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バーーーカ!!!


ハルが出て行って、少した後、誰かは分からないが一人、席を立ち部屋へと戻っていく。それに続いて一人、また一人と部屋へと戻っていった。殆どが部屋に戻って、部屋の灯りが消えた頃残っていたのは、雫とタツ、皐月の3人だった。


「‥‥ねぇ、どうする?」


ポツリ、と呟くように問いかけてきたのは皐月だった。頭は下げたままだ。


「どうするって‥‥」


「明日、ハルに会いに行くのかどうかって事。‥‥‥私は、会いに行こうと思ってる。それで、そのままハルについて行く」


「なっ!?皐月、本気なの!?だってハルは‥‥‥」


人殺し。こう言うつもりだったのに、詰まってしまった。自分の口で言うのが怖くなったのだ。


「人殺し?‥‥けど、あの時クレアさんや、騎士団長様。他の騎士団の人達も殺してたんだよね?私は気絶してて直接手に掛けてる所は見てないけど‥‥それでも、血の匂いは今でも鼻に付いて離れないし、目を閉じれば視界の端に血と、死体が見える」


雫が躊躇った一言を、簡単に口にしてしまう皐月に、ハルへの『恐怖』をぶつける。


「じゃあなんで、付いて行くなんて言えるの?怖いでしょう?さっき、何も話せなかったでしょう!?」


「だからだよ。私達が知らない間に、ハルは遠くに行っちゃった。これ以上遠くに行って欲しくない。このまま何もせずに全部ハルに任せていたら、もうハルとは一生ギクシャクしたままになる。ううん、もう会わなくなるかもしれない。私は、そんなのは嫌だ。だから、少しでも元の私達の関係に戻るように、私はハルについて行くよ」


皐月は、怖いのに、それでもハルと一緒に行くことを選んでる。強いなぁ皐月は‥‥‥私には、出来ないよ。


「駄目だ!アイツは、もう俺達の知ってるハルじゃ無いんだよ!!アイツが自分で言ってただろ!?もう元の関係には戻れないって!!無理なんだよ!!!」


今まで黙っていたタツが、机を叩いて立ち上がりながら叫ぶ。今までのを全部吐き出すように、叫び続ける。


「俺達とアイツは、もう違うんだよ!アイツは人を殺しても何とも思わないぐらいに壊れちまってる!!一緒に行っても、アイツとの違いを実感するだけで、良いことなんて何も無い!むしろ、悪いことの方が多いだろ!?これからも今日みたいなことがあるかも知れないんだ!アイツといると、命が幾つあっても足りねーよ!!!」


「確かに、今日みたいに危ないことがいっぱいあると思う。けど、タツはそれで良いの?ハルを怖がって、そのまま離れていって良いの?私は嫌だよ。それに、この世界でああいう命のやり取りは絶対にある。ハルと居なくてもそれは同じだよ。明後日から迷宮に潜ったら、必ず魔物を殺すんだよ?もしかして、そんな覚悟も無く今まで訓練してきたの?」


「違う!魔物と人間は違うだろ!?」


「ううん同じだよ。同じこの世界で生まれた命。魔物も人間も関係無い」


「‥‥っ!お前は、寝てて見てないから言えるんだよ!!アイツの人を殺すときの顔を!!見れば分かる。どれだけ冷たい目をしていたのか。お前も、『あのハル』を見れば同じ事を思うよ!!『あぁ。俺達の知ってるハルは居なくて、もう分かり合えない』って!!!」


「そんな事ない!タツ、どうしちゃったの!?おかしいよ!!前のタツはそんな事言わなかった‥‥ハルを、一番に信じてたのはタツでしょ!?いつからハルを遠ざけるようになっちゃったの!?」


「俺を、俺達を遠ざけてるのはアイツだろ!?今のハルにとって俺達はどうでも良い存在なんだよ!!お前はどうか知らないけど、少なくとも俺は、もうアイツを『親友』としては見れな‥‥」


パンッ!と、良い音がする。一瞬、なんの音か分からなかったタツだが、直ぐに頬を叩かれたのだとわかった。誰が叩いたのかも。


「なんだよ、雫‥‥‥」


「‥‥確かに、私は、ハルを怖がってる。タツと同じ考えなのも否定はしない。けど‥‥けどね?タツ、それは駄目。ハルを、『親友』じゃないなんて言わないで。絶対に」


「‥‥雫、悪かった」


「わかれば良いわよ」


「お前ら、うるせぇ‥‥‥」


タツと雫の怒鳴り声でクラスメート全員が起きてきていた。雫とタツは、少し申し訳無さそうにした後、


「皆、ハルの事。ちゃんと話し合いましょう」




           ーーーーーーーーーー




朝、昨日の夜、起きてきたクラスメート全員で散々話し合った結果、


『とりあえず、ハルを逃がさない。後のことは後で考える!!』


という結論になった。

まだハルは怖いし、人を殺す所を見てしまった以上一緒には居られないと言う奴も居たが、それに関しては別の宿を用意するとクレアが言ってくれた。まぁ、「戻ってこい。怖くないよー」なんて言っても信じないと思うので、取りあえず一緒に行くと嘘を付くことになったのだが‥‥‥


