言ったら殺します
すいません。データが吹っ飛んで発狂してました!
これからはこの様なことがないようにしますので、どうぞよろしくお願い致します。
「さぁ、今日から『迷宮都市ザラム』へと出発よ!皆、準備は出来てるわね!?」
昨日の落ち込み具合が嘘のように元気な雫が、俺や騎士団長の仕事を奪っている。‥‥‥俺達、道案内だけでいいのかな?
今回の迷宮都市の滞在期間は1ヶ月。メンバーはクラスメートに騎士団から十数名。ハルとナギ、そしてその付き人であるクレアとキナだ。今回、『元勇者パーティー』の奴等は来ない。最初はティナが同伴する予定だったのだが、運悪く『聖女』として他国に赴く用が出来てしまったので、今回は別行動。他の奴等はなにやらやることがあるそうだ。まぁ、単に迷宮都市まで行くのが面倒くさいんだろう。行くのに一週間掛かるからなぁ‥‥‥
「おい、そこ!煩いぞ、静かにしろ!!」
「センセー、なんか機嫌悪くない?」
先生、滅茶苦茶久し振りに見たな。どこにいたんだ?
少し五月蝿いので、黙らせようかと歩き出す前に、先生が注意してくれた。いやぁ久し振りに姿見たし、先生が『先生』してるところも久し振りだなぁ。
まぁ、先生は置いとこう。目が合ったら何言われるか分からないからな。
「さて、騎士団長。準備はいいか?」
「あぁ、問題ない。いつでも出発出来る。殿下達に挨拶は済ませたか?」
「いや、別にいらないし、それにアイツら仕事してるから‥‥‥」
「そうか?‥‥‥まぁ、いい。馬車に乗り込んでおけ、全員乗ったら、出発だ」
そう言って最終確認のためその場を離れていく。他の皆は訓練に付き合って貰った騎士団員と挨拶をしていた。が、ハルは此処一週間クラスメートとは別行動をしていたし、出歩いていたのは城下の方なので挨拶をする相手も居らず、寂しく一人で馬車に乗り込む。
ちくしょう、寂しくなんてないぞ‥‥‥
一人寂しく馬車に乗って、十分経っても全く動き出さず、退屈で本気寝を始めたハル。そんなハルに呆れていたのが同じ馬車に乗っていたナギとクレア、それにキナだった。ちなみに馬車の御者は騎士団長だ。
最初はクレアとキナのどちらかが御者をやると言っていたのだが、騎士団長が自分がやると言って聞かず、話は平行線だった。出発が遅れたのは七割がこの話し合いのせいだ。まぁ、その負い目もあるので、通常だったら叩き起こす所を、我慢して眠らせてやっている。
その優しさの所為で、『勇者一行の出発の時、先代の勇者様は顔を出さなかったが、何かあったのか?』という事を聞きに城に大勢の人が集まり、最後にはユリウス自らが出て説明をする事になるのだが、この時、城で公務を終え、のんびりしていたユリウスが知るのは、もう少し後になる。
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「くぁ‥‥‥あれ?何でもう馬車が動いてんだ?いつの間に出発したんだよ」
「やっと起きましたね?全く、最近まともに寝てなかったんじゃないですか?爆睡でしたよ」
そう言って呆れた顔をしながら飲み物を渡してくれたのはクレアだった。他の二人は寄り添う様にして寝息を立てている。
「サンキュ‥‥‥いやー、最近忙しかったからなぁ。昨日の夜も寝付いたの明け方だったし‥‥‥」
「全く、夜中に何をやってるんですか?今日出ると決めたのはハルさんでしょう」
「いやー、年頃の男子が夜中にする事と言ったら『アレ』しかないだろ?」
「なっ!?あ、『アレ』って‥‥‥」
ニヤリと笑ってクレアの方を見る。‥‥‥うん。前からかった時と何も変わらない反応してくれるな。コイツはまだ男子中学生並の頭なのか?
「『アレ』は『アレ』だよ‥‥‥わかるだろ?」
「い、いえっ!わかりません。わりませんからね!?」
「ほぉ~?じゃあ、せーので言おうか」
「わ、わからないと言ってるでしょう!?せーのでって何言えばいいんですか!?」
「いやいや、わかってるんだろ?ほら、せーの‥‥‥」
「ちょ!?まっ‥‥‥っ!!」
「オ「剣の手入れ!!」オナッ‥‥‥えっ?」
ニタァ、と悪い顔でクレアをみる勇者。元付き人は顔を真っ赤を通り越して青くしている。
うわー、流石にこんな事言うとは思わなかった‥‥‥どうする!?対応を間違ったら終わる‥‥‥っ!!
「あ、あー‥‥思ってたよりもムッツリに育ってて、勇者様はビックビィッ!?」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥良いですか?この事は、二人には内緒です。言ったら殺します」
顔は青から赤に戻ったのに、纏ってる空気は青色の冷たい空気だった。手、離してくれないかな?上手く息が出来ない‥‥‥
「はい」
「んぅ?何か合ったんですか?」
「ふぁ‥‥パパァ、おあよー‥‥‥」
「お、おう!おはよう!!」
た、助かったー!
