やってきました
がんばって、ホラーを書きました。
怖がって、そして楽しんでいただけると嬉しいです。
「ふ~ん。ここがその有名な廃病院かぁ・・・・・・」
ということで。
鬱蒼と木の生い茂り、雑草がこれでもかと主張しまくって歩きにくい暗がりの中に、ひっそりとそびえ立つ、大きな建物。
目の前には、重苦しいというか、雰囲気をより暗くするかのような存在感おおありな廃屋が、ドドーン! と姿を見せております。
その古びた建物の、まさに玄関と言われる場所に、私たちはいるわけなのですが。
大きな両開きの戸は、もちろんガラスなどなく留め具が壊れているせいなのか、風に揺られてギーコギーコという耳障りな音を奏でながら、前後にブラブラと揺れております。
なんでも不審火による火事で、廃業に追い込まれたといういわくつきの病院。
そんなに無理して雰囲気出さなくてもいいのに、このあたりの気候が味方をしているのか、病院のあたりにはご丁寧に霧がうっすらと白く、立ち込めております。
4階建てコンクリートの大きな建物は、見える限りのすべての窓ガラスが割れており、枠組みしか残っておりません。
そこから時々ちらりと存在感を出しているのは、どこからともなく吹いていくる涼しい風とともに、ゆらゆらとなびく老朽化してボロボロになったカーテンらしき布。
火事があったという場所付近は形が崩れ落ち、黒々とした炭と化した骨組みが雨風にさらされまくったせいで、あまり原型をとどめておりません。
外装のコンクリートは、あちらこちらがひび割れており、所々が剥がれ落ちて枠組みが見えております。
木の腐ったような匂いに、草の湿った匂いと、錆びた鉄の匂い。
加えて、なにかの腐敗臭なのか薬品なのかよくわからない嫌な臭いが、鼻先をかすめていくため、あまり長く滞在したい場所でないことは確かです。
地元でも有名な、『必ず幽霊の出る病院』。
ネットでも騒がれ、一時期は怖いもの見たさの若いカップルやグループで賑わったこの病院。
・・・・・・今では、誰も訪れることはありません。
なぜなら、どんなに普段から、
「私、霊感無いし~?」
「見えないし~?」
な人たちでも、100%お姿を拝見できるというこの病院に足を踏み入れたとたん、恐怖のあまり気を病んでしまうらしいのです。
有名な霊媒師や陰陽師だと名のある方々にも来てもらいましたが、
「手に負えない」
と、早々に断念され、逃げるように去っていったのだとか。
「さあ! 行くわよ!」
私の隣にいる少女は、声が上ずり心なしか体がプルプルと震えております。
なら、こんなところに来なければいいのに・・・・・。
「大丈夫?」
一応、声をかけてあげたのですが。
「も、ももももちりょんにゃ・・・・・」
あまりの恐怖でなのか、かんでるし・・・・・・。
「で? そのかっこうで、よくおばさんに怒られなかったね? 不審者扱いされずに、ここまで無事に来れたのが、不思議で仕方ないんだけど?」
「ここにたどりつくまでは、コート羽織ってたからにゃ・・・・・・」
顔を引きつらせながら、なにげにドヤ顔・・・・・・結果、無表情で怖いから!
それ以前に、いくらこの場所は涼しくても、今は8月ですよ?
40度近い猛暑が続き、夜もクーラーなしでは寝れないほどの蒸し暑さなんですけど?
よくコートなんか羽織って、ぶっ倒れなかったね?
で?
なんでさっきから語尾が“にゃ”?
歯の根があっていなからなのか、さっきからガチガチガチと歯がなっていてうるさいといいますか、気になって仕方がないんだけど。
そのまま舌噛んで、わたしに“119”番通報をさせないでよね?
ちなみに見ればすぐにわかるけど、目の前の病院は今は営業していないからね?
「だから、どうしてその格好?」
「・・・・・・これにゃら、仲間だと勘違いちて、呪われないかにゃ・・・・・・と」
なんでそこで、クルリと軽やかに一回転してみせるの?
そのお姿とは・・・・・・。
「白い着物に、なんで頭の上には三角の白い布が付いてんの? っていうか、なんで頭にロウソク3本立ってんの? 火をつけたらそれ、危ないよね? 火だるまになって大惨事招くよね?」
その格好で、後ろに大きなリュック背負っているのも、いかがなものかと思うけど。
その膨らみからして、もしかしてきてきたというコートが入ってんの?
「火は付けないにゃ、ポージュだけ・・・・・・」
体をすくめて、左右に揺さぶらなくてもいいんだけどね?
お願いだから、不審火で火事なんか起こして、警察沙汰に私を巻き込まないでね?
「あっそ。じゃあなんで帯の上に、丸い鏡が付いてんの? そしてどうして今この場にて、般若の面をかぶり始めないといけないのかな? 正直言って、あんたの今の格好は、頭がおかしいとしか言いようがないんだけど?」
「だいじょうびゅ。あいつらより怖い顔したら、よりつかにゃいはじゅ!」
なんでそんなに、自信満々なの?
「・・・・・・私は?」
対して私は、エメラルドグリーンの袖なしパーカーに、黒の半ズボンで、白のスニーカーとご近所に散歩にでも出かけるかのごとしな、服装にございます。
もちろん素顔。
お面なんてかぶっておりません!
だって。
頼まれたミッション、遂行するだけなんだもん!
なのにどうして、こんなおおごとになってしまったの?
「え? 静音なら問題ないでしょう? 格闘技大好きなんだし? 私なんか霊が見えるだけで、彼らに対抗する知識を漫画や映画で学んだだけの、非力でか弱い女なんだもん!」
なんでこのときだけ、噛まずに通常仕様?
「ねえ。格闘技好きなら、幽霊大丈夫なの? 物理の法則は通じるの?」
「静音なら、大丈夫じゃない?」
って、その自信はどこから来るのでしょうか?
それ以前に、そんなに怖いなら、なんでこんなところについてきた?
「私一人でも大丈夫だよ? ホラ私、見えないものは信じないし? 夜中の墓参りも別に怖くないし?」
「わ、わたちのことはきにちないで。ホラ、レッチュゴ~~~」
頼りない掛け声の元、私たちはこの病院の中へと、足を踏み入れたのでございます。