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おいしかったよ!!


再び怒りがこみ上げてきたおやっさんにボコボコにされ、フラフラになりながら部屋に戻る。おやっさんは仕事があるとかでそのまま帰って行った。


「くっそ。あのジジィ、全く衰えてねぇじゃねぇか」


先ほど傷を完全に治して貰ったのに、なんで一時間もしないうちにこんなにボロボロになっているんだろう?と思いながら、聖魔法を身体にかけながら愚痴る。そんなハルを苦笑いで見ながら、水が入ったグラスを傾ける。


「まぁ、あの人が衰えるのは、暫く先だろうな。あの年で「魔導剣』なんてものを作っているからなぁ。ホント、あと数十年と生きそうだな」


そう言って笑いながら席を立つ。


「なんだよ、もう行くのか?ボロボロの親友をこのままに?」


「お前がボロボロだろうと、僕には仕事があるんだ。それに、お前の腕の事もある」


それを聞いて、ハッと思い出したハルは、歯軋りをしながら


「そうだよ、あのクソジジィ。俺は片腕だってのに容赦なく‥‥」


「お前の腕が取れてくっつく。何てことは前もあったろう?だから問題無いとでも思ったんじゃないか?‥‥‥では、そろそろ行くぞ」


「あ、ちょっと‥‥」


引き止めようとするのを無視して、そのまま部屋を出て行ってしまう。


「この世界の奴等といい、クラスの奴もそうだけど、俺の周りには俺の怪我の心配をしてくれる人は殆どいないな。腕が無いのを問題ないで済ませるなよ」


ブツブツと文句を言うこと三十分。漸く満足したハルは立ち上がり、また地下の訓練所へと戻る‥‥何往復してるんだろう?という疑問を抱えながら。




     ーーーーーーーーーーー




今日ちょっと動き過ぎじゃね?俺一応さっきまで瀕死の体だったよね?なんでこんな忙しいの?なんで事をブツブツ言いながら、地下の結界を通り抜け、訓練所へと入る。


「あっ、戻ってきたんですか?皆さん凄いですね!もう皆五個は軽く出せますよ!!」


ほー、そりゃ確かに凄いのかなぁ?俺の時ってどんなだったっけ?‥‥思いだせねぇ。


訓練所を目一杯に使って広がり、皆離れて練習をしてるみたいだな。別に個人でやる必要無いんだけどな?


「なんで全員バラバラなんだよ?別に固まってやっても良いんだぞ?」


「それだとぶつかって危ないでしょ」


そう言って近付いてきたのは、頭の上にハルが指定した三十個は軽く越えてる量の『風球』を浮かばせた雫だった。


「おぉ。速いな雫。俺より才能あるんじゃね?」


「バカ言わないで。クレアさんに聞いたのよ?あんたコレ、五分も掛からなかったって。どんだけ規格外なのよ‥‥皐月とタツもクリアしてるわ。次に行って頂戴」


あれ?そんなに速かったかな?全く記憶にないなぁ。取り敢えず魔法はある程度使えるようになったら、暇なときに練習。ぐらいだったからなぁ。


「あんまり覚えてない。おまえ等もおまえ等でおかしいと思うぞ?まぁいいや。じゃできた奴からクレアにみてもらって。オーケーだったら中庭に来い‥‥って、もうこんな時間か。先に昼飯にしよう」


そのままサッサと訓練所を出る‥‥前にナギの所へと走る。今日は全く話してないしな。パパは寂しいですよ。


「ナギ。昼飯行こうぜ?パパお腹減っちゃってさ」


お腹をさすりながらナギの横へと行く。すると、


「もうみんなでたべたから、パパはひとりでたべてきて!おいしかったよ!!」


ピシッと固まり、ギギギという効果音と共に雫の方を見る‥‥逸らされた。そのまま訓練所を見渡すが、全員目を逸らすか、練習に集中してて何も聞こえないし見てないよ?みたいな顔でハルを無視する。


