中に入りました ~入口にて~
が。
「ギャッ!!」
「い、痛い!」
突然、私の背後から抱きつく、般若の面をかぶった白い着物の女。
そんなに強く抱きつくと、般若の面が食い込んで痛いんだけど?
「? どうしたの? 夏希」
くるりと振り返ってしがみつく彼女を見れば、私の背中に顔をうずめ、ブルブル震えまくっている右手で私の左横の上の方を指さしていらっしゃる。
「ちょ、あんたの横、あんたの左横に・・・受け付・・・けの制ふ・・・女・・・人が・・・」
声がめっちゃ裏返ってますがな?
しかし。
「?」
左横を向くも、暗闇が広がるばかり。
「こんばんは~。どなたかいらっしゃいます~?」
確認のため、懐中電灯で照らしてみるものの、特に人影らしきものは見当たらなかった・・・・・・のだが。
「なんか、耳元でブンブンうるさいんだけど・・・・・・・」
「ね? 聞こえるよにぇ? “きょうはどうされましたか?”って、おんにゃのちとの声で、言っているにょにぇ?」
ってなんで“きょうはどうされましたか?”だけは、まともに言えるの?
っていうかその前に。
「? キーンっていうかブーンっていうか。とにかく何やら物音みたいなものが聞こえるけど、女の人の声? 聞こえないけど?」
「え?」
「まあ、多分アレだよ~」
ということで。
真夏の夜に外に出るときの、七つ道具を背中にしょっていたリュックから取り出しまして。
「ハイ?」
ぷしゅ~~~!!!
あたり一面に、スプレーさせていただきました。
「こういうジメジメした場所には、結構いるんだよね? 蚊が」
ということで。
殺虫剤スプレーを耳障りな左横へ、散布させてもらいました。
すると、どうでしょう。
「ホラ、音が止んだじゃない? やっぱり、虫だったんだよ」
とおもうのですが。
「何言ってんの? 顔から血をダラダラたらした、ショートボブの受付の制服着たお姉さんが、“ギャーーーーーーー!”ってすっごい奇声をあげて、今目の前から霧のように消えていったわよ!」
私を前後にユサユサと揺らしながら、力説を始める般若面の女。
顔から血をダラダラ垂らした女より、あんたのほうが怖いと思う!