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いえ、十分です


「我が王家が、勇者様に多大なるご迷惑をお掛けしましたこと、誠に、申し訳御座いません」


なんで謝るかなー?俺、君たちの家族皆殺しにしたのよ?ここら辺では、悪魔って呼ばれてるんだよ?勇者のバーカって言われてるんだよ?そんな奴に謝らないでよ‥‥


「ま、待ってくれ。俺は君達に殺されても文句は言えないような事をしたんだぞ?なのに、なんで謝るんだ?」


俺に対して深々と頭を下げていたローゼが、ゆっくりと顔を上げる。すると、今にも泣きそうな顔が見えた。そして、ゆっくりと、話を始めた。


「私とメアリーは、他の兄姉達とは母が違うのです。私達の母は、平民で父である帝の妾。ですから、私達姉妹は他の兄姉達から虐げられる毎日を送っていました。母が、病気で亡くなってから、それは更に悪化し、帝も見てみぬフリをして、私達に居場所は有りませんでした。そして厄介払いのように『聖都ネスティア』に追いやられました。でも、それは見てみぬフリを続けていた父の、唯一の優しさでした。‥‥その時から、もう我が王家は闇に侵されていたのだと思います」


「学院に行けるって分かったとき、本当にホッとしたの。姉様は、私を庇ってあのクズ共から私以上に傷つけられてたから」


別に俺、あなた方の身の上話を聞きに来たんじゃ無いんですけど‥‥黙っておこう。


「だから、私と姉様はアナタを恨んだりした事は無いわ。むしろ、感謝しているの。あのクズ共を殺してくれて。‥‥まぁ、『聖都ネスティア』で過ごした最後の一月は最悪だったけど」


それに関してはスイマセン。知らなかったんです。ネスティアにお二人が居るなんて‥‥本当に、それに関してはスイマセン。


「なるほど。なら、俺は刺される事は無いと‥‥安心した。いやぁ、騎士団長が迎えに行ったときスッゴい目で睨まれたって聞いて、ビクビクしてたんだよ」


「あ、それはですね、またどこぞの貴族が何かしに来たんじゃ無いかと勘違いしてしまって‥‥謝っといてくれませんか?本来なら此方から出向くのが筋なのですが、私たちはこの都市から出られないので‥‥」


「あー、それは無理だなぁ。俺、今家出中だし」


「「は?」」


まぁ、これで漸く安心出来る。もう心配事は無くなったな。後はルークを見つけて、決着を着けるだけだ。


「あの、それで勇者様?此処には何しに来たんですか?」


「君達二人の様子を見にね。それ以上の目的は無いよ。‥‥まぁ、あのハゲ野郎が君達を不幸にしてるってんなら斬り捨てに来たんだけど、それも心配無さそうだしね」


「じゃあ、次は奥様のお話しましょう姉様。まぁ、私は別に奴隷だろうがなんだろうが関係無いと思ってますけど」


「私も同じ考えよ。どんな人生を歩んできたかなんて関係無い。奥様は私達の心の隙間を埋めてくれたのだから」


「二人共‥‥」


なんかアッサリと終わった。めでたしめでたしだな。さて、さっきからついてこれ無くて固まってる三人も会話に加えてやろう。


「俺はもう用は済んだし、このまま帰ろうかと思う。宿も取らないとだし、多分アイツも起きて腹空かせてるだろうからな」


「えっ?家に泊まって行けばいいじゃ無いですか?」


「いやいや、明日の朝には此処を出るし、色々と準備しなきゃなんだよ」


「‥‥私達も準備手伝う。魔法、教わるまで付いてく」


チッ、忘れて無かったか。今の話を聞いて忘れてると思ったんだがな。


「それはそれ。これはこれ」


「そうですよ。もしかして、今逃げようとしました?」


「ちょっと、勇者様にも都合が有るんだから、ちょっとは遠慮して!!」


そうだぞ二人共。俺にも色々とあるんだ。マリア、頑張ってくれ‥‥


「そう言えば、ルシウスって偽名ですよね?さっきも言ってましたけど、家出ってどういう事ですかハルさん?」


「ミレイア、それは話すと長くなるから今度な」


「あら、ハルさん?どうせもう此処に来る気無いんですよね?分かりますよ。さぁ、今話してください。どうせハルさんが何かしたんでしょうけど」


「お前なぁ‥‥まぁ、合ってるけどさ?」


「そ・れ・よ・り・も!!勇者様‥‥ハル様って呼ぶわね。ハル様、私なりに『定着』の魔法を解析したの。でも、何故か毎回異臭がして‥‥」


「それよりもコッチですハル様!!私に剣の稽古を付けて頂けませんか?今から裏庭で‥‥」


「二人共待ちなさい。まだ私の話が終わってないの。さぁハルさん!!今度はなにやったんですか!?」


「お三方、先約は私。勇者、早く魔法を教えて」


近い近い!!まずお姫様二人、一応肉親の仇なんだからもう少しなんかあるんじゃない?ミレイア、お前なんで俺のせいって決めつけるんだよ?違うかもしれないだろ‥‥いや、違わないんだけど。ディアナ、お前ちゃんと偽名で呼べ。


「と、取りあえず落ち着け。お前ら、近過ぎなんだよ!!ミレイア、ローゼ、お前らハゲの女だろ!?もう少し考えて行動しろ!!」


「だから、私は形だけのお嫁さんなんですって。時期が来たら私じゃ無くて他の人がちゃんと奥様やって、ローゼとメアリーも自由になるんです」


「いや、そういう問題じゃ‥‥



















「ミレイア、ローゼ、メアリー無事か!?今さっき王家からあのクソ忌々しい勇者が此処に向かってると‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥久し振りだな。勇者」




