なにも知らないナギ達が起きたので、素早く手を引いてくれた。「‥‥チッ」なんて舌打ちしてたが、まぁ大丈夫だろう。
そんなこんなであっという間に太陽は落ちて、晩飯。
俺の晩飯は、皆よりも明らかに少なかった。最近こんなのばっかだな‥‥‥
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寝ている間に王都を出て一週間。明日にはザラムに着く。と言うところまでハル達は来ていた。
今馬車の中にいるのは、ハルとクレアだけである。なんで二人きりなのかと言うと、
『パパといるのあきたから、しずくおねえちゃんのところいく!』
と、ハルの心を折って今朝出発する前に雫達の乗る馬車へと行ってしまった。キナは、
『色々と忙しく、二人きりになる時間が無かったでしょう?ナギは私が見ときますので、クレアお姉様はハルさんとゆっくりとしてください。五年間の積もる話も有るでしょうから』
と、今のハルには全く嬉しくない気遣いをた。クレアはまだ初日の事を怒っているらしく、食事の準備の際は自分で皿に盛る事にしている。
くっそ、なんで俺はナギに『飽きた』って言われた後の事よく覚えて無いんだ!?キナがクレアと今微妙なの、お前なら分かってる筈だろう!?俺をどうしたいんだアイツは!!
キナは、父からの依頼である、『女を失った悲しみをどうにかしてこい」という無茶難題をどうにかしようとしていた。
だが、自分が包み込んで癒やす。と言うのは無理そうだったので、だったら昔の知り合いなら出来るのではないか?と考え自分の憧れであるクレアに白羽の矢を建てた。
キナはクレアを何でもできるスーパーエリートな存在と見てる節があるので、この依頼も何とかしてくれるだろうとクレアのバックアップをする事に決めた。
つまり、面倒な事をクレアに任せ、自分は少し手伝うという。クズな考えに至ったのである。
だが、キナは気付いていなかった。今のハルとクレアは初日の出来事のせいでギクシャクしており、女を失った悲しみをどうこうする前に、クレアのムッツリをどうにかしないといけないのだが、そんな事は寝てたキナに解るわけもなく。自分達が戻ったらどんな風になっているのかと期待に胸を膨らませていた。
そしてハルもそんな事は知らず、只のキナの嫌がらせだと思っていた。
アイツ‥‥マジで覚えてろよ。
キナは良かれと思ってやったのに、ハルには恨まれてしまった。いや、頼まれたのはキナなのだから、自分で動けばこんな事にはならなかったのだが‥‥‥
「‥‥‥えっと、ハルさん。少し聞いておきたい事があるのですが」
馬車が動き始めて三十分。一言も言葉を発していなかったのに突然話しかけてくるから、驚いてビクッ!と身体が震えてしまった。
「えっ!?あ、いや、‥‥‥んんっ!なんだ?」
「は、はい。えっとですね‥‥」
やばい!身体が震えちまった。だっていきなり話しかけてくるんだから、しょうがないよな!!
ビックリしました‥‥‥私はもう余り怒っていないのですが‥‥というか、怒りよりもハルさんにムッツリと思われた方が問題で‥‥‥
と、取りあえず、何も無かったかのように振る舞おう!!
と、二人は同じことを思って、ニッコリと笑う。
「そ、それで?聴きたいことって?」
「は、はい。えっと‥‥ハルさんは、こちらには来たく無かったんですよね?」
何を突然。そう思って逆にハルが聞いてみたかったが、目を見て口を噤む。昔、ハルが王都をでる前に同じ目をしていたのを思い出したからだ。この目をしているクレアには、疑問を口にせず本当の事を答えなければ。あの時、それで失敗して痛い目に合ったからな。
「あぁ。コッチに戻ってくるつもりは無かったよ。というか、戻りたくなかった」
「そう‥‥‥ですよね。なら、なんでこっちに長くいるような事をしてるんですか?」
「え‥‥‥どういうことだ?」
「ハルさんは、私たちに雫達を任せてフィーと一緒に各国を回ってもいいんです。というか、『力』を増やす為にそうするべきなんです。なのにそれをしない。それどころか、フィーをレラ様に預け、挙げ句雫達の遠征について来る。普通じゃないと自分で思わないんですか?」
‥‥‥たしかに、俺のやってる事はおかしいのかもしれない。言われてわかった。けど、なんでこんな事を?
「わからないみたいですね。いいですか、ハルさんは‥‥‥」
クレアが続けようとしたそのとき、いきなり後方から爆発音がした。後ろの方には、ナギの乗っている馬車がある。
ハルとクレアは次の瞬間、馬車を飛び出していた。
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外は酷い光景だった。盗賊と思われる男達が馬車を囲んで、襲おうとしている。幸い、それぞれの馬車には御者として騎士団の騎士が二人ずつ乗っていたので、被害は出ていないようだ。しかし、数が多過ぎる。いくらなんでもこの人数はおかしい。誰かの命令で動いているのだろう。しかし誰が‥‥‥
色々と考えたかったが、そんな時間はないらしい。ハル達の周りにも群がって来る。
「お前達、ナギの所に迎え!此処は私が片付けておく!!」
「任せた!!」
馬を宥めて御者台から降りて来た騎士団長に向かって叫びながら、道を塞ぐ男の頭を斬る。
「クレア、他のヤバそうな所の応援に行け!ナギは俺が行く!!」
「分かりました。ご武運を!!」
盗賊の腕を叩き付けるようにして斬り落としたクレアが、叫んでそのまま剣を持ち上げる様に下から上へと斬り上げ、走り去る。それを確認し、ハルも走り出した。




