中に入りました ~2階編 七つ道具その2~
「あああぁぁぁぁぁ~~」
後ろからは、何やら変な叫び声が。
と思ったら。
「何バカやってんの? サイレンみたいな声出して!」
私の腕に、まるでコアラのようにがっちりしがみついている、般若面からでした。
そして。
「この車椅子ヤバイ! この車椅子ヤバイ!」
首を左右に激しく振りながら、まるで壊れたラジオのように、同じ言葉を繰り返す般若面の女。
「まあ、確かに。1階にいた時とは、違うわね?」
そう。
この車椅子、何も見えない感じない私から見ても、なにかがおかしい。
錆だらけで黒ずんだ、古めかしい緑と黒のチェック柄の車椅子。
誰も乗っていない無人の車椅子が目の前で、キーキーと鈍くそして耳障りな金属音を鳴らしながら、前後に小さく行き来しているのだ。
「でしょう? って、見えるの? あんたみたいに鈍感で無神経な女にも、とうとう見えるようになったってこと?」
「・・・・・・それ、いいすぎ」
「でも見えるんでしょう? じゃあ、わかるよね? すっごくやばいの、分かるよね!」
そんなに興奮しなくても。
「やばいかどうかは、正直わからないんだけどね? 私が見えるのは車椅子の上に、きったない野球帽みたいなのが、プカプカ浮いているだけだから」
そう。
ボロボロで汚らしく黒ずんだ野球帽が、ちょうど人が座った頭のあたりで、プカプカと不自然に浮いているようにみえるだけなんだよね。
「その野球帽かぶっている、野球のユニフォーム着た男の子は? 左目が凹んでなくなっていて、左足にぐるぐるの包帯巻いて、“ボクの足はどこ~。ボクの足は~~”って言っているんだけど? なんで聞こえないの? 見えないニブ女はいいわね! うらやましいーーーー! キーーー!」
とうとう癇癪起こし始めました。
我が友人ながら、どうしてこんなに短気なの?
「何バカなこと、言ってんのよ? そんなの錯覚よ? 怖いという思いが見せる、まやかしよ?」
そう言って、何もないということを証明するために、野球帽をムンズと掴んで見せてやると。
「ギャーーーー! このバカちんが!」
突然、怒鳴られました。
「?」
「あんたが帽子をそんな乱暴に掴むから! 男の子の頭が! 皮膚が! 髪の毛ごと取れてんじゃねーかー! しかも、そっからボロボロと蛆虫みたいなのがーーーー!」
「あんたね? ホラー映画の見すぎだよ? だってこれ・・・ってくっさ! これ臭い!」
鼻にくる刺激臭? といいますか、何かが腐ったようななんとも不快な匂いがするんですが。
思わず手にした野球帽を、車椅子の上に叩き返してしまいました。
「キャー! 何すんの! 呪われるわよ? 男の子、めっちゃ怒って睨んでいるわよ!」
らしいのですが。
そんなこと言われましても、私、何も見えないんだって!
「こういう時は、コレですね!」
ということで。
「プシューーーーーー!」
真夏の夜に外に出るときの、七つ道具その2。
“除菌ファ○リーズ 無香料タイプ”。
匂いが混ざると、余計に不快な臭いになる場合があるから、こういう場所では無香料タイプが一番だよね?
なのに・・・・・・。
「え? なんで? なんで車椅子がファブリーズで溶けちゃうの?」
目の前では信じられない光景が。
ファブリーズが鉄を溶かすとか、まあ布も溶かすのも知りませんでしたが?
まるで砂でできたお城が崩れるかのごとく、車椅子と野球帽がサラサラ・・・・・・とみるみるうちに形を崩して、砂が舞うように消えてなくなってしまったのです。
「どういうこと?」
コテン・・・・・・と、首を斜め横にしていたら。
「なに、可愛い仕草してんの? 今、男の子が“クソー! 俺にその足をよこしやがれ!”ってすっごい剣幕でブチギレながら、サラサラ・・・・・・って消えていったわよ! あんたなにしたの? いい加減にしないと、本当に呪われるわよ~!」
って、鼻声で時々むせながら、説教開始とかって。
だから、足のない野球小僧よりも、あんたの方が怖いんだって!
○ァブリーズも、友人は効いたらしいです。
でも、
「誰でもできると思って真似はしないほうがいい!」って言われました。
そんなこと言われても・・・・・・。
私は見えないし、感じることはまずないと思うので、よくわからないのですが。
本当に、映画で見るような映像が見えるものなのか?
いつも不思議です。
まあ、見えたら間違いなく失神+失禁しちゃいそうですが(笑)