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先生


魔力障壁‥‥魔法を使う年頃になると、光球等の各属性の初級を使えるようになったら次に学ぶ初歩の初歩だ。これが使える様になれば本格的な魔法の訓練に入れる。つまり、ハル達の世界で言う二桁の足し算レベルの魔法だ。


「‥‥‥で?なんでそんな子供みたいな魔法を練習しないといけないんですか?バカにしてますよね」


冷めた目でマリアが睨んでくる。この練習には消極的だった癖に‥‥‥


「まぁ待てよ。ちゃんと理由があるんだぜ?」


「理由‥‥ですか?今更『魔法障壁』なんてやるのに理由が?」


そんなに練習したく無いのかね?‥‥‥まぁいいや。


「あぁ。当然だろう?さて、説明するが‥‥お前たち、自分の魔力総量ってちゃんと把握してるか?」


「ある程度は‥‥」


「私も、ある程度です」


「私は魔法職。当然、キチンと把握してる」


どうやらディアナとメアリー以外は、ちゃんと魔力総量を把握していないらしい。まぁそんなものだろう。


「お前らがテキトーやってるのはわかった。さて、じゃあ此処で、ハル先生の魔法講座ー!!‥‥拍手しろよ」


無理やり拍手させ、授業を始める。題は『魔力障壁と魔力量の関係』だ。


魔力量っていうのは、生まれたときに殆ど決まる。「家柄や血、親が魔法に優れている」‥‥こんなのは関係無い事が証明されている。家や血は関係無く、運で魔力量が決まると考えられている。なら、魔力が少ない者は魔法をメインに使えず、近接戦闘をしなければいけないのか?否、それは違う。

確かに、魔力量は生まれたときに殆ど決まる。が、それで終わりではない。魔法は練習すればするほど上達するのと同じで、魔力量は余り上がらなくとも、魔力の『質』は上がるのだ。

そして、此処からが本題。魔力の質を上げるための方法が、『魔力障壁』の反復練習。という訳だ。

なんで『魔力障壁』なのか。というのには、理由がある。『魔力障壁』は、魔法という概念の中で、唯一誰もが使える魔力の具現化なのだ。

魔法とはイメージの具現化。だが、火や水を出しても『魔力』という物は見えない。が、『魔力障壁』は目に見える『魔力』。『魔力障壁』を反復練習し、魔力と、魔力障壁のイメージを確かな物にする事で、魔力の質が高まり、本来よりも遥かに少ない魔力でより強力な魔法を放つことが可能になる。のだが‥‥‥


「最近の若いのはこの事を知らない奴が多いんだよ。魔力量で全てが決まると思ってる。けど、それは間違いだ。確かに、魔力量が多いに越したことはない。その方が大きい『魔力障壁』を貼れるからな。だけど、ただデカいだけで紙みたいに薄っぺらかったら意味ないだろ?小さくても良いから、少ない魔力でどれだけ固い『魔力障壁』が貼れるか。これが大事なんだよ。‥‥さて、まだ『魔力障壁』の特訓をしないとか言う奴が居るならどうぞご勝手に。それなら俺は此処までだ」


「いえ、生意気言ってスイマセンでした。ご指導、お願いしますっ!!」


「スイマセン‥‥お願いします」


頭を下げて頼んでくる姿をみて、優しく微笑む。コイツらはまだまだ若く、弱い。けど、そんなコイツらだからこそ頭を下げて、力を得ようと必死にもがく事ができる。


「‥‥‥よしっ!じゃあまずは、限界まで大きく、薄っぺらくても良いから『魔力障壁』を張ってみろ。それから、どんどん小さく、厚くしていこう」


「「「「「はいっ先生!!」」」」」




       ーーーーーーーーーー




「よし、ディアナとメアリーは魔法職なだけあってある程度の大きさまで作れるな。此処から伸ばすには、一回ずつ消して作ってを繰り返すんじゃなく、限界まで作ったのを少しずつ小さくして、小さくした分の魔力を厚さに変えていってみろ」


