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中に入りました ~4階編 やっとこさ最上階へ~

「とうときたわね! 最上階!」


 ということで。

 今、目の前には最終目的地、“副医院長室”の前にございます。

 ここに来るまでに、さらに塩と日本酒、そして殺虫剤と芳香剤は使い果たしました。

 見えないものに、こんなにもたくさんのアイテムを使い切るのは、私としてはなんとも複雑な気分なのですが。


「ギャーー! こっちくるなーーー!」


「イヤー! 怖いーーーーーー!」


「なんなのアレーーーーーー!」


 常に絶叫し続ける、般若面の女を落ち着かせるために、使わざるを得なかったわけで。

 恐怖におののく度に私に突撃しては、狂ったかのようにモノすっごい馬鹿力でブンブンと前後左右に、私を揺さぶってくるんだもん!

 小腹がすいたので、じゃがりこ食べながら歩いている私としては、何の前触れもなしに揺さぶられるのは、恐怖でしかないんですけど?

 あんたが私に突撃してくるたびに、まるで“ヘンゼルトグレーテル”よろしく、じゃがりこで道筋ができてしまうのが、もったいなさすぎて。

 それ以上にあの予測不能な行動のせいで、私はいつどのタイミングで、のどに詰まらせて死んでしまうのかと、ヒヤヒヤものなのですが。


 正直、見えないのにいるっていう幽霊たちよりも、あんたのほうが怖い!


 そんなある意味、死と隣り合わせな状況にて、なんとかたどり着きました。

 が。


「あれ? ここだけ雰囲気違うわね?」


 いかにも。

 いかにもこの目の前の風景だけは、ほかとは違っていたのです。


「え? あんたでもわかるの? やっぱりね? だってすごいもんね!」


「え? ま、まあある意味すごい・・・・・・かな?」


「でしょう? もう雰囲気が物語っているよね? ドアの隙間から、どす黒い霧みたいなものが、溢れ出ているもんね? なんかこう恐怖が絡みつくようなそんな威圧感を感じるよね? 絶対ラスボスいそうな感じだよね!」


 相変わらず、私にコバンザメのようにくっついている、般若面の女。

 小刻みに体を震わせているので、振動がそのまま伝わってきますけど?

 コレ、そんなに怖いですか?


「この建物の中はさ、ほとんどが腐ったり、壊れたりしているじゃない? でもね? このドアは、綺麗なのよ? ガラスだって割れてないし、まるで新品みたいな? おかしくない?」


 そう。

 他はいかにも廃屋だといわしめるがごとく、ボロボロに崩れて壊れて腐っているというのに、このドアだけは、まるで取り替えたばかりのように新品なのだ。


 どう考えても・・・・・・。


「コレ、人間様の仕業だよね? こんなところに人を脅してまでたむろする連中なんて、きっとろくなのいないよね?」


 ということで、嬉しさのあまり口元が緩み、思わず両手を組んでポキポキと鳴らしてしまう。


「ど、どどどどうするの?」


「どうするって? こうするんだけど?」


 と同時に、思いっきりドアを蹴破らせていただきました。


「ゴォラァァーーー! 悪い子はいね~が~ぁぁ~~! さっさと出ていかないと、直接攻撃すんぞ!」


 思いっきり重低音にて、脅しをかけてみました。


 ・・・・・・が。


「アレ? だれもいない?」


「そうね? 誰もいない・・・・・・かな?」


 そう。

 部屋の中には、誰もいなかったのです。

 あるのは、窓際にそびえ立つとても頑丈そうなそして高級木材で作られたであろう大きな机と、座り心地の良さそうな椅子のみ。


 てっきり、暇でアホな連中がたむろしていて、面白半分にここにやってくる人たちを怖がらせている・・・・・・そう思っていたのに。

 だからこそ、普段から試してみたい技を思う存分使えると、内心嬉しくてどうしようもなかったのに・・・・・・。

 部屋の中を一通り探してみましたが、人の気配は全くなし。

 こんなことって・・・・・・。


「私のトキメキを返して・・・・・・」


 思わずその場で膝をつき、四つん這いの状態になると、ガクリと頭をたれてしまいました。

 久々に、暴れられると思ったのに。

 まあ、ただの八つ当たりなんだけどね?


 そもそもこんなところ、好きできたわけではない。

 きた理由はただ一つ、“あるものを取ってくること”である。

 それを持っていけば、長年の夢が叶うのだ。


「そもそも。生徒会長が倒れなければ、こんなことにはならなかったのに・・・・・・」


 我が高校の生徒会長様は今、病院の一室にて病に伏していらっしゃる。

 なんでもある日突然、眠りから覚めなくなったのだとか。


 頭脳明晰で、先生方や生徒たちからの人望も厚い。

 “遠山の○さん”のごとく、どんな難事件でも公平な裁きを下すと、他校からも人気があるのだ。

 その生徒会長が健在であれば、今回こんな所に来るはずもなかったのに。


「まあ、いないものは仕方ないわね? さっさと依頼のあったブツを回収して、さっさとここから出ないと」


 気を取り直し、依頼品があるであろう机にと、向かったその時でございます。


「だ、だめよ! 危ない!」


「グヘッ!!」


 突然、後ろから羽交い締め? ってなんつー馬鹿力してんの?

 そのままグイグイと、後ろに引っ張られていく私。

 当然、腕が食い込んでいる首は、しっかりしまっているわけで。


「ぐ、ぐるじいんだけど・・・・・・」


「あ! ごめん、危なかったからつい・・・・・・」


 私の異常事態にやっと気がついたのか、すぐさま首の圧迫が収まりました。

 正直、もう少しおそかったら、確実に祖父母がお迎えに来たと思われ。


「ゲホゲホ・・・・・・。ど、どうしたの?」


 突然、気道が確保されたせいなのか、むせてしまって咳が止まりません。

 まるで嘔吐でもするかのごとく、しばらく激しい咳を続けたあと、涙目で後ろを振り返れば、般若面の女は壁にぴったりとくっついております。


 そして、まっすぐに右腕を伸ばして、震えまくっている人差し指で前を指し示すと、


「すっごくやばいのがいる!」


 そう、叫んだのでございます。




 


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