バカにしてんのか
「はぁ?なにを言ってるんだお前は?」
‥‥‥んー?思ってた反応と違うんですけど?どうなってんの騎士団長?
「襲撃って‥‥俺にそんな暇は無いぞ。『商業都市ネルダス』で商談が合ったんだ。最近はそれに掛かりっきりでお前が来たというのもネルダスに向かう道中に聞いたんだ。此処に向かってるという話もな」
えっマジで?
「えぇ、確かに最近は忙しそうにして、メアリーやローゼと顔を合わせること自体少なかったんじゃないかしら?」
「そう言えば、最近旦那様の姿見てませんでしたね」
「姉様、私も見てない‥‥って、私は此処に籠もりっきりだったわね」
おいおいまじかよゴルドー子爵殿?もう少し構ってやれよ。
「しょうがないだろう!商談の他にも色々と準備が‥‥」
「あ、そういえばさ、なんで『災厄の一族』の末裔を買おうとしてたんだ?」
襲撃は違うとしても、レティスの件は確実にコイツだからな。
「な、なんでそれを‥‥まさか、お前また何かしたんじゃ?」
「なんで俺が何かしたってわかるの?しょうがなくね?なんか知らないけど目の前に厄介事が落ちてくるんだもん」
「だもんとか言うな気持ち悪い‥‥お前に私の夢は話してなかったな。いいか?笑うなよ?絶対に笑ったらダメだからな!?」
な、なんだよ?そんなに言いたくないなら言わなくていいのに‥‥つか、聞いてないんですけど‥‥
「俺の夢はな、『災厄の一族』の末裔の保護。そしてイメージの払拭だ」
「‥‥‥‥どこに笑う要素が?というか、なんで笑われるって思ったんだ?」
「は?いやだって、普通笑うだろ?そんなの無理だって」
ポカンと口を開けて、笑うなと言ったのに笑うのが普通とか言いやがる。なにがしたいんだコイツ?
「いや、良いことじゃん。俺もルークの事があってからなんとかしようって思ってたんだけど、お前がしてくれるなら手伝うぜ?」
「は?いやまて、ルークってあのルークか?生きてたのか?というか、何の話をしてるお前!?」
あ、やっべえ。ルークの事は秘密だった。‥‥‥まぁいいか。
「なるほど、ルークの過去にそんな事が‥‥‥よしわかった。お前が今、私が買い取り保護する予定だった女性を匿っているのだろう?だったら此方で受け持とう。といっても、信用してくれないと思うが」
「いや、信用する。襲撃の方はどっかの誰かが俺に恨みありそうな奴を適当にでっち上げただけだろ。‥‥ミレイアやローゼ、メアリーは幸せそうだしな。此処に居た方が安全だろ」
実際、この後エルフの里行ってレティスは匿って貰う予定だったからな。丁度いい。此処なら安心出来るし、ミレイア達も居るから一カ所に集まってるのは助かる。
「お前なぁ、もうちょっと人を疑うとかしろ。俺が本当にヤバい奴だったらどうする?」
「本当にヤバい奴はローゼとメアリーの為にミレイアを形だけの妻にしたり、『定着』された魔道具を買ってやったりしねーよ」
「‥‥‥‥はぁ、任せておけ。四人は必ずこの『ゴルドー子爵領』で守る」
「よろしく頼む。‥‥‥今から連れてくる。タイト達もいいか?」
「あぁ。なんなら、此処に住んで貰おう。専属護衛として雇えば問題ない。その方がお前も安心だろう?」
ハゲ子爵の癖に、気が利くじゃないか。見直したぞ!!
「おまえ今ハゲって言ったか?あぁ?」
「あの、ハルさん?なんで俺達、ゴルドー子爵の専属護衛になってんですか?」
「子爵じゃなくて、ミレイアとローゼ、メアリーの専属だ。あと、レティスな」
「いや、誰のじゃなくて‥‥‥」
「ハルさぁん。どこ行ってたんですか?私、お腹が空きました」
ちょうど家を出て飯に行くところだったタイト達を捕まえ、もう一度ゴルドー子爵邸に行く途中で、護衛の件について話をしていた。
「だから、俺は直ぐにでも此処を離れるんだよ。けどアイツら連れてけないし、此処に残ることも出来ない。だったら信用できる奴を側に置いておけばいいんじゃないかなーって」
襲撃の件も誰の差し金かわからなくなったしなー。ゴルドー子爵は白だろう。ミレイア達に隠れてって可能性も有るが‥‥正直、さっきのやり取りを見るにそれはないだろう。
「いや、だからって俺らC級ですよ!?やっと一人前なんですよ!?もっとA級とかB級の人にお願いしてくださいよ‥‥」
「いや、A級とかB級って色々と面倒じゃん?いきなり子爵の専属なんてなったらユリウスの奴が絶対嗅ぎ付けるし‥…その点、お前らなら安心だ!まぁホーンベアーごとき倒せないのは心配だが、そこら辺はなんとかしてやる。お前らなら子爵にも気に入られてるし、遊び相手だった実績もある。周りは随分と気に入られたんだなぁ。いいなぁ。位にしか思わない」
「いや、確かにそうかもですけど‥‥」
「魔法、教えてくれるの!?」
突然、後ろで大人しくしていたディアナが、背中に覆い被さって来る。それをチャンスと思ったのかタイトの反対側からレティスが腕に抱きついてくる。胸の感触が凄い事に‥‥っ!!
「ハルさんっ私お腹空きましたってば!!ワイバーン肉飽きたんでそれ以外でお願いします!!」
「お、お前なぁ‥‥もうすぐ付くから我慢しろ」
ホントに最年長かコイツ?