「了解」


「わかりましたハル様!!」


先生呼びはちょっと嫌なので、使用人が居ない所では本名で呼ばせる事にする。一応、『幻影』も掛けておいた。どこから情報が漏れるか分からないからな。‥‥‥もう遅いかもだけど。

ディアナとメアリーは、魔法職という事で魔力に対するイメージもある程度出来上がっている。この分なら、明日か明後日には『俊足』会得の為の第二段階に進めるだろう。


「ハルさんっ!俺はどうですかね!?」


「私っ!私はどう!?」


「ちょっとマリア、私も見て貰いたい‥‥っ!」


コッチの三人は元々が前衛職。タイトとローゼはロングソードでタイトは盾持ちで、ローゼは持っていない。マリアは短剣に、少し魔法を使う。という戦闘スタイル。


「‥‥‥お前らさぁ。本当にあの二人より年上か?二人の半分も大きさ無いじゃねーか。いや、魔力量も大事だけど、薄く伸ばすなら大きさは自由に変えられるんだぞ?こんな風に‥‥」


右手を横に突き出し、魔力を集める。そして、頭の中でイメージを膨らませ、実体化させる。


『魔力障壁・鞭』


本来は防御に使う『魔力障壁』だが、イメージが確かな物であればある程、その形は変幻自在。ロングソードの形にもなるし、今みたいな鞭のような形を作り上げる事もできる。


「うわ、すげぇ‥‥」


「これ、本当に『魔力障壁』なの?」


「透明な鞭にしか見えない」


自身の魔力制御を忘れ、ジッとハルの『魔力障壁・鞭』を見つめている。すると、ハルの纏まって綺麗な形を保っている魔力に反応してディアナとメアリーもこっちを見てくる。此方に気を取られて、徐々に『魔力障壁』が小さく、薄くなっていっている。


「おーい、お前ら集中が切れてきてるぞ。ほら、もう見たろ?サッサと集中し直せ」


『魔力障壁・鞭』を消して、前で見ていた三人が慌てて『魔力障壁』を展開させる。その後すぐ、三人の後ろで慌てて集中し直した魔法職二人の姿が見えた。


「ったく‥‥さて、俺も自分の事やらねーとな」




        ーーーーーーーーーー




「‥‥‥ここら辺で良いだろ。アイツらからも、屋敷からも結構離れたしな」


一番進んでいるディアナとメアリーに、『魔力障壁』の形を自由に変えられるようになれと、次のステップ課題を与え、魔法職ではない三人は引き続き限界を伸ばすよう伝えて、ハル一人で少し離れた所までやってくる。目的は自身の強化。七年前(ハルにとっては二年前)、かなり初期の段階で相性が合わないと諦めた訓練法だ。やりたくない。などという理由ではなく、聖剣に重点に置いた戦闘スタイルなので、今からやる訓練は逆にパーティーを危険に晒すかもしれなかったのだ。


「‥‥‥よし、『聖魔融合』ッ!!」


身体に流れる『勇者の残りカス』の人には綺麗すぎる魔力と、ハル自身の魔力を混ぜ合わせ、一つに纏めていく。



聖魔融合‥‥本来、聖剣の解放の次に『勇者』に与えられたチート級の力である『聖魔融合』。どの時代の『勇者』にも扱える、聖剣解放前のサブ能力なのだが‥‥ハルは使えなかった。

それは、ハルの『勇者の器』の大きさに問題があった。

ハルの『勇者』としての器は歴代の『勇者』全員の器を集めてもまだ足りない。という程に大き過ぎるのだ。まさに『勇者』になる為に生まれてきた存在と言える。が、今回はそんな『勇者』としての器の大きさが邪魔になった。

『勇者の器』が大き過ぎてハルの魔力が『勇者』の魔力に上書きされて消えてしまうのだ。一応、数秒なら使える。という所まではなんとか行くことが出来たのだが、使った後は丸2日動けなくなる上に、一週間はマトモに魔力を練ることが出来ないという全く使えない能力になってしまったのだ。

