奥様
「『ルシウス』さん、此処が子爵邸です」
「でっか!!子爵邸の規模じゃねーだろ!?」
ディアナに脅されて『俊足』を教えることを了承し、姫様二人に会わせるという条件まで出したハルは、三人に連れて来て貰い、念願の子爵邸にやってきていた。レティスは起きなかったから留守番。一応書き置きとワイバーンの肉串を数本置いてきた。暫くは大丈夫だろう。
「お?お前らか。そう言えばもう一週間経ったんだよな。‥‥そっちのは?」
「あ、新しく僕達のパーティーに入ったルシウスさんです。これからも来ることになるんで、一緒に来ました」
「うーん‥‥まぁ、お前らのパーティーメンバーなら大丈夫か。一応冒険者カードを見せてくれ」
「はい。‥‥どうぞ」
言われるがままに警備の人に冒険者カードを手渡す。‥‥レティスの時みたいに、なんか変なこと書いてないよな?
「‥‥G級か。お前らC級だろ?なんでG級なんて入れたんだ?」
「ぼっ、冒険者登録は最近ですけど、実力は彼の方が断然上です!!なんてったって、ホーンベアーを瞬殺‥‥」
「タイトォ!!もういいだろ!?さぁ、子爵邸に入ろうぜぇ!!?」
「え?あ、はい」
少し強引にだが、子爵邸に押し入る。いや、しょうがないと思う。だって、こんな所でG級冒険者がホーンベアーを倒した。なんて情報が出回ったら‥‥確実にアイツらが来る。それだけは避けないといけない。
「この時間なら、ローゼ様は裏庭で剣の稽古。メアリー様は地下工房だと思います。どっちに行きます?」
「んじゃ、姉連れて地下に行こう。よろしくな」
「え、俺達が話すんですか?」
なに言ってんだこいつ。当たり前だろ?
「アホか。いきなり俺が話しかけても警戒されるだけだろ。殺されてもおかしくないんだし」
「あ、確かにそうですね。俺ちょっと行ってきます。マリア、ディアナ、ルシウスさん連れて地下に行っててくれ」
「了解。じゃルシウスさん此方で‥‥」
「あら?マリアじゃない!久しぶりね。今日もあの子達に会いに来たの?」
「奥様!!ご無沙汰しております」
マリアとディアナが臣下の礼をしたので、俺もそれに習って膝を着く。
「あぁ、そんなの良いのよ。ディアナも久しぶりね。相変わらず可愛いわぁ‥‥それよりも、その方は?」
「あぁ、この人は「お初にお目にかかります。この度、タイトのパーティーメンバーとなったルシウスと申します。以後、お見知り置きを」
「そう、このパーティーに。初めまして。ルーヴィン・ゴルドーの妻、ミレイア・ゴルドーです」
ミレイア‥‥ウソだろ?どこかで見た事あると思ったら、昔奴隷から開放した内の一人じゃん。まさか貴族の嫁とは、この事あのハゲは知ってんのか?
「マリア、この後時間あるかしら?良かったらローゼも混ぜてお話しない?」
「スイマセン奥様、今日はちょっとローゼ様達に用事がありまして」
「そう‥‥残念ね。じゃあまた今度ね。ディアナ、メアリーと仲良くしてあげてね」
「ハイ。勿論です、奥様」
昔の顔なじみはそう言い残して奥の部屋へと消えて行った。しっかし、仲良くやってんだなぁ。よかったよかった。
「あれ?まだ此処に居たのか?もう地下に行ったのかと」
「あら、この方?新しいパーティーメンバーと言うのは」
来た。‥‥王女様?鍛え過ぎじゃないですか?もっとおしとやかなイメージだって聞いてたんですけど?いや別にね?筋肉モリモリのごっつい女の子とかじゃ無く、姫様とかお嬢様にある雰囲気が一切感じられないんだよね。どこかのお姫様みたいに。こりゃ妹姫もとんでもなく化けてる可能性も出て来たな。
「お初にお目にかかります、ローゼ姫。タイトのパーティーに加わったルシウスと言います。以後、お見知り置きを」
ミレイアの時と同じ様に臣下の礼をとる。‥‥お前らはしないのかよっ!!
「顔を上げて。今の私は只の妾ですから。姫等と呼ぶのは間違いよ」
「‥‥ハッ、では、ローゼ様と御呼びさせていただきます」
臣下の礼を解いて改めてローゼに向き直る。ふむ、顔の色も良いし身体も引き締まってる。少し痩せ過ぎな感じもするけど、女の子だし、剣の稽古してるっていうからな。こんなもんなんだろ。しかし、安心した。タイト達から聞いていたとは言え、やっぱり自分の目で確認しないとどうもな‥‥
「そ、それじゃ行きましょうか。‥‥ルシウスさん、あんな事もできるんだ」
タイト君?それはどういう意味かなぁ?もしかして、俺の事バカにしてる?コレでも一応、少し前まで勇者やってたんだからね?コレ位は仕込まれてるっつーの。
「メアリー、入るわよー」
ローゼが先頭に立ち、扉を開ける。すると、中からとんでもない異臭が漂って来た。クッサ!!とりあえず、自分の周りに風の防護壁を張って‥‥これ、『浮遊』の時息できないから開発したのに、まさかこんな風にも使い道があるとは。これで誰かが屁こいても俺は安全だな!!
