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守備範囲外


あぁ、やっちまった‥‥ 


ハルは今、『迷宮都市ザラム』(鉱山都市とも言う)を飛び出し、自分でもどこに向かっているのかわからないが、取りあえず皇国と反対方面をさ迷っていた。


やっぱ。、勢いで飛び出したのは失敗だったな。いや、あの時はそうするしか無かったし‥‥けどやっぱり、毛染めが買えなかったのは痛いなぁ。複合魔法の一つ、『幻影』魔法も、こっちで常時使ってたらいざという時の魔力が無くて死亡。なんてのは避けたいし‥‥どうするか。

いや、それよりも‥‥


『ナギはアナタの『悲しみ』を埋める道具じゃ無いんですよ!!!』


ハクの奴、なんであんな事‥‥でも俺に思い当たる節が合ったのは確かだし‥‥


「あぁー、くそったれ!!もうどうとでもなれ!!今は考えるの止めだ、止め!!」


「キャーッ」


‥‥めんどくせぇ。なんなの?頭のなかグッチャグチャなのに、なんで厄介事を持ってくるんだよ?


「イヤっ!辞めて!!」


あぁ‥‥しょうがない。やるか。


一つ溜め息をついて、叫び声の方へと走り出していく。




         ーーーーーーーーーー




叫び声の元へ着くと、どこにでもいる魔物。『ゴブリン』が10匹と、『オーク』が三匹、一つの馬車を囲んでいた。が、その馬車は横に倒れ、御者と護衛冒険者らしき死体が辺りに散らばっていた。なら、先ほどの叫び声は?死んだのか?死んだなら治療しなくていいから楽でいいなぁ。なんて考えながら、第三のサード・アイを発動し、見えない馬車の裏も見る。


‥‥チッ、生きてやがる。めんどくせぇ。


どうやら、読みは当たってしまったようだ。けどこれは‥‥


「うわぁ。『災厄の一族』の末裔だ。ルークの事もあるし、直接関わる事はしたく無かったんだけど‥‥しょうがない。助けよう」


取りあえず、此処は小さな森林みたいな所だから、火魔法は論外。‥‥土魔法上げる為に使うか。あぁ、土魔法は詠唱破棄出来ないからなぁ‥‥めんどくせぇ。


「我が魔力を糧として、彼の者の前に土の壁を作りだせ。『土壁』」


魔力を目一杯に使い、中級レベルの強度と高さを持った土壁を襲われている『災厄の一族』の末裔と、ゴブリンとオークの間に作り出す。いきなり出来た土壁に、両側で驚きの声が挙がる。いや、声を挙げたのはオーク達の方で、『災厄の一族』の方は余程気を張って疲れていたのか、助けが来たと安心して気絶してしまったようだ。本当は土壁を作って逃げる時間を稼いだらそのまま放っておこうかと思っていたのだが、予定が狂ってしまった。


「あり得ないだろ‥‥『土壁』が出来たからって、まだ安全とは言い切れないのに。どんだけ神経図太いんだよ‥‥‥」


ハルは急いで駆け出し、ゴブリンとオークの前に立つ。右手には『魔導剣』を持っている。


「グギャッ?」


「ブフォ?」


相変わらず汚い声だな‥‥なんて考えながら、詠唱を唱えて左手で『土槍』を一本作り、ゴブリンの腹に突き刺す。いきなり出てきた『土壁』と、ハルに驚いて放心状態だったゴブリン達は、この攻撃で正気を取り戻す。完全にハルを敵だと認識したようだ。


「グギャァッ!」


汚い声を挙げながら、二匹のゴブリンが飛びかかって来る。それを『魔導剣』を軽く振って首と胴体を切断。地面に鈍い音で落ちる。今のを見て、完全に理性を失った残りのゴブリンが、「グギャグギャッ」と言いながらハルに向かって突撃してくる。


