中に入りました ~2階から3階へ 七つ道具その4~
ホラーになって、いますよね?
ゴロゴロゴロ・・・・・・。
ゴロゴロ・・・・・・。
ゴロゴロゴロ・・・・・・。
突然、前方の床に、何かが転がっていく音と影が。
「ひっ!!」
般若面女は、相変わらず私のだっこちゃん人形です。
正直、暑苦しくてしかも重いので、私は今すぐ捨てたいんですけど!
「前方に、たくさん、たくさんいるわぁぁぁ~~!」
「そうだね? こんなにたくさん・・・・・・」
「頭にネクタイ巻いたサラリーマン風のおっさんや、真っ赤な顔したおっさんに、黄色の腹巻が目立ちすぎなおじいさんに、キティーちゃんの刺青したおっさん軍団よ~~!」
「? 何言っているの? 目を覚まして!」
「ハア? 目を覚ますのはあんたよ! 一時退却よ? ここはやばいわ!」
「? 何言ってんの? 私たちの行く手を阻んでいるのは、たくさん転がってくる一升瓶でしょうが!」
そう。
どこからともなく次々と転がってくる、一升瓶。
なんで病院で、こんなに次から次へと出てくるの?
「これだから、見えない女は! よく聞いて! 私たちの目の前には、“酒をくれ~”“酒をくれないと祟るぞ~”“お酒くれなきゃ、おそっちゃうからね✩”なんてふざけた事言っている、アル中おっさん集団が壁を造っているのよ! やばいわよ? 私たち、アル中のしかも父親よりも明らかに年上な連中に、襲われてしまうのよーーーーー! きゃあーーーーー!」
って。
うちの父は、今年で58歳なんですけど、それよりも年上ってこと? でいいのかな?
まあそんな些細なことは、置いといて!
「確かに、周りはお酒臭いけど、それはこの大量の一升瓶のせいだから。アル中オヤジなんて、どこにもいないから!」
「だから、いるのよ~! 信じなさいよ~! 私だけ見えるのって不公平じゃない? あんたも恐怖におののきなさいよ~~!」
って、またもや混乱してしまっているのか、私の体を前後に強く揺さぶる、般若面の女。
正直、恐怖のあまり気がふれたとしか思えません。
「そんなに怖いなら、もう帰ったほうがいいよ? 私は、今日中に果たさないといけない約束があるから、意地でも副医院長室に行ってくるけど。仕方ないから、外まで一旦一緒に行ってあげるから、もう帰りなよ」
幼馴染として。
親友として。
ここまで一緒に来てくれた同士として。
心から心配になったから、そう提案してあげたのに。
「はあ? 何を言っているの? 私だってあの部屋に用があるのよ?」
突然、真面目な口調で答えてきやがりました。
「それって、そんなに大事なこと?」
「もちろんでしょ? でなきゃこんな薄気味悪い幽霊大放出なホラーハウスみたいなとこ、誰が来るもんですか!」
「そんなに大事なことって何?」
そういえば私、夏希がこんな怖い思いをしてまで、あそこに行きたい理由を知らない。
「私の一生を左右する、一世一代の大事なことなのよ!」
そう言って、またもや私の体を前後に強く揺さぶり始める、般若面女。
パニくると私を揺さぶるのは、クセなのですか?
初めて知りましたけど?
「ひとまず、この一升瓶の大群をなんとかしないとね?」
ということで。
「おらよ!」
次々と壊れた窓枠の外に向かって、華麗にシュート! を決めていったはずなのですが。
「え? なんで戻ってくるの?」
外の向かって蹴っても蹴っても、そしてまた蹴っても、その次の瞬間には、廊下をコロコロところがって戻ってくるんですが?
一体この一升瓶は、どんな仕組みになっているの?
「無駄よ、静音」
「え? どういうこと?」
「だってこいつら、“酒をくれ~”“酒を飲むまで諦めない~!”って、すっごい酒に執着している。お酒を飲ませない限り、こいつらずっと私たちにこうやって絡んでくる気よ?」
「じゃあ、お酒を飲ませれば、さっさと消えてくれるのかな?」
「まあ、多分そうだと・・・・・・まさか、持ってないよね?」
「え? あるよ?」
「なんで!」
「だってさ、こういうとこってマムシとかよく出るじゃん? ちょうどタイミングよく、うちの母方の祖父がマムシ酒をご所望なんだよね?」
ということで。
真夏の夜に外に出るときの、七つ道具その4。
日本酒一升瓶。
ちなみに銘柄は、祖父の地元で作られているというお酒“獺祭”。
今回はその祖父からの依頼もあり、一応リュックには3升ほど入れてます。
「やっぱりいい酒でないと、いい薬はできんけぇ~てことらしいよ?」
「え? 薬?」
「うん。マムシ酒は、精力回復効果や鎮痛効果に疲労回復効果があるんだって! 特に、捻挫や打ち身などの怪我をした場所には即効で効くんだって!」
「・・・・・・ソレ、本当なの?」
「なんでも、医学的にも証明されているらしいよ? おじいちゃんが自慢してたし?」
ということで。
「ほ~ら、人気の高いお酒ですよ~。美味しいですよ~」
と言って、一升瓶に次々とお酒をかけていった結果。
「・・・・・・お酒で、一升瓶が消えるってことがあるんだね・・・・・・」
次々と、一升瓶がまるで燃え尽きた灰のような姿に、変わり果てていくんですが。
「まあ。成仏してんじゃない? “ありがたや~ありがたや~”・“わしらの命の水じゃ~”“希望の水じゃて~”“まあ、ガソリンかの~”って言いながら、みなさんすっごくいい顔しているよ~。ちなみに次々と蒸発したように消えていってるんだけど・・・・・・」
ということで、3升全てをかけ終えた頃には、邪魔者はひとつ残らず、消滅しておりました。
これで安心して、前に進めそうです。
そしてやっとこさやってきました。
私たち、今度は3階にいます。
「もうすぐだね?」
そう思った時です。
「え?」
「ギャーーーー! これはやばいーーーーー!」
ということで。
私たち、突然、足が動かなくなりました。
私の実家は、かなりの田舎です。
よって小さい時、おばあちゃんに虫刺されにはム○ではなく、マムシ酒を塗ってもらっていました。
実際に、よく効いたと記憶しております。
打ち身や捻挫には・・・・・・あまり記憶はないのですが、調べたらそんな記述を見つけたので。
小さい頃からそんなのを見ているので、理科準備室のホルマリン漬けなんて、どんと来い!(いや、うそです。怖いの嫌です、ごめんなさい! あの中で動くの、マジ怖い!)
ちなみに日本酒は、島根県の“出○富士”というのが好きです。
辛口で後味サッパリ(私にとっては・・・・・・)で、ついつい飲みすぎてしまいます。
他にも好きなお酒はたくさんありますが、ここでは書ききれないので。