三徹
「さて‥‥まずは名前から聞こう。俺は蓮川春人。ハルって呼んでくれて構わない」
お茶を淹れ、一息入れて本題に入る。
「えっと、レティスと言います。私の祖先に「災厄の一族』が居たようで、母と父は黒目ではなくって、髪の毛は私と同じで、少し明るく赤っぽい茶色なんですけど、私だけ黒目だったんです。それまで、自分達のどちらかが『災厄の一族』の末裔なんて知らなかったらしく‥‥当時は凄く揉めたそうです。二人は同じ村で育って、遠い親戚で血も繋がってるそうです。だから、母が浮気したんじゃないかって父が疑って‥‥」
俺は名前を教えてくれって言っただけで、其処まで話せとは言ってないんだが‥‥まぁ、いいか。この話は聞いといて損は無いだろうな。ルークにどうにかするって言ったし、何か思い付けば良いんだが。
「そんな時、どこで知ったのか私が生まれた事を聞いて村から両方の祖父母達が訪ねてきたんです。‥‥その時、父と母。どちらの祖先も、『災厄の一族』の血を引いていることを知ったそうです。というか、父と母が育った村は殆どが末裔だそうです。その事は成人の15歳の時に教えられるそうなんてすけど、父と母は冒険者になるため14で村を出ていて‥‥って、すいません!!此処まで話せとは仰って居なかったのに!!」
「いや、いいんだ。むしろ、聞かせてくれて感謝するよ。聞きたいんだが、レティス‥‥さんのご両親や村の人々はどうしているんだ?」
「レティスで良いです。父と母は‥‥私が5歳の時、殺されました。祖父母は、私も会ったことがなく、父と母にこの話を聞かされていただけで‥‥」
「そうか‥‥すまない。辛いことを聞いた。許してくれ」
そう言って頭を下げる。失敗したな‥‥もうちょっと考えて、言葉を選ぶべきだった。奴隷になってる時点で‥‥ん?
「そ、そんな!!頭を上げてくださ‥‥「ちょっといいか!?」は、はい!?」
頭を下げて謝罪をするハルを見て、顔を真っ青にして慌てる。当然だろう。自分の方が年上だとしても、『奴隷』で、相手は年下だけど世界を救った『勇者』。しかも自分は『災厄の一族』の末裔だ。余計に慌てるだろう。が、そんな寿命が縮む思いは思いの外早く終わった。
「嫌な気持ちになるかも知れないが、許してくれ。レティス達『災厄の一族』の末裔は、見つけたら即刻殺すものなんだろう?ならなんで君は奴隷になるだけで済んでるんだ?」
「あぁ。それはですね。私が当時仲良くさせて頂いていた男の子が、伯爵様の嫡男様だったんですよ。バレてしまった以上、父と母は首を落とさなければ親族から何を言われるか分かったもんじゃ無いと言って殺されてしまったんですけど、流石に子供を、しかも自分の家の子が結婚までって言っていた子を殺すのは忍びないと言うことで、密かに生かしてくれたんです。その子はこの事を教えられて居ないし、今後も伝えるつもりは無いと言って、そのまま私は奴隷として売られたのですが‥‥」
成る程ねぇ‥‥さっきから気になってるんだけど、なんか似たような話しを聞いたことがある気がするのは俺の気のせいかな?