「‥‥『我が魔力を糧とし、彼の者を串刺しにする槍と化せ。土槍』」


さっき使った『土槍』を残りのゴブリンの数の七つ作り、頭に向かって放る。‥‥流石ゴブリン。避けもしないで突っ込んで来た。

そのままゴブリン死亡。


「うぇ‥‥目が槍の先に刺さってるのがいる。キモッ」


一体だけ、目が先っぽに突き刺さっているゴブリンがいた。物凄く気持ち悪い。そのゴブリンを見ていると、オークが逃げ出していた。逃げる判断が出来るぐらいの脳は有るんだなー。と考えながら、風魔法の『風刃』を三つ作る。オークを此処で逃がす理由は無い。


「ブフェッ?」


頭と胴体を、三体とも綺麗に切断してやった。胴体を二つにしてもいいけど、それだと直ぐに死ななくて死ぬまでブヒブヒ煩いからな。

魔石を回収して、『災厄の一族』の末裔のいる、『土壁』の方へと回り込む。‥‥この悪臭の中でよく寝れるなぁ。と思いながら、頬をペチペチと叩いて起こす。‥‥髪が短いし胸もないから男かと思ったけど、よく見たら女だな。年は‥‥ユリウスと同じぐらいか?守備範囲外だな。そんな失礼な事を考えていると、漸く目を覚ましたようだ。


「‥‥ヒッ!?」


‥‥軽く傷付いた。なんだよ、「ヒッ!?」って、命の恩人にそれは無いんじゃね?

もうこのまま放っとこうかな。なんて考えていたら、突然土下座された。


「も、申し訳ありません!今のは、先ほどのゴブリンとオークに驚いて、何が何だかわからなかったからなのです。ですから、決してあなた様のお顔をみて怖がった訳では‥‥殺さないで!!」


えぇー。俺ってそんなに怖いか?‥‥あぁ、なるほど。『災厄の一族』の末裔って時点で、なんとなく想像はしてたけど、やっぱりコイツ‥‥‥奴隷だ。


「‥‥落ち着け。俺はお前をどうこうするつもりはない。それに、『災厄の一族』の末裔だからと言って差別もしない。だから安心しろ」


「そんなの、信じられません‥‥」


はぁ。まぁ、しょうがないんだろうけど‥‥


「じゃあ、取りあえず信じなくていいから、選べ。俺と一緒に来て、奴隷の契約を解除するか。俺と別れて、ここで魔物に襲われて死ぬか。まぁ、後者だと犯されるってのも追加されるだろうな。前者はやり直す為のある程度の金も渡すけど?」


「‥‥‥」


えぇー、悩む必要あるか?明らかに前者だろ。あ、俺が嘘付いてるとでも思ってるのか?


「じゃあ、俺が嘘付いてない証拠に、『誓約』でもするか?それなら良いだろ?」


「せ、『誓約』って!?そ、そこまでしなくて良いです!信じますから!!」


慌てて止めに入ってきた。うん。やっぱり最初から『誓約』持ち出せば解決だったな。しかし‥‥やっぱり『誓約』凄いな。使ったことないけど。



誓約‥‥本来は、商売などの契約の際、お互いの魔力を交換し、契約内容をお互いに読み上げる事で成立する。という使い方が一般的。この約束を破ると、『神の新兵』という謎の天使のような物が頭上から現れ、無理やり奴隷にするという。なので、滅多な事ではこの『誓約』は使われず、ましてや、元々奴隷の身分の者と『誓約』を交わすことは、まず有り得ない。

(ちなみに、『神の新兵』は天使になる前の存在)

女神←天使←神の新兵 という順番に上がっていく。まぁ、殆どは神の新兵の段階で消滅する。



「で?どうするんだ?ついて来るならサッサと決めろ。血の匂いで他の魔物が寄ってくるだろうからな。直ぐ離れたい」


「え?他の魔物‥‥あっ!?そういえば、ゴブリンとオークは!?」


はぁ~‥‥コイツ、大丈夫かよ?