「えーっと、コイツがゴルドー子爵だ。お前を保護してくれる」
「始めまして。君が『災厄の一族』の末裔だね。君の安全は私が保証する。といっても、主に相手をするのは妻や妾だがね」
誰コイツ?さっきと全然違くない?一人称も変わってるし、正直気持ち悪い‥‥‥
「あの、一応子爵ですからね?ハルさん、相手が貴族だって忘れてません?」
「そんな事ないぞ。ちゃんと子爵だって紹介したろ」
「始めまして。アナタの性奴隷になる予定だったレティスです。今は奴隷から解放されてますけど」
「ちょっ!!その話は‥‥‥」
「えっ、なんですか性奴隷って?」
「旦那様、保護するとか言って‥‥‥」
「サイッテー‥‥‥」
女性陣に冷たい目線を向けられる子爵。特に、元奴隷であった妻の目は一番怖い。
「ち、違うんだ!直ぐに奴隷契約は解除するつもりだったし、性奴隷ってのは奴隷商に対する口実で‥‥‥」
「アナタ、私達に手を出せないからってそんな言い訳しなくていいのよ?‥‥‥ごめんなさい。これ以上近づかないで?」
「ミレイアッ!?」
うっわ、完全にやらかしたな子爵。‥‥タイトも震えてる。そりゃそうだ。怒られてるのは子爵だけど、コッチまで冷気が漂ってきてる。震えもするよね。ところで、ちょっと外出てていいかな?
「この状態で置いていくのか!?」
「大丈夫。タイトは置いていく」
「そんなっ!?連れてってくださいぃ!!」
うんごめん無理。子爵、安らかに眠れ。タイト、付いていってやれ。これも修行だ。
「勇者、逃げるのは許さない。どうせこの街を離れるつもり」
「そんなことしないです本当です三十分位外うろついてくるだけです離してっ!!」
腕を掴まれて逃げられなくなった。今回は本当に外出て待ってようかと思ってただけなのにっ!!というか、なんで俺らまで怒られる体勢に入ってるの!?なにもしてないぞ!!
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「プハァッ!ご馳走様でした。美味しかったです!!」
「お前子爵だよな?なんでこんな豪華なの?」
「元王族がいるのだ。下手なものは出せないだろう?」
あの後、料理長がビクビクしながら食事の用意が出来たと言いに来てくれた。おかげで、なんとか話をうやむやにする事ができたようだ。しかし、なんで俺やタイトが怯えたりしなければいけなかったのだろうか。良く考えたら、関係ないんだから普通の態度でいればよかったのだ。全く、何をしてるんだ俺は‥‥
「で、お前はこれからどうする。私はもう一度ネルダスに行かねばならんのだが。一緒に向かっていた奴らに全て任せてしまったからな」
「俺は一週間ぐらいは居ようかな。直ぐに出ても良いんだけど、ディアナがな‥‥」
「魔法、教えて」
まだ食べていたディアナが、フォークをこちらに向けて来る。そんな目しなくても教えますよ‥‥
「そうか。まぁ、急ぎでは無いのだろう?獣王の事は気がかりだが、今は動く様子は無いと聞く。ルークもさっきの話を聞く限り年単位で動かないだろうからな」
「あぁ。それに、今の俺じゃ簡単に殺されるからな。『精霊武装』もハズレだったし、精霊の力を借り放題になったのは大きいけど、肝心の精霊が殆ど居ないんだよな‥‥エルフの里には一杯居るけど、あそこ行ったら確実に掴まるの思い出してさぁ、厄介な奴がいて‥‥だから今は此処に居るしか無いんだよね」
「ほう、つまり今は行き場が此処しかないと」
「あぁ。本当は直ぐにでも出たかったんだけどなぁ。此処に居ても良い事無いと思ってたし」
いやぁホント、行き場無いんだよね。‥‥此処で『アレ』の修行でもしようかね?初めてコッチに来てやった時俺には合わないと思って止めたんだよねぇ。けど使いこなせれば確実に勇者時代と遜色ない程の力を得る事が出来る。
「なら好きなだけ此処に居ればいい。ミレイア達も喜ぶし、タイト達の強化もするんだろう?」
「マジか。サンキュー子爵。過去の事は水に流そうぜっ!!」
「それとこれとは話が別だ」
「さて、子爵も今朝早くに出たらしいし、この林は自由に使っていいと言われた。ので、此処でお前らの強化をしようと思う」
あの後、一人に一部屋与えられその晩は解散となった。そして翌日、昼過ぎに起きたハルが朝食という名の昼食を摂った後、ディアナに急かされて魔法の授業をする事に決まった。
ちなみに、タイト達三人の他に、王族姉妹が参加している。レティスは読みたい本があると部屋にお菓子を持って引きこもり、ミレイアもやる事があると屋敷を出ている。
「それで、何を教えてくれる?ホーンベアーの時に見せてくれた身体強化?」
「いやいや、俺的にはもっとカッコイイのが良いです!!」
「なに言ってるの二人ともっ!!『定着』について詳しく教えてハル様!!」
目を輝かせているタイトとディアナ。そして昨日の異臭騒ぎの原因である魔導具を手にしているメアリーは放っておこう。
最初からそんなの教えるわけ無いでしょう。
「お前らに教えるのは、『魔力障壁』だ。さぁ、始めるかっ!!」
「「「「「バカにしてんのか」」」」」
あれぇ〜?おかしいな。さっきまで黙って目を輝かせていたマリアとローゼからも聞こえたぞ?
さて、初等学校一年生のお勉強ですっ!!