それ故に、聖剣に重点を置き、パーティーの要となっていたハルにこの力を使わせたら戦闘どころでは無くなってしまう。という事で、この『聖魔融合』の訓練は数秒使えるようになってからは一切しなくなったのだ。


が、今は違う。『勇者』としての清浄な魔力はほんの少ししかハルの身体に残っておらず、この『聖魔融合』を完璧に使いこなせるぐらいまでに魔力が減っているのだ。


「ぐぎっ‥‥‥ぐっ‥‥‥があぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


身体中を、ハルの魔力と『勇者』としての魔力が駆け巡っている。普通、身体に流れる魔力は己の魔力一つのみ。なのに、今ハルの身体にはある筈のない二つ目の魔力がお互いを押し出そうと暴れているのだ。


身体中に激痛が走り、時間が経ちある程度纏まってきた時それは目にも見えるようになってくる。

ハルの青色に見える魔力と、『勇者』の光り輝く魔力が絡まり、一つになろうともがいている。しかし、一つになることは無く頭の先からつま先までを円を描くようにして循環する。身体中に激痛が走るのはこの循環のせいだ。一つになる事のない二つの魔力が、狭い身体から外に漏れ出しそれでも尚、離れる事が出来ずに限界距離ギリギリのところで暴れまわっている。


この『聖魔融合』の訓練が五分ぐらい続き、突然身体から発せられていた二つの魔力が途切れる。ハルが限界を迎えたのだ。

ハルの魔力と、『勇者』としての魔力が混ざることは無く、ただ無駄に魔力を消費しただけで今日は終わってしまった。

まさか数秒使えていた筈の『聖魔融合』が、一つに纏めることも出来なくなっているとは思っておらず、思わず膝を着いてしまう。


「嘘だろこれは?出来ないのにも限度ってのがあるぞ‥‥」


予想以上の出来なさにどうしていいか分からなくなる。二年前の勘を取り戻す所から始めるとなると、結構な時間が掛かりそうだ。


「‥‥しょうがない。時間は無いって訳じゃないし、ゆっくりやっていこう」


自分に言い聞かせるようにして呟いて、タイト達のいる方へとフラつく足をゆっくりと動かす。魔力が枯渇しているので、直ぐにでもベッドに横になりたかったが今日の出来を見てからでないとディアナに何を言われるか分からない。


ハルは重い足を引きずって、自分が戻ってくるのを待っているであろう生徒達の元に戻っていった。

後に残されたのは、ハルの魔力に当てられやつれてしまった草木。数日後、ハルが『聖魔融合』をある程度使いこなせるようになった頃には、完全に萎れてしまい原因不明の事態で使用人が怖がるのだがそれはもう少し先の話。




       ーーーーーーーーーー




「失礼します殿下っ!『迷宮都市ザラム』から緊急の手紙が届いておりますっ!!」


「読み上げてくれ。‥‥まぁ、大体内容は想像が付くが」


少し時を遡りハルとレティスが『ローニエの街』を出て1日経った頃に遡る。

ちょうど公務を終えたユリウスが、部屋でのんびりしているとノックをして入ってきたのは一人の兵士だった。少し息が上がっている所をみると、急いで来てくれたようだ。


「ハッ!‥‥『先代勇者』家出。行き先は恐らく『ギルバの都』。此方と合流し、直ちに連れ戻す。来い。‥‥だ、そうです」


酷く簡潔に纏められているこの手紙。書いたのはティナだろう。どれだけ怒っているのかが手に取るようにわかる。‥‥行きたくない。ティナもそうだが、亡くなった姉であるシルも、本気でキレた時は片言だったな。懐かしい‥‥などと現実逃避をしながら、本当に家出をしやがったあのクソ野郎に頭を抱えた。


「予防線貼っといて良かった‥‥‥」



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