「けほっ、けほっ‥‥もう!またなの、メアリー!!」
「クッセー!!ゲホッ、ウエッ」
「ケホッ‥‥きゃっ!?ディ、ディアナ!?しっかりして!!」
なんで入り口に立っただけで死にかけるんだ?はぁ‥‥
とりあえず、匂いを上空の一点に集め、周りを風で覆ってこっそりアイテムボックスに閉まっておく。何時まで経っても話が進まないからな、これじゃ。
「コホー、コホー‥‥プハッ!あれ、姉様?なんで地下に来てるんですか?珍しいって、ディアナじゃない!!一週間振り!!!なんで死にかけ?」
「殺しかけといて、随分と他人事‥‥」
「ありゃ、そんなに臭かった?ゴメンねー。自分じゃ嗅ぎたくないからマスクしてたの。それに、此処には暫く近づくなって皆にも言ってたから大丈夫かなって」
「メアリー!!今度は何の実験なの!?」
おぉ、怒ってる。というか、これホントに王女か?俺の知ってる王女って、もっとこう‥‥いや、こんなもんか。まだマシだな、この二人は。まぁ、とりあえず
「お初にお目にかかります。メアリー王女。実験の最中、お邪魔してしまい誠に申し訳ありません。私は、タイトのパーティーに新たに入ったルシウスと申します。以後、お見知り置きを」
「あら、これはご丁寧にどうも。元ゲノム帝国第四王女、メアリー・グレイシア・ゲノムですわ。まぁ、今は只のメアリーですけど」
挨拶も終わった所で、早速本題に入りたい。が、その前に一つ。
「マリア、ちょっと」
「え?はい」
マリアを手招きして、部屋の外に連れ出す。ミレイアについて聞いとかないといけないからな。
「マリア、ミレイア‥‥奥様がゴルドーの嫁になったのはいつだ?」
「奥様?確か、ローゼ様達が此処に来る直前って聞いてますよ。それがどうかしたんですか?」
「奥様が此処に来る前なにしてたか知ってるか?」
「え?なんですそれ「マリアは知りませんよ。お久しぶりですね」奥様!?」
「‥‥なんの事でしょうか、奥様?では、これにて」
「大丈夫です。王宮には話しませんよ。それよりも、話を聞いてください」
なんでコイツ、俺の正体がわかった?いや、それよりも、どうやって此処まで近づいた?
「私のスキル、忘れました?」
「『気配遮断』そういやそんなの持ってたな。お前」
「ふふっ、覚えていてくれたんですね」
「当たり前だろ‥‥ハァ、マリア、ミレイア、中に入るぞ」
「はいっ、ハルさん!!」
「えっ?どういうこと?なんで奥様と対等に喋ってるの?それに、なんでルシウスさんの正体知って‥‥」
オロオロしているマリアを、ニコニコ顔のミレイアが押して、部屋に入って行く。中から驚いた声が聞こえる。これからどうなるんだ?
「さて、まずはお前から話してもらうぞ?ミレイア」
「なっ、奥様になんて口を聞くのアナタ!?」
「タイト!なんでこんな失礼な奴連れて来たの!!さっきまでと別人じゃない!!!」
「お、お二人とも落ち着いて‥‥」
「いいのよ二人とも。それよりも、話を聞いて。‥‥この方は私の命の恩人なの。なんかイメチェンしてチャラチャラした見た目になったけど」
「ばっ、おまっ、これはだなぁ!正体がバレない様に俺なりの考えで‥‥」
「命の恩人?」
「どういうこと?」
二人とも漸く落ち着いてくれたようだ。‥‥コッチの3人も訳がわからないと言った風だな。まぁ、しょうがない。俺も予想外の事態だし。
「二人とも、落ち着いて聞いてね?実は私、この方に助けられるまで奴隷だったの」
「え‥‥」
「奥様が、奴隷?」
うん。二人共どんな反応したら良いのか解らないって顔だな。こっちの3人は言わずもがなだ。さて、俺も準備しないとな。
「えぇ、六年と半年位前までね。偶然、私を乗せた違法の奴隷商が国に見つかって、その時、この方は依頼で私達を助けてくれて、その上、国は私達に住む場所と仕事を与えてくれるって言ってくれたの。けど、私は世界を見たくて、各地を歩いて回ったの。そしてその一年半後、魔王が討伐されたって話を聞いたわ。そして、『聖女』様が亡くなった話も。『勇者』がショックで寝込んでるって話もね。私は助けて貰った恩返しをするため、ファフニール皇国へと戻ったの。けど、私が戻った時はもう『勇者』は帰った後だった。その時よ、子爵と会ったのは。四年半前、ゴルドー子爵はお嫁さん探しをしてたわ。ある王女2人を、自分の領地で匿うと決まったからね。自分は子供の扱いに慣れて居ないから、そういうのに慣れた人をその子達の側にって考えたの。でも、侍女じゃ二人は心を開かない。だから、お嫁さん探しをすればいいんじゃないか?って思ったらしくてね。ちょうど城に来てた私が、適任って事になって、ゴルドー子爵の妻になることになったのよ」
待て待て待て、ハゲの奴、そんな理由でミレイアを自分の物にしたのか?コイツもコイツだ。なにやってんだよ?
「‥‥あの、まさかとは思うんですけど、助けてくれた人って」
「えぇ、『勇者』よ」
「と、言うことはこの方は‥‥」
きたきた、さて、刺される位で済めば良いんだけど‥‥無理だよなぁ。流石に殺されるのは勘弁だぞ?
「お察しの通り、俺が『先代勇者』である蓮川春人だ。改めてよろしく、元ゲノムのお姫様方」
幻影魔法を解いて黒髪黒目の蓮川春人の姿に戻る。あぁ、痛い思いはなるべくしませんように‥‥というか、ミレイアの奴隷の話より僕のお話なんですね。いや、確かに?コッチの方が重要度高いかもですけど、別に後でだって‥‥
「我が王家が、勇者様に多大なるご迷惑をお掛けしましたこと、誠に、申し訳御座いません」
んん?なんで謝る?