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迷宮攻略前日

ここから少し雫達メインになります。

あまり長くやるつもりはありませんが、長くなったらすいません。



ハルが逃亡した翌日の朝。

2-Dの生徒達は、昨日一日、四人一組(と護衛の騎士一人)で迷宮都市の表通りを駆け回った。本来なら初の迷宮攻略&実践に挑んでいた筈。それが、『先代』のワガママのせいで明後日に持ち越されていた。生徒の消耗をみて騎士団長が休みを1日いれたのである。

一昨日、いきなり人と人の争いを見て精神的に弱っていた生徒は、1日だけとは言え予定が延びた事にホッとし、十分な休息が取れそうで安堵し、ゆっくりと朝食を摂っていた。が、約四名。そんな常識的な精神をしていない者達がいた。


「今からでも迷宮に行くわよ」


誰あろう、現勇者パーティーを指揮している雫に、


「今からか?昨日はハル探しで都市中を駆け回って皆疲れてるし、明日にしねぇ?」


めんどくさがりながらも既に準備を終えている蓮見、


「俺たちだけで行くか?何人か先に入っといて明日に備えるのも良いと思う」


朝の素振りを終え戻ってきたばかりのタツ、


「さんせ~い。結局ハルは逃げてたし、ストレス溜まってるんだ~」


少し苛ついて近寄りがたい皐月。


この四名は、先ほど騎士団長から言われた「今日は身体と心を休めるように」という優しさを無視して宿を抜け出す算段を立てていた。流石、勇者パーティーの代表と褒めるべきなのか、騎士に了承を取る選択肢を最初から捨て、抜け出すことに何の違和感も持っていないという、誰かさんに似た悪癖を諫めるべきなのか。

ナギの口に付いたソースを拭いながら、クレアはそんなことを考えていた。この後に待つ、雫達の説得からの現実逃避である。が、それは長く続かなかった。大人しく口回りを拭かれていたナギが、いきなり立ち上がり


「あたしもめいきゅうに行く!きょひけんはない!!」


と、誰から教わったのかそんなことを口走ったからである。

勿論、これには皆が慌てた。ある者は口に含んでいた水を吹き出し、ある者は食事を喉に詰まらせている。が、またもや誰からさんに染まっている幼なじみ二人が賛同し始めた。


「良いんじゃない?じゃあ行きましょうか」


「でも、俺達の言うことはちゃんと聞けよ?」


雫とタツである。が、流石にこれには皐月と蓮見も待ったをかけた。当然である。


「いやいや、ナギちゃんまだ5歳だよ!?それに、私達も初めての実践なんだから、連れていける訳ないでしょ。危なすぎる」


「そうだぞ!それに、ナギちゃんに何かあったら怒られるどころの騒ぎじゃないぞ!?絶対殺されるぞ。あの親バカに!!」


「それ以前に、今日は迷宮には行かせませんよ!?さっきから抜け出す算段立てているようですが、許すわけないでしょう!!」


「「「「「えぇッ!?」」」」」


「当たり前です!!」


全員が一斉に驚いて振り向いてくる様に頭を抱える。さっきの話はなんだかんだ言っても冗談だと思っていたのだ。なにせ、騎士であるクレアの目の前で抜け出す話をしていたことからもわかるように、隠そうという努力の欠片も見当たらなかったのだ。冗談の類と取るのが普通だろう。というか、冗談でなかったら本物のアホ共である。‥‥まぁ、本物のアホだった訳だが。


「タツと蓮見はともかく、雫と皐月までどうしたんですか!?それにナギまで!!あなた方はこんなこと言う性格じゃないでしょう!!」


クレアの中で雫と皐月はハルを抑え込む人材、ティナや自分側の人間だという思いがあった。が、現実とは残酷だ。

確かに、普段は間違いなくクレアやティナの味方だろう。実際、地球にいた頃はハルの行動を諫めるのは二人の役目だった。しかし、今は状況が違う。

地球にいた頃のハルと今のハルは、根本的な部分からしてガラリと変わっている。雫達からしたら、別人と話しているようなものだ。それだけ彼は変わり、そして今もなおハルは雫達から離れて行っている。もう時間がないのだ。元の関係に近づく為の第一歩を踏める時間はそう多くない。この一歩が踏めないとハルとの距離は決定的なものになり、もう二度と、心の底から笑いあえる日が来ることはないと本能が訴えている。


だからこそ、普段は問題を止める側の二人が、タツと蓮見の側に回って一歩目を踏むための準備を無意識の内に急いでいる。

しかし、ここに二人のそんな思いに気付ける者はいなかった。こればっかりはどうしようもない。一緒に過ごしてきた時間と信頼関係がものを言う問題だ。気付けるであろうタツと蓮見は当事者だし、ハルは元凶の上にこの場にはいない。唯一気付くことができ、当事者でもないのはハルの妹の陽菜だが、その陽菜も今はいない。

