れたようでホッとしていると、今度はセドリックが甘い誘惑を向けてきた。


「王妃ともなれば、面倒事は避けられません。行事への参加も嫌がるあなたのこと、社交界も女性同士の交流も女官たちの采配もお嫌いでしょう? 私ならば、すでに父の代で爵位をなくしていますし、あなたのお嫌いな公務も何も、押し付けることなどいたしませんよ。もちろん、一生涯苦労させませんよ」

爵位はないとしても、宰相の妻ともなれば、それなりにやるべきこともあるだろう。家の中のことも、まさかすべてほっとくというわけにもいかないだろう。それでもそこまできっぱり言われれば、それなりにいろいろ甘えさせてもらえそうで、少し心が動いてしまう。

「兄弟ではございますが、同腹ではないのでなんら問題もありますまい。そもそも、姓が違いますから、公的には全く問題なく結婚できますよ」

「……なにを……」

だけども、そもそも彼と私が結婚して、何かあるというわけではない。

 そもそもクーデターがどうのという話ではなかったのか、困惑しながらセドリックを見れば、セドリックは私の耳元の後れ毛をイタズラしながらにこりと笑った。

「さっきの君の話ですよ。クーデターを阻止したいというのなら、私にすべてを任せるという手もあります。私の妻という立場になれば、誰にも手出しはできません。させません」

なるほど確かに、ゲーム中でもセドリックはマティアスの目をかいくぐって革命を成し遂げた。

 初めから、セドリックにすべてを任せればうまくゆくのだろう。ただ、セドリックに伝えるべきクーデターの計画のほとんどを、私は知らない。

 起きた結果の一部や、マティアス自身からかいつまんだ説明を受けはしたものの、どこから襲撃したのか、首謀者……はともかくとして、その関係者には誰と誰がいるのか、実際の詳細を知らない。

 これでは、何もわからないのと同じではないか。そんなもの、意味の欠片もありはしない。


「……でも……私……すきな……好きな人、いる、から……。ほかの、誰かと、添えない……わ」

ありがとうとの気持ちも込めて、そっとセドリックに伝えれば、小さなため息とともに髪に触れていた手が離れた。

 かといって、好きな相手であるマティアスと結婚できる可能性なんて欠片もなくて、思わず自嘲の笑みが浮かぶ。

「神様に……祈る、日々を、続けたい……の……ずっと、このまま……」

言った時、カタッと、天井からかすかな音がした。

 その音に、声や名前が載っていたわけではないが、ジュエルがもどってきたんだと、なぜだかそう思った。

「でも、どう……しようも、なくなったら……それに、頼る……わ」

結婚してセドリックの懐に逃げ込むというのは、なんともなさけない話ではあるが、最悪の逃げ場があるというのは少し嬉しい。

「わかりました、お兄ちゃんとの、約束ですよ」

私の情けない言葉に、セドリックは冗談めかしてそう言うと、にっこりと極上の笑みを浮かべて見せた。

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