「もう全部殺したよ。だからこんなにのんびりしてるんだろ?」


「えっ!?あの数を全部ですか!?すごい‥‥」


「‥‥まぁ、いいから行くぞ。お前の『元』主人はどれだ?」


「えっ?えっと‥‥この方です」


‥‥なんか、言っちゃ悪いけど、まさに奴隷商人。って感じの奴だな。小太りで、真っ黒の眼鏡掛けてて。いや、俺の勝手な想像なんだが。


「そういえばさ、お前一人なのか?コイツ、奴隷商人だろ?馬車も一つしかないし。さっきは知らなかったからあれだけど、可笑しくね?」


「あ、私一人みたいです。他の奴隷は居なくて。なんか、特別なお客様の所にって‥‥」


ハイ。わかりますよ。厄介事ですね。もうやだ‥‥


「そ、そうか。その『特別』なお客様って誰か分かるか?」


「あ、はい。新しいご主人様に失礼がないようにと、教えて貰いました。えっと‥‥ゴルドー子爵様です」


‥‥このまま置いていこうかな。

想像以上だな‥‥思ってた以上の爆弾拾っちゃったなぁ。


「‥‥取りあえず、奴隷商のある都市に行こう。キミ達が行こうとしてた都市ってどこだ?」


「『商業都市ネルダス』です。そこで、ゴルドー子爵様が商談をしているらしく、私はそこで引き渡される予定でした」


商談?それも、当主自らが出る程の?‥‥なんか嫌な予感がするなぁ。地味な嫌がらせが好きそうな顔だったし、なんか怖いな。


「よし、じゃあ俺達は商業都市じゃなくて、元ゲノム帝国。ゴルドーの領地に先回りするか。商業都市は行ったことないから何も分からないし。(ゲノム帝国も攻め滅ぼしに行ったことしかないし)」


「は、はい。‥‥あのぅ、さっきから気になって居たのですけど、アナタは私と同じでは無いんですか?」


「えっ?‥‥あぁ。俺は目が黒いけど、『災厄の一族』の末裔じゃないよ。その証拠に、この世界には居ないだろ?黒髪なんて」


「あっ、確かに‥‥私達の特徴って言えば、黒目に中途半端に長い耳ですもんね。黒髪なんて居る筈が‥‥あれっ!?じゃあアナタはなんてすか!?」


「勇者です。『元』が付くけどな」


目が点になっている。奴隷でも『勇者』は知ってたようだ。顔が赤くなって青くなって、緑になって青くなって。と、面白いように変わってる。目は点のまま。


「落ち着け。そこら辺の話は後でな。まずはゴルドー子爵領を目指すぞ」


「は、はいぃ‥‥‥」




         ーーーーーーーーーー




「‥‥まぁ、此処まで来れば血の匂いも大丈夫だろ。今日はもう遅いし、此処で休むぞ」


「はい。わかりました」


「じゃ、ちょっと離れててくれ」


「?は、はぁ‥‥」


首を傾げながらも、ハルの指示に従う。すると、いきなり大きな木の家が飛び出してきた。


「‥‥よし。入るぞ」


「‥‥‥ハッ!?な、何ですかこれ!?家?なんで?どうなってるんですか!?」


「あぁ。まぁ、どこでも設置できる家だよ。ドワーフとエルフが共同で作ってくれたんだ。木で出来てるけど、色んな所に魔法石が仕込まれてるから、魔物が来ても自動で対処してくれる。だからまぁ、安心して入ってよ」


以前、ハルが召喚された際にエルフの国に行ったとき、丁度ドワーフの代表が話し合いで来ていて、色々と問題を解決した後、お礼として作って貰ったものだ。とはいえ、当時のメンバーだと多すぎて全員が入らない為使われず、今回も定員オーバーで使っていなかった。つまり、これもおやっさんが作った短剣同様に、アイテムボックスの中で埃を被っていた品なのである。


「は、はぁ‥‥」


恐る恐る。といった感じに入っていく。

中は、今まで見たことがない程の豪華さだった。思わず口を開けてキョロキョロしてしまう。


「‥‥部屋の中を見るのはいいけど、そろそろ話し始めないか?」


「あっ!?す、すいません!!」


「いや、いいんだ。じゃあお茶を準備してくるから、少し待っててくれ」


「あっ‥‥」


私がやります。と、言おうとしたのだが、自分はこの家(?)の事をなにも知らないから手伝いようがない。むしろ、邪魔になってしまうと思い、『元』は付くが、『勇者』と名乗った少年に任せる事にした。

‥‥生まれて初めてみた豪華さに、そわそわしながら。


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