「まさか、『行くのを辞める』とまで言うとはね‥‥ナギちゃん流石ね」


今は正午。詰め所で色々とあった後、ナギの登場によりハルは一瞬で考えを変え、ザラムで観光をしていた。左手にしっかりとナギの右手を掴み、二人とも満面の笑み。他の人からみたら少し若い親子のようだ。


「まだ気を抜いたらダメですよ。ハルさんは気が緩んだ次の瞬間にはもう厄介事を持ってきますからね」


元付き人であるクレアが、騎士団長の手伝いで抜ける前に雫にコッソリと言った言葉だ。その言葉には、今までどれだけハルに振り回されてきたのか感じ取るには十分な重みがあった。


「ナギ、どっか行きたい所あるか?」


「んっとね‥‥‥」 


休日の親子のような会話をする二人にほんわかしながら、ハルのあの冷たい目を思い出し身震いする四人。改めて気を引き締め、観光という名の監視を続けた。



一日たっぷりと遊び、はしゃぎ疲れたナギを寝かせてそのまま休むと言って部屋に戻ったハル。それを聞いて安心した雫達は食事を再開する。クラスメートも全員食堂に居たので、そのまま今後について話し合いを始めた。昨日、同じ宿には居れないと言っていた奴らも居る。まだ宿が用意出来ていないからだ。直ぐに用意出来るとは思ってなかったし、自分達の我が儘と言うことも理解しているので誰からも文句は出ていなかった。


「取りあえず、此処に残すことは成功したけど‥‥というか、簡単すぎたわね」


「あぁ。まさか、ナギの一言で延期じゃなくて中止にするとは‥‥‥どんだけ親バカになったんだ?アイツ」


「まぁ、それは良いとして‥‥これからどうすんだ?まさか、何も考えてないって言わないよな。雫?」


「当たり前でしょ‥‥って言いたい所だけど、私もハルの前で震えない様にするのが精一杯よ。‥‥私も怖いのよ。だから、皐月の意見を聞こうかなって」


「えっ、私!?」


雫の横でチビチビと飲み物を飲んでいた皐月は、突然の事に目を見開いている。飲み物が入ったコップを落としかけていた。


「‥‥っとと、な、なんで私なの?」


「なんでって、今の所ハルを怖がってないのは皐月だけだし、付いて行くとか言ったのも皐月でしょ?これからのこと、考えてると思ったんだけど‥‥‥」


「そういうのは雫の担当だったじゃない‥‥私は、ハルに付いて行けばこれ以上離れる事は無いと思って。とりあえず付いて行こうかなぁって」


「なるほど。つまり付いて行った後の事は考えて無かったと」


「うん!それに、『後のことは後で考える』って昨日結論出たし」


思わず頭を抱えた後、直ぐに思考を切り替える。


さて、どうする‥‥?何をするべきか、何も考えてない。こんな事を言ったら、皆を不安にさせる。かと言って、何も言わないのはそれはそれで問題だ。


「えっと‥‥‥明日は朝早くに迷宮入りだから、今日は寝ましょう?初めての実戦だから、大変だと思うし」


全員が、『何も考えてないな‥‥‥』というのを感じ取ったが、何も言わないことにした。確かに雫の言うとおり、明日は朝早くに出ると聞いていたし、初めて魔物を狩ることになるのだ。それに、迷宮にはハルも付いて来る。心の準備が必要だった。


「じゃあ、今日はこれで解散という事で。おやすみなさい」


雫の言葉で全員部屋に戻っていく。全員が席から立ったのを確認して、雫も席を立った。


「あれ、キナさんは戻らないの?」


「えぇ、ここの片付けをしてから」


「私も手伝いますよ」


「いえ、此処は私一人で十分です。明日はさっき言っていたように初めての実戦です。早く休んで下さい」


キナの言葉に甘え、部屋へと戻っていく。食堂にはキナが一人残った。一人で黙々とテーブルを片づけていく。


「さて、ハルさんが動くとしたらそろそろですね。どこに隠れましょうか?」



それから二時間後、ハルはキナを気絶させ、宿を飛び出して行った。


「ハルのバーーーカ!!!」


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