「‥‥‥‥‥‥行ってきます」


この場にいる全員が昼食を終えてるとわかり、トボトボと訓練所を出て行く。それを見ていた雫達は、少し可哀想だなぁ。と思いながらも、此方に来てからの自分達の扱い(ハルは殆ど気絶。または外出。知らない人ばかりで放置され、クラスメートが英雄扱いという普通では有り得ない世界で過ごしている)を思い出し、偶には良いだろう。と考えハルを見送った。




     ーーーーーーーーーーー




ハルが一人寂しく昼食を終え、地下に戻らず中庭へと向かう。すると、初級魔法を三十個作った雫にタツ。皐月に、中級まで会得している蓮見がいた。


「あ、ハル遅いよー!待ちくたびれた!!」


「悪いな皐月‥‥一人で食べる飯が、喉を通らなかったんだよ」


そう言うと、「そ、そっか、ゴメンね‥‥」と言いながら半歩下がって、縮こまる。


「別にご飯ぐらい一人で食べなさいよ。それより、早く何やるのか教えて」


遠い目をしていたハルをバッサリと切り捨て、先を促してくる。悪魔だろコイツ?


「まぁまぁ雫、少し休もうぜ?ハルは食べたばっかだしさ、それに聞きたいことがあるんだよな」

「聞きたいこと?」


雫を抑えて、少し笑いを堪えてるような顔でこっちをみてくる。


「どうしたんたよタツ?答えられる範囲なら答えるけど‥‥」


「あぁ。じゃあまずは‥‥‥その格好はなんだ?」


まずはって、何個もあるのかよ?まぁ良いけどさ。


「これか?これはこの前まで‥‥いや、こう言った方がいいのか?俺が勇者やってた頃に使ってた装備だよ。聖剣は無くなったけど。今は別のがあるだろ?」


腰に挿しているのは、先ほどおやっさんから貰った『硬化』を定着させている『魔導剣』だ。どっかおかしいのかな?この格好。


「なんか、コスプレみたい‥‥‥」


タツがそう言うと、他の三人もたまらずに吹き出す。


「ちょ、ちょっとタツ!!」


「無視してたのに!なんで言っちゃうのー!?」


「もう駄目だ。耐えらんねーよ!その格好はヤバい!!」


コイツら‥‥全国のコスプレイヤーと俺とこの世界の人達に謝りやがれ!!


「いや、別にコスプレ自体がおかしいんじゃなくて‥‥」


「ハルが着てるって事が問題なのよ」


笑いながら訂正を入れてくる蓮見と雫。笑いすぎだろ‥‥‥皐月、おまえ声にならないほど面白いのか?


「はーっ、ヤバかった‥‥」


「タツ。それにお前らな、言っとくけど、明日か明後日には装備渡して課題クリアした奴は騎士団の連中と実践形式の訓練だからな?」


「はっ!?早くないか、それ?」


知らん。実践あるのみだ。まだ騎士団長に何も説明していないのに勝手に決めるハル。最悪である。


「ほら、いいから。他にもなんかあるんじゃないか?タツ」


「え?あ、あぁ。お前の腕の事だよ。まさか一生そのままって事は‥‥‥」


過呼吸になりかけていた皐月も、なんとかこっちに戻ってきて真面目な顔をする。


「大丈夫だよ。前回も腕消し飛んだけど、天使が元に戻しといてくれたからな。流石に死んだら終わりだろうけど」


それを聞いて安心した‥‥と思ったら、前回って所に雫が飛び付いた。


「前回もって、あんたコレで腕無くなるの二度目なの!?」


「いや?千切れたのも合わせると、三度目」


「千切れた!?‥‥まぁ、深くは聞かないわ」


三度目だと聞いて、また何か言ってくるかなー。と思ったが、ハルの目をみてそれを止めた。


「よし。もういいよな?それじゃ始めるぞ‥‥‥」


戸惑い気味に頷くタツ。まだ皐月と蓮見は驚いているのか表情は固まったままだけど、まぁいいか。

ハルは皐月と蓮見を放って、次にやることの説明を始める。


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