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中に入りました ~2階編 七つ道具その3~

 さらに進んでいく私たち。

 2階から3階へ行く途中。

 

「? アレ?」


 突然、私の視界に人影?


「え? なになに??」


 般若面の女は私のとる行動に、いちいち大げさな反応を返してくるので、正直うざいです。


「今、あの部屋におばあさんが入っていったわ・・・・・・」


「え? こんな時間に? それって・・・・・・」


 またもやその場にて、ガタガタと大げさに震え始める、般若面女。

 言っとくけど、失禁だけはしないでね?

 後始末は、自分だけでやってよね?

 なんて考えている場合じゃない!


「もしかしてアレかな? 認知の進んでいるおばあさんが、迷い込んじゃったのかな?」


 という私の判断、すっごく普通だと思うんだけどな?


「え? こんな気味悪いところ。誰も好き好んでこないわよ!」


「でも、ボケちゃってたらわかんないわよ? 危ないから、外まで連れ出してあげないと・・・・・・」


 ということで。


「い、いかないほうがいいわよ? きっと後悔するわよぉぉぉ~~!」


 って言ってたくせに。

 結局付いてくるんですね?

 私たちふたりはおばあさんが姿を消した、病室“218号室”へ。


「? アレ? ここは・・・・・・」


「え? 知ってんの?」


「うん。たしかこの病室番号。おじいちゃんが入院していた部屋だわ!」


 10年前。

 祖母と大恋愛の末に結婚、そして88歳で亡くなった祖父。

 いつも穏やかでのほほ~んとしていた、口数は少なかったがとても優しかった祖父。


 その祖父は、


「我が人生に、一片の悔いなし! ・・・・・・でも、静音の花嫁姿は見たかった・・・・・・」


 と言う迷言? なるものを残して亡くなったのです。

 この死に際の一言に、祖母は痛く感動したらしく、


「私はじいさんの代わりに、静音の花嫁姿をこの目に納めてから、あの世に逝くよ!」


 って、涙ながらに約束していたのですが。

 つい一か月前、私の花嫁姿を見ることもなく、あっさりとこの世を去ってしまったばかりなのであります。


「へーーーだからなのかあ・・・・・・」


 さっきまで、体をガクガクと震わせていた般若面女は、なぜか今、目の前の一点を凝視したまま、冷めた口調にてそう返してきました。


「どうしたの? 何かあるの?」


 聞いてみたところ。


「目の前に、一組の老夫婦がいるわ。よく見たら、あんたんとこの、じいさんとばあさん」


「え? おじいちゃんとおばあちゃんが、ここにいるの?」


 嬉しさのあまり、キョロキョロと辺りを見渡してみるけど、残念なことにやっぱり見えないんだよね。


「なんかおばあさん、一生懸命おじいさんに謝っているよ」


「ああ。私の花嫁姿のこと? 仕方ないよ。おばあちゃんもう98歳だったんだよ? しかも私はまだ16歳。どうにもならないよねぇ・・・・・・・」


 おじいちゃんとおばあちゃんの仲が良すぎたせいなのか、なかなか子宝に恵まれず、父が生まれたのはふたりが40歳の時。

 その父も、バカップル両親を見て育ったせいか、理想が高すぎた結果、いろいろ妥協して結婚し、やっと私ができた時には、祖父母が82歳の時である。

 あんたたちが私の花嫁姿を見たかったら、あと10年は余裕で生きてないといけないの。


「おじいちゃん、お婆ちゃんに無茶振りするのやめてほしい・・・・・・」


 見えない人を、どうやって説得したらいいんだろう? 

 そう考えていた時です。


「悪いんだけどさ。なんか原因は、あんたの花嫁姿じゃないみたい・・・・・・」


「え? それどういうこと?」


「だっておばあさん、おじいさんに向かって土下座しながら“私の大好物のじゃがりこをじいさんにも食わせてあげたかったのに~~!” って床をガンガン拳で叩きつけながら号泣しているし。おじいさん、そんなおばあさんを必死になだめているし・・・・・・」


「え? じゃがりこ・・・・・・」


「なんであんなに、悔しそうなの? おばあさん、そんなにじゃがりこが心残りなの?」


「うん。まあ・・・・・・そうだろうね。だっておばあちゃんの死因は、じゃがりこが原因だったし」


「え? 喉にでもつまらせたの?」


「だったらよかったのにね?」


 その時のことを思い返し、思わず深い溜息が。

 親戚が“恥ずかしい”からと、伏せておいた本当の理由。

 それは、大好きなじゃがりこ1年分がとある懸賞にて当たったことによる、嬉しさのあまりの突然の心臓停止という名の、ショック死だったのです。


「あんたんとこのおばあちゃん、そんなにじゃがりこ好きだったの?」


「うん。特に番茶にじゃがりこをふやかして食べるのが、大好きだったんだよねえ・・・・・・」


「その大好きなじゃがりこを、だいすきなおじいさんに食べさせてあげたいってことらしいんだけど、ここにはないし・・・・・・」


「? あるよ?」


「え? あるの?」


「お腹すいたら食べようと思って。なんせ我が家には、1年分のじゃがりこあるから、賞味期限が切れるまでに早く食べきらないといけないしね? もったいないでしょう?」


 ということで。

 真夏の夜に外に出るときの、七つ道具その3。

 非常食=じゃがりこ。

 なんせじゃがりこは、そのまま食べるもよし。

 お湯をかけてポテトサラダやマッシュポテトにしたり、スープにしたり。

 そしてコロッケにまでリメイクできちゃう、スグレものスナック菓子なんですもん!

 味もバリエーションがいろいろあるはずなのに、我が家に来たのはなぜか365個のサラダ味オンリーだったのが、今だに解せませんが。


 それをおじいちゃんとおばあちゃんがいるという場所に、そっと供えてみることに。


「ひとまずこれで、二人共落ち着いて。そしてさっさと成仏してください!」


 両手を合わせ、そんなことを考えながら拝んでいると。


「二人で仲良く、食べ始めたよ? “美味しいね”“そうでしょう? 病みつきになる味でしょ?”ってお互い顔を合わせて、キャッキャウフフしているよ? このリア充め! 爆発しろ! って叫びたくなるくらいに、本当に仲がいいね? あ、おばあさんが“ばんちゃがあれば、もっと美味しいのに”っていったら、“じゃあ、さっさとあの世に行かね? 天国には美味しい番茶があるんだよ”っておじいちゃんが誘って・・・・・・アレ? 二人共消えちゃったけど?」


「成仏したってこと?」


「みたいだね?」


 ということで。

 うちの祖父母はふたり仲良く、無事に成仏したようです。


「毎日、仏壇にじゃがりこをお供えしているんだけどなあ・・・・・・」


 今年の初盆には、気が付いて欲しい。

 今までにないほっこりとした展開にて、私たちは前へと進んでいくのでありました。

じゃがりこ、大好きです。

特に“たらこバター”が。

いつも海外ドラマを見ながら、ポリポリしています。

気が付けばいつも、あっという間にカラになっています。

だから、もうすぐ夏なのに全然痩せない・・・・・・。

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