中に入りました ~1階から2階へ~
泣き叫ぶ般若面の女をなんとかなだめすかし、帰るように勧めたのですが。
「今更一人でかえれるわけないでしょがぁぁぁ~~!」
と逆ギレされ、仕方なく一緒に先へ進むことに。
目的地は、4階の屋上にある、副医院長室。
なんでもこの病院は親族経営だったらしく、副医院長さんは一人息子さんだったとか。
背がスラリと高くて優しくて、おまけにテニスで全国大会常連だったという、スポーツマン。
そのうえ外科医として腕もよく、しかもイケメンという、非の打ち所のない男前で評判だったらしい。
30過ぎで幽霊になってしまったイケメンおっさんには、16歳の私には正直興味はまったくございません。
しかし!
私は副医院長室に、用があるのです。
そこにあるものを、持ってこなくてはならないのだ!
目的を達成するために。
それは私にとって、とても重要なことなのです。
なので、幽霊が出るだの呪いにかかるだのイケメンだの、私にとってはどうでもいいことで。
プルプルと電気マッサージ器のように震えまくっている、般若面の女が右腕にしがみついている状態にて、私たちは前へと進んでいったのです。
ガタガタと風とともに、震えながらも音を立てまくる、建物の奥まで並んでいる各診察室のドア。
般若面の女いわく、
「血だらけだったり、手や足がなくなっているじーさんばーさんに、 顎がなかったり頭が潰れた男性や、血だらけの白いドレスの女の人とか・・・・・・。とにかくいろんな人がたくさんいるーーーーーー!」
と、ギャンギャン騒ぎながら泣き叫ぶので、正直怖い以前にうるさくて仕方がありません。
ただ。
この病院に入ってきた時と同じように、耳障りな音がするので、そこら辺中に、殺虫剤をスプレーさせていただきました。
こういった古い建物には、いろんな虫がいるものです。
ムカデとか蚊に刺されるのも嫌だし、カメムシでも捕まって臭い匂いをつけられた日には、たまったものではありません。
大きな建物だから、一応、リュックに5缶ほど入れてあります。
なので、行って帰ってくるまでには、十分に持つと思われます。
おかげで、スプレーをかけるたびに、音がしなくなりました。
ついでに、さっきまで風で揺れていたはずの、建物のミシミシという音さえも。
風でどこからともなく飛んでくる、タオルや瓶に、注射器や点滴の入った容器でさえも、行く手を遮るがごとく舞わなくなったのは不思議ですが。
まあ、結果オーライですね?
危なくないのは、なによりです。
般若面の女いわく、
「スプレーかけたらところから、次々と霊が霧のように消えていくんだけど・・・・・・」
とのこと。
見える人って、大変なのね?
っていうか、本当の話なの?
私には、あなたのその般若面以外、誰も見えないんですが。
おっかなびっくりの般若面の女を引き連れ、次にやってまいりましたのは、2階病棟。
廊下を歩いていると、突然。
「キコ・・・・・・キコ・・・・・・キコ・・・・・・」
なにやら、近づいてくる音が。
「? どなたか、いらっしゃいますか?」
前方を懐中電灯で照らしたところ。
そこには、ひとつの古びた車椅子が、ポツン・・・・・・と置かれていたのです。
殺虫剤は効いたと友人は言うのですが。
本当なのでしょうか?
見えない人にとっては、効いているかなんてよくわかりませんよね?