「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥お久しぶり、ハ‥‥‥‥ゴルドー子爵殿。元気してた?」


「お前今ハゲって言いかけたろ?」


相変わらずハゲって言葉に敏感だなぁ、だからハゲんだよ。全く、これだからハゲは‥‥やれやれ。


「お前ホンット貴族に対して失礼だよな。今じゃ子爵だぞ俺?もう少し敬え」


「俺は『前代聖女』でありこの国の王女だった奴の恋人だぞ。ソッチこそ敬えよ臣下だろ?」


「テメェ‥‥やっぱ斬り殺す!!」


「ハッ!やれるもんならやってみやがれ、返り討ちだ!!」



「お二人とも、いい加減にしてください。怒りますよ?」



「‥‥へ?」


「すいませんでしてぁ!!」



おかしいな、いつかのティナと重なるぞ?会った事無いと思うんだけど?なんでこんなに重なってみえるんだろう‥‥お前、さっき子爵がどうのって言ってなかったか?


慣れてるのか思わず見とれる(現実逃避)程に奇麗なジャンピング土下座を見せてくれた子爵殿。ここ数年のコイツの扱いが一瞬でわかる行為だった。苦労してんだな‥‥ハゲって言うの控えよう。


「全く‥‥あなた、子爵としてキチンとしてください。タイト達もこの場には居るんですよ?ハルさん、もう少し大人しくして、『先代勇者』としての自覚を持ってください。アナタはこの世界が誇る『英雄』です。みっともない姿を民に見せる事は控えてください」


「いや、今のはコイツが‥‥」


「いいですね?わかったら返事」


「はいっ!!」


こ、怖い‥‥これがミレイアなのか?俺の知ってるコイツはもっと適当な奴だったぞ?まさか、偽物?


「あら、まだ怒り足らないですか?」


「いえ、十分です」


「凄いです奥様。どうやったらそんな風に穏便に解決できるのですか?」


「フフッ、マリア、これは夫が出来たら自然と生まれる威圧感なのですよ。アナタもいずれは出来るわ。まぁ、私の場合は特殊だけどね。結婚自体ウソだし」


「あっ、そうだ!おいゴルドー、お前ミレイアとの結婚はウソらしいな、どういう事だ?もしミレイアで遊んでるってんなら‥‥」


今度こそ本当に『魔導剣』をアイテムボックスから取り出し殺気を放つ。子爵殿?顔が強張ってますよ?どうかされましたか?


「落ち着け。遊んでないし、一度も手は出してない。それよりも、今はお前の事だ。お前、逃げ出して来たようだな?なんだ?例の少女の件で『勇者パーティー』の契約精霊に核心を突かれて恥ずかしかったのか?まぁそうだよなぁ。お前は自分を『パパ』と呼び慕ってくれる少女を自分の都合の良いように使ってたんだもんなぁ?そりゃ逃げ出したくもなるか」


「黙れ‥‥‥殺すぞ」


「ヒッ‥‥‥」


殺気が子爵だけに向けていた筈なのに、この部屋に魔力と一緒に漏れ出して行く。マリアとディアナ、ローゼは尻餅を着いてしまう。タイトは辛そうだが、なんとか踏ん張っている。メアリーは気絶してミレイアに寄りかかっている。なんでミレイアは澄ました顔で成り行き見守ってるの?子爵でも顔引きつってるんだけど。


「フン、別に良いぞ?殺せ。まぁそんな事したら、我が妻が死ぬまでお前を殺しに追いかけるだろうがな」


「えっ」


「‥‥‥えっ?」


‥‥‥なんか、色々と台無し何ですけど。





「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥えっ?」






もう何も言わなくて良いよ。子爵殿‥‥




        ーーーーーーーーーー




「さ、さて!とりあえず上に戻りましょう?そろそろ夕飯の時間だわ。もし良かったら一緒に食べて行く?今から料理長に言えば間に合う筈だから。あっ、ハルさんは決定ですからね?色々と聞かせてもらいます」


「あぁ、うん‥‥いや、タイト達は遠慮してくれ。ちょっと大事な話があるんだ。ワイバーンの肉やるから、レティスの飯お願いして良いか?」


「ワイバーン!?任せてください。レティスさんは俺達で面倒見ます!行くぞ二人とも!!」


「えっ?ちょっとタイト!?‥‥もうっ!お邪魔しました子爵様、奥様。ローゼ様、また来ます!!」


「お邪魔しました。メアリーにはよろしくと伝えておいてください。‥‥勇者、逃げたら許さない」


そう言い残して、ハイテンションなタイトを追って二人も部屋を出て行く。まぁ、ワイバーンの肉は偶にしか食べられないからな。気持ちはわかるぞタイト。


「‥‥なにかあの子達には聞かせられない話ですか。それは私たちが聞いても?」


「あぁ、というか、3人とも俺の側に寄れ。近くに居ないと守れない」


首を傾げてプルプルしている足を頑張って動かしてローゼが寄って来る。ミレイアはいつでも動ける様に背中にメアリーを背負ってコッチに歩いて来る。よし‥‥


「なぁ、ハゲ」


「確かに偽物の夫婦だが、『なんで私がそんな事を?』みたいな顔でコッチ見る事無いだろ?もう少しなにか‥‥誰がハゲだ勇者ぁ!?」


「いや、この場にはお前しか居ねぇよ‥‥単刀直入に聞く。王都から迷宮都市までの道中で俺達を襲った盗賊を指示したのはお前だな?」






「ハァ?」







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