表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/13

やってきました

がんばって、ホラーを書きました。

怖がって、そして楽しんでいただけると嬉しいです。

「ふ~ん。ここがその有名な廃病院かぁ・・・・・・」


 ということで。

 鬱蒼と木の生い茂り、雑草がこれでもかと主張しまくって歩きにくい暗がりの中に、ひっそりとそびえ立つ、大きな建物。

 目の前には、重苦しいというか、雰囲気をより暗くするかのような存在感おおありな廃屋が、ドドーン! と姿を見せております。


 その古びた建物の、まさに玄関と言われる場所に、私たちはいるわけなのですが。 

 大きな両開きの戸は、もちろんガラスなどなく留め具が壊れているせいなのか、風に揺られてギーコギーコという耳障りな音を奏でながら、前後にブラブラと揺れております。


 なんでも不審火による火事で、廃業に追い込まれたといういわくつきの病院。

 そんなに無理して雰囲気出さなくてもいいのに、このあたりの気候が味方をしているのか、病院のあたりにはご丁寧に霧がうっすらと白く、立ち込めております。


 4階建てコンクリートの大きな建物は、見える限りのすべての窓ガラスが割れており、枠組みしか残っておりません。

 そこから時々ちらりと存在感を出しているのは、どこからともなく吹いていくる涼しい風とともに、ゆらゆらとなびく老朽化してボロボロになったカーテンらしき布。

 火事があったという場所付近は形が崩れ落ち、黒々とした炭と化した骨組みが雨風にさらされまくったせいで、あまり原型をとどめておりません。


 外装のコンクリートは、あちらこちらがひび割れており、所々が剥がれ落ちて枠組みが見えております。

 木の腐ったような匂いに、草の湿った匂いと、錆びた鉄の匂い。

 加えて、なにかの腐敗臭なのか薬品なのかよくわからない嫌な臭いが、鼻先をかすめていくため、あまり長く滞在したい場所でないことは確かです。


 地元でも有名な、『必ず幽霊の出る病院』。

 ネットでも騒がれ、一時期は怖いもの見たさの若いカップルやグループで賑わったこの病院。

 ・・・・・・今では、誰も訪れることはありません。

 

 なぜなら、どんなに普段から、


「私、霊感無いし~?」


「見えないし~?」


 な人たちでも、100%お姿を拝見できるというこの病院に足を踏み入れたとたん、恐怖のあまり気を病んでしまうらしいのです。

 有名な霊媒師や陰陽師だと名のある方々にも来てもらいましたが、


「手に負えない」


 と、早々に断念され、逃げるように去っていったのだとか。


「さあ! 行くわよ!」


 私の隣にいる少女は、声が上ずり心なしか体がプルプルと震えております。

 なら、こんなところに来なければいいのに・・・・・。


「大丈夫?」


 一応、声をかけてあげたのですが。


「も、ももももちりょんにゃ・・・・・」


 あまりの恐怖でなのか、かんでるし・・・・・・。


「で? そのかっこうで、よくおばさんに怒られなかったね? 不審者扱いされずに、ここまで無事に来れたのが、不思議で仕方ないんだけど?」


「ここにたどりつくまでは、コート羽織ってたからにゃ・・・・・・」

 

 顔を引きつらせながら、なにげにドヤ顔・・・・・・結果、無表情で怖いから!

 それ以前に、いくらこの場所は涼しくても、今は8月ですよ?

 40度近い猛暑が続き、夜もクーラーなしでは寝れないほどの蒸し暑さなんですけど?

 よくコートなんか羽織って、ぶっ倒れなかったね?


 で?


 なんでさっきから語尾が“にゃ”?

 歯の根があっていなからなのか、さっきからガチガチガチと歯がなっていてうるさいといいますか、気になって仕方がないんだけど。

 そのまま舌噛んで、わたしに“119”番通報をさせないでよね?

 ちなみに見ればすぐにわかるけど、目の前の病院は今は営業していないからね?


「だから、どうしてその格好?」


「・・・・・・これにゃら、仲間だと勘違いちて、呪われないかにゃ・・・・・・と」


 なんでそこで、クルリと軽やかに一回転してみせるの?

 そのお姿とは・・・・・・。


「白い着物に、なんで頭の上には三角の白い布が付いてんの? っていうか、なんで頭にロウソク3本立ってんの? 火をつけたらそれ、危ないよね? 火だるまになって大惨事招くよね?」


 その格好で、後ろに大きなリュック背負っているのも、いかがなものかと思うけど。

 その膨らみからして、もしかしてきてきたというコートが入ってんの?


「火は付けないにゃ、ポージュだけ・・・・・・」


 体をすくめて、左右に揺さぶらなくてもいいんだけどね?

 お願いだから、不審火で火事なんか起こして、警察沙汰に私を巻き込まないでね?


「あっそ。じゃあなんで帯の上に、丸い鏡が付いてんの? そしてどうして今この場にて、般若の面をかぶり始めないといけないのかな? 正直言って、あんたの今の格好は、頭がおかしいとしか言いようがないんだけど?」


「だいじょうびゅ。あいつらより怖い顔したら、よりつかにゃいはじゅ!」


 なんでそんなに、自信満々なの?

 

「・・・・・・私は?」


 対して私は、エメラルドグリーンの袖なしパーカーに、黒の半ズボンで、白のスニーカーとご近所に散歩にでも出かけるかのごとしな、服装にございます。

 もちろん素顔。

 お面なんてかぶっておりません!


 だって。

 頼まれたミッション、遂行するだけなんだもん!

 なのにどうして、こんなおおごとになってしまったの?


「え? 静音(しずね)なら問題ないでしょう? 格闘技大好きなんだし? 私なんか霊が見えるだけで、彼らに対抗する知識を漫画や映画で学んだだけの、非力でか弱い女なんだもん!」


 なんでこのときだけ、噛まずに通常仕様?


「ねえ。格闘技好きなら、幽霊大丈夫なの? 物理の法則は通じるの?」


「静音なら、大丈夫じゃない?」


 って、その自信はどこから来るのでしょうか? 

 それ以前に、そんなに怖いなら、なんでこんなところについてきた?


「私一人でも大丈夫だよ? ホラ私、見えないものは信じないし? 夜中の墓参りも別に怖くないし?」


「わ、わたちのことはきにちないで。ホラ、レッチュゴ~~~」


 頼りない掛け声の元、私たちはこの病院の中へと、足を踏み入れたのでございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