中に入りました ~3階編 七つ道具その5~
朝早く、明るくなってから書くとあまり怖くないということに、今、気がつきました。
太陽のご利益って偉大ですね?
怖いお話は、明るいうちに書くべし!
「ちょ、ちょちょちょちょちょぉぉぉーーーーーー」
「ちょうちょ? いや、この時間帯なら蛾じゃないの?」
「違うわ、このボケカスがァァァァーーーシャーーーーー!!」
って、なんで威嚇されないといけないの? 私。
そしてあなたは、毛を逆立ててお怒り真っ只中の、猫ですか?
「わ、私の体に、私の体にぃぃぃーーーーー!」
って、毎度のヒステリーを起こしつつも、何かを一首懸命に払いのける行動を取っているのですが。
「? どうしたの? 蛾がまとわりついてんの?」
「は? 見えない女はこれだから・・・・・・って羨ましい! 心底羨ましい! 今私たちの体には、体にはねぇ・・・・・・って、なんで私だけ? あんたには何も憑いてないじゃない? なんで動けないの?」
とのことなのですが。
「あ~。うん。何か踏んじゃったんだよねえ。こう、嫌な感じものものを・・・・・・」
靴裏にペンライトを当ててみれば、
「やっぱりなあ~。誰だろう? こんなところでよく犬の散歩できるよね? チャレンジャーだよね? その人」
う○こらしきものが、ネチャッとこびりついております。
仕方ないので、リュックから真夏の夜に外に出るときの、七つ道具その5を取り出しました。
「え? ソレなに?」
何かを振り払う仕草を一向にやめないまま、驚いた声で聞いてくる般若面の女。
「? 水で靴裏を洗っているだけだけど?」
匂いがついたらたまりません。
ここは発見、即、撤去です!
「いやいやいや、その水おかしいよ? 絶対におかしい!」
「? なんで?」
ちょうど喉が渇いたので、残った水を飲んでいたのですが。
「それか! それが原因かぁぁぁぁ~~!!」
って、何突然、大声出してんのこの子は!
恐怖の対象が何も見えない私でも、びっくりしてしまうわ!
その声に体が無意識に反応して、思わず持っていたペットボトル、下に落としちゃったじゃない!
「・・・・・・まあ、あと5本持ってきているから問題ないか」
「? なんでそんなに水を持ってきてんの?」
「だって私汗っかきだし? 体が常に水分を欲するから」
「糖尿じゃないよね?」
「至ってオール健康優良児ですがなにか?」
「ですよね~」
って、なんでそんな気の抜けたような声?
それにしてもいい加減、お面を取ってくれないかしら?
表情が全く見えなくて、正直不安なんですけど。
第一、そんなお面かぶったままだと蒸し暑くないですか?
だから常に、そんなに不機嫌なんじゃないの?
「とにかく、その水を私にも頂戴!」
って私の襟ぐりを、そんなに力強く引っ張らなくても。
「? 喉渇いてんの? ですよね? そんなお面かぶりっぱなしじゃ、中が蒸すもんね?」
ということで分けてあげることに。
「これね? 私もこれを飲めば・・・・・・」
鬼気迫る勢いで私からペットボトルをブン取ると、ゴクゴクゴク・・・・・・と美味しそうに喉を鳴らしながら、すっごい勢いで飲んでいやがりますよ?
いい加減、その薄気味悪いお面を外せばいいのに・・・・・・。
「プハー! なかなかにしていい水だったわ。なんていうのかしら、のどごしが良くてやわらかい? っていうか、無味無臭なのにとても飲みやすいというか。思わず成仏していしまうほどの、後味すっきりなこのおしさ! ねえこれ、どこのメーカー?」
口の端からこぼれ落ちた水を、左手で乱暴に拭いながら、空っぽになった500mlペットボトルを返却してきました。
気に入っていただけて、何よりだわ。
「? 私、水を購入すると言うことに関しては、抵抗があるのよね?」
「?」
「コレ? 家の近くの神社の裏に出ている、湧水だよ? ほら! 何年か前に、“天然の○いしい水100選”に選ばれたっていう、アレ。我が家では、飲料水は昔っからコレなんだよねえ~」
そう。
我が家では定期的に、この水をポリタンク単位にて、ゲットしております。
のどごし爽やかで飲みやすい軟水な上、タダ!