そんな訳で、四人の暴走を止められる人材は皆無だった。クレアも運がない。


そしてナギ。この子は単純明快である。ハルが自分を置いて行ったのは自分が弱いから。なら、パパに認められる位に強くなれば、パパは戻ってくるのではないか?という結論に達したからである。実に可愛らしく、そしてある意味当たってもいた。


騎士団長がすぐにハルを追いかけないのには理由があった。魔術を使って移動しているであろうハルに、今すぐの移動手段が馬車での移動しかない自分たちが追い付けないというのが一つ。行き先がギルバの都だとわかっているので、あと少しで合流できるというティナを待って、簡易版転送魔方陣で向かった方が安全で楽だからというのも一つ。本来の目的である勇者パーティーの訓練が始まってすらいないという理由などなど。


つまり、今ギルバの都から動く理由がないのだ。むしろデメリットしかない。襲撃の件もあるし、今はティナの到着を待ちながら勇者パーティーの特訓に力を注ぐのが最善だと判断したのだ。

というわけで、強くなったらハルに近づく事ができるという点で、ナギの考えは当たっていた。名推理である。まぁ、ナギを迷宮に連れていくのかと言われれば否な訳だが。


そんなアホな話し合いは当然のように用事を済ませて戻ってきた騎士団長にも却下された。‥‥ナギの申し出を却下するとき、ほんの少しだけ言葉が遅れていたが、無事に却下された。

そんな訳で、今日1日は暇になってしまった5人は、別々の事をしに部屋、もしくは宿裏へと戻っていった。


タツは素振りをもうワンセット追加しその後筋トレ。

蓮見は闇以外の属性魔法の習得の為、部屋で精神統一。

雫は魔力操作の技術を上げる為、ハルがタイト達に行う魔力障壁の形状変化の特訓。

皐月はティナに渡された聖魔法の上級が書かれた書物の読み解きと、水と聖魔法の『複合』訓練。

ナギはキナに魔法を教えて貰いながら1日を過ごした。

他の者達も、午前中は完全に休息に当て、午後からは『魔闘拳』の習得や属性魔法の修練に時間を費やしていた。




「一度言ったら言うこと聞いてくれるだけ、アイツよりはましだな」


「ですね‥‥」




           ---------




そして翌日の朝。

味もまともに分からないまま朝食を終え、迷宮の前まで到着した。周りには珍しい物見たさに集まった迷宮都市の住人と、鬱陶しそうな顔でチラチラと見てくる冒険者達で溢れかえっている。

が、今の彼等にはそんなもの見えていない。緊張で身体がガチガチに固まっている。中には、手と足が一緒に出て歩いている者もいた。流石の雫やタツも、少し顔が強ばっている。

因みに、この場にはナギもいる。

最初は当然のように同行は却下されたのだが、騎士団長も二度目の上目遣い攻撃には耐えられなかったようで、キナとクレアに騎士三名が常に側にいる事を条件に同行を許可していた。ハルが『親バカ』なら騎士団長は『じじバカ』である。


「‥‥さて皆、いよいよ迷宮本番よ。ここからは転移上限の7人で動く事になるわ。今日の所は様子見。無理だと思ったらすぐに引き返して宿に戻ること。いい?」


この迷宮、フィルニール皇国が王国であった時よりも前からこの地にある。大昔の超古代文明の遺産だと言われており、転移魔法はこの迷宮の装置を解析して現代の形に直した物である。転移上限が7人となっているのは上層の混乱を防ぐため。最大で五十人程は同時に転移できる事が確認されているが、通常は規定の7人で降りて下層で合流し探索をすると言うのが大規模パーティーの攻略方法である。

転移場所はパーティー内で一番浅い階層までしか行った事の無い者の層に自動で転移する事がわかっている。実力が不足している人間を連れて到達限界階層まで行くことはできない。

理由は単純、死ぬからだ。実力が伴っていないのだから当たり前。それを防ぐためにそのような設定になっていると考えられている。

階層一つ一つに転移石が設置されており、それを使って冒険者は地上と迷宮を行き来している。つまり、雫達が今行けるのは第一層だけということだ。


雫が静かに、ゆっくりと昨日の夜皆で決めたことを確認も込めて伝える。全員が頷いたのを確認すると、騎士団長に目で合図を送った。


「‥‥では、冒険者と交互に転移していく。我々だけで独占する訳には行かないからな。まずは雫達のパーティー、次に私とナギ達のパーティーで行く。その後は昨日決めた順番で潜ってくれ。では雫、行ってくれ」


「‥‥転移ッ!!」


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