「さっきまで主人だった人は伯爵様に返しきれない程の恩が有るとかで。店には出さずに秘密裏に私を育ててくれたんです。私の目と耳を見せないように。それはもう慎重に」
うわー‥‥ヤバいよこれは。本当に予想当たってたらどうするよ?俺の腕斬られ損じゃない?いや、まだ勘違いと言う事もあるし、別の所から聞いてみよう。
「えっとさ、その伯爵の事は怨んでないの?密かにって言っても、やっぱりぶたれたりしたでしょ?」
「確かに、父と母を殺したことで当時は怨みました。なんで自分だけーって。でも、あの時はそうするしか無かったんだって。全員は助けられない。だから、私だけでもって言う伯爵様の御厚意なんだって分かって。それからは、怨みが無いと言えば嘘になりますけど、それと同じぐらい助けて頂いて感謝してます」
ナルホド、ナルホドー‥‥‥
「ちなみに、その伯爵の家名ってわかる?」
「えっと、確か‥‥『カーライル』だったと思います。スイマセン。家名は余り聞いたことが無かったので‥‥」
「いやいや、大丈夫だよ」
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥アウト
これどうすんの!?ホントどうすればいいの!?生きてるなんて思わないじゃん?ルーク、キミの為に堕天使と契約したらしいですよ?どう思いますか?‥‥駄目だ。色々と追い付かない。
「‥‥取りあえず、夜も遅いからご飯食べて寝ようか。作ってくるから待ってて」
「あ、はい」
最初は手伝いに行こうかと思ったのだが、お茶の時と同様に、自分はこの家の事を知らないので邪魔にしかならない。そう考え素直にハルに任せる。が、料理だけは任せない方が良かったかなぁ。と思うレティスだった。
「まっず!!」
「こ、これは‥‥‥」
ーーーーーーーーーー
ハルの激マズ料理は食えた物じゃ無く、レティスがハルに色々と収納場所を聞きながら夕食を作った。その後、ハルに案内され風呂やフカフカのベッドに驚いきながらそのまま倒れるように寝入ったのは、深夜過ぎだった。
「ふぅ‥‥疲れたな」
今は食事をしたリビングで一人ゆっくりしているハル。本当ならベッドで寝たいところだが‥‥
「眠れない」
そう。全く眠れないのだ。ナギを抱き枕にしてた時は何故か安心して眠れた。が、昨日一昨日と、外で眠ろうとした時、寒さのせいも多少あるのだろうが、ウトウトもせず、朝までゴロゴロしていたのだ。
「くっそ、どうするよこれ?ずっとこのままだったらヤバいぞ‥‥」
このまま眠れなかったら、戦闘時は勿論。日常生活にも支障が出てしまう。睡眠薬でも飲んで眠るか?と考えたが、毒とかそういう身体に害になるものは全て跳ね返すようになっているのだ。女神はよかれと思ってやっているのだろうが、この時だけは邪魔だった。
「‥‥最終手段。レティスの部屋で一緒に寝かせて貰う」
これが一番寝れそうな作戦だが、これをすると次ルークに会ったときに冗談抜きに永遠の眠りに就かされそうだから却下。
『じゃあ私とお話します?』
「間に合ってます」
『では私と』
「間に合ってるって言ってんだろ日本語通じねぇのかよ」
『念話』を使ってもないのに女神と天使が話しかけてきた。ウザイ‥‥
『酷いですねぇ。朝までお話しましょうよ~』
『そうですよ。まぁ、女神様はともかく?私みたいな美少女の声が頭に響くと興奮しすぎてしまう。と言うのは分かりますが。そこは耐えて下さいね?』
『なっ!?私はともかくってどういう意味ですか!?私より胸無い癖に生意気ですね!!』
『はぁ!?胸で女の価値は決まらないんですよぉ!そんなデッカいの邪魔なだけてすし!!』
『ふっふっふ。そんな血の涙流しながら言われても説得力無いんですよ!あぁ、重い重い。こんなに大きいと肩が凝ってしまいますねぇ』
『その喧嘩買った!買いましたよ女神様!!もぎ取ってやる!!!』
『出来るもんならやってみなさいな!!』
頭にバカ二人の叫び声がガンガンと響く。滅茶苦茶五月蝿い。数十億歳のババァ共がギャアギャアうるせーんだよ‥‥‥
「うるっせー!!ちょっと黙れよ!?このババァ共がぁ!!」
『~~っ!?』
孤児院の時とは比べ物にならない程の声量で叫ぶ。一気に静かになったな。まったく‥‥
「あ、あの。どうかしたんですか?私、なにかしました‥‥?」
「えっ!?あ、いや、ちがっ‥‥‥」
ハルの叫び声で飛び起きて来たレティス。若干涙目になって扉から半身を出してビクビクと震えている。まぁ、いきなり怒鳴り声がして、『ババァ』なんて荒っぽい言葉が出てきたらそりゃ驚くし、涙目にもなるだろう。
「た、確かにハルさんより私は年上ですけど、まだ『ババァ』と言われる程じゃあ‥‥」
「ち、ちが、違うんだよ!今のはレティスに言ったんじゃなくて、駄女神と天使に‥‥」
『泣かしたー。ハルさんが女の人泣かしたー』
『うわー、最低ですね。軽蔑しますよハル。ブフッ‥‥』
「ちょっと黙ってろっ!!」
「すっ、すいません!?」
「いや、だから違うんだって‥‥」
本気で泣く寸前のレティスを落ち着かせて、女神との『念話』について話す。その際、実際に使って貰ったのだがそこでまたパニックになり、もう一度落ち着かせる。そんな事をやっていたら空が明るくなってきていた。これでほぼ三徹なんですけど‥‥