そう、“美味しくてタダ!”というところが、重要なポイントでございます。
飲み水としてはもちろん、沸かしても美味しいし、料理にも使っているので。
「どうりで! どうりでこの水効くはずだわ!」
目の前の、再び般若のお面にて素顔を隠した我が友人は、納得のご様子。
「? 何に?」
「何にって? あーそーですね? 見えませんもんね? この幸せモンが! 私たちはね? 今、無数の赤ちゃんといいますか、水子の霊に完全包囲されているんですよ? お分かり?」
「え? なにその光景・・・・・・癒される?」
「なわけ無いでしょうがーーーーーーー! シャーーーーーー!」
再び、威嚇されました。
猫の怨霊にでも、取り憑かれましたか?
「原型をあまりとどめていない、ブヨブヨした感じのちっこい生き物が、どこからともなくワラワラと姿を現しては大量に現れて、自分にまとわりつくのよ? たしかココ、婦人科病棟だったよね?」
両手でギュッと自分を抱きしめ、ガタガタと震えていらっしゃるということは、あまり精神的に優しくない光景であると思われ。
「“カエレー、カエレー”・だの、“オカアサンニオコラレル”だの、“デテイケー、シカラレル”だの言いながら、ズルズルと床からまず足元にくっついて、ジワジワと這い上がってくるのよ? めっちゃ怖いのよ? 薄気味悪くて癒されるどころか、今にも発狂しそうよ! シャーーー!!」
発狂といいますか、猫様には取り憑かれてますよね?
「水子の赤ちゃんによる、連携プレー? これって、この階に来るまでにない、新しい展開ね?」
「? 言われてみれば・・・・・・。誰かに命令されて、一致団結的な集団行動、そういえば今回が初めてね?」
「でも私、何かがくっついている感覚、ないんだけど?」
「そりゃそうでしょう? あんたには何も憑いてないもの」
「え? そうなの?」
「多分、この神社の湧水ね? さっきもね? あんたが水をおとした時にも水子が、“ウフォ?”“ギャ!!”ってなんかおっさんの悲鳴みたいな声上げて、必死こいて水を避けていたから。だからきっと、この水を毎日摂取しているあんたは、無意識のうちに霊が近寄れない体質になったんじゃないかな?」
「え? そうなの?」
「うん! だって私もさっきその水飲んだら、くっついていた水子たちが“ギャーーー!!”って子供らしからぬ重低音の悲鳴を上げて、まるで水が蒸発するがごとく次々と消えていったわよ? ちなみに床から出てきた水子たちは、“ヒーーーーー!”って、これまた子供らしからぬ悲鳴を上げて、えっらい勢いで姿を消していったんだけど?」
「そうなんだ。なんか知らないけど、妨害行為に出てきたわね? もしかしてこの病院の幽霊たちには、ドンといいますか、元締めもどきみたいなのがいるってこと?」
「そうね? ラスボスというか、もう魔王とでも言うべき存在があるってことかしら? それでも、前に進むの? 静音」
「え? もちろんよ? だって私には、霊は近寄れないんでしょ? 水ならあと3本あるよ? ゴールは後1階上。ここで諦めてどうするの? 今でしょ!」
「え~まあ・・・・・・そうね?」
「私は諦めないわよ! そして手に入れるのよ! 私の安息の地を!」
ガッツポーズにて、決意も新たに、力強く前に進み出る・・・・・・と?
「ギャーーーーー! 今度はおっきいの来た! おっきい集団きたーーーーーーー! シャーーーーー!」
ってそんな大騒ぎしながら、私の胸ぐら掴まないで!
そして、そんなに強く前後にブンブン振り回さないで!
なんか、吐きそうなんですけど?
・・・・・・ということで。
私たち、またもやピンチみたいです!