パパで良いよ
「どういうことか説明しろ。ハル!」
「ま、待てよユリウス。俺も何が何だか‥‥‥」
ナギという少女が『パパ』と言う爆弾を落としてからすぐ、真っ先に硬直から抜け出したユリウスが、ナギに少し待っているよう頼み、返事を聞かずにハルとティナ、床に寝っ転がっていたセシリアをひっつかんで部屋を出た。
部屋を出てすぐの所で、ハルはユリウスと、硬直から抜け出したティナに問い詰められていた。
「そうよ、どういうことよハル!お姉ちゃん以外にも大事な女の子いたの!?」
「いねーよ!俺にはシルしか居ないって!!」
「じゃあなんでいきなりパパなんて呼ばれるの!?おかしいでしょ!というか、言われるままに着いてきたけど、あの子はなんなの!?」
「そうだ!此方の世界には居ない黒髪に黒眼の少女!!お前の世界の‥‥まさか、向こうでの子供!?」
何言ってんだコイツ!?向こうの世界での子供だったら俺、10歳前後の時にはパパだぞ!?
「アホかお前は!?」
「アホとはなんだ!黒髪に黒眼なんて、それしか考えられないだろう!?」
「別に俺の子供って決まった訳じゃないだろ!?」
「パパと呼ばれてる時点で、お前の子供だろう!!」
言い返せない‥‥てか、ホントに誰なんだよ。あんな子見たこと無いぞ?
「あのぉ‥‥パパ?だよね?」
いきなり扉が開いて、少女が顔をみせる‥‥なんで疑問系?
「なんか、ここにくるまでのこどがおもいだせなくて‥‥でも、なんとなく、さっきおはなししたときに、パパだなぁって、おもって‥‥‥ちがったら、ごめんなさい」
記憶喪失で、しかも俺がパパに見えた?
まだ何か言いたそうだったが、今のを聞いて押し黙るユリウスとティナ。セシリアはまだ起きてこない。
「えっと、何も思い出せないのかい?」
「うん。パ‥‥お兄さんと、セシリアお姉ちゃんのかおをみたのがさいしょ」
「‥‥‥そうか」
どういう事だよ。俺がパパに見えるって‥‥‥
色々と聞きたいことはあったが、不安そうな、そして怯えてるような顔を見て聞くのを止めた。
まぁ、取りあえず‥‥
「‥‥パパで良いよ」
「えっ‥‥‥いいの?」
「あぁ。お兄ちゃんって、呼びにくそうだからな。それに、これから一緒に過ごすことになるんだ。呼びやすい方がいいだろ?」
「おいっ一緒に過ごすって、どういう‥‥」
ユリウスが突っかかってくる。まぁ、当然だな。俺には色々とやらなけゃ行けないことがあるしな。けど‥‥
「ちょっと黙っとけ‥‥どうかな?」
「うんっ!パパ!!」
嬉しそうな顔で飛びついてくる。
せめて、この子の記憶が戻って、元の世界に帰すことが出来るまで、俺はこの子の父親でいよう。
そんな想いを抱きながら、優しく抱きしめ返す。すると、嬉しそうに頬をスリ寄せてくる。そんな様子を、呆然としながら見る二人。
「うぅ、頭痛い‥‥‥なにこれ?」
頭をさすりながら起きてくるセシリア。遅すぎだろ。全部終わったぞ‥‥‥
ーーーーーーーーーーー
やっと安心する事が出来たのか、ハルの腕の中で眠ってしまったナギ。最初に寝かしていた部屋にもう一度寝かせ、ソッと扉を閉めて部屋を出る四人。子供達は外で遊ぶように言って、もう一度話し始める。そこで、ユリウスとティナには女神に聞いたことを話した。
「ほう。つまり、お前をパパと呼んだあの少女がこちらの世界に来てしまったのは、お前のせいだと。そういう事か」
「いや、間違ってないけどな?そもそも、おまえ等が俺達を喚ばなきゃこんな事にはならなかったんだからな?」
「しょうがなかろう。魔王城跡地のあの異変。僕達だけではどうしようも無いからな』
そうなんだろうけどさ‥‥まぁいいや。
「話し合いたいのはこんな事じゃ無いんだよ‥‥お前ら、あの子の事、何か思わないか?」
「何かって?普通にいい子よ。ハルよりしっかりしてるし」
俺よりって、酷いな、ティナは。泣きそうだよ。
「そこだよ。あの子、しっかりし過ぎてないか?」
「は?しっかりしてるのは良いことだろう?あまり気にかける必要が無くなるしな。僕達にはやるべきことがある。そちらに時間が割けるのは喜ぶ事で、不信に思うような事ではあるまい?」
「それでも限度ってあるだろ?普通、いきなり知らない所に来て、記憶も無く、スンナリ出たのは名前だろ?普通、最初は訳も分からずに泣き喚くだろ」
「まぁ、確かに‥‥最初目を覚ましたときも、狼狽えずに直ぐ此処がどこなのかって聞いてきたわね」
この中で唯一目覚めた時に一緒にいたセシリアも、何となくはわかってきたようだ。
「‥‥‥まぁ、今話していても仕方あるまい?取りあえずはお前が面倒を見るのだろう?」
確かに今話していても仕方ないな‥‥まぁ、何とかなるかな。
「あぁ。城にはクラスの奴等もいるし、此処にると髪と目の色で面倒な事になるからな。アイツらの近くに居た方が安全だろ。それに‥‥俺はこの子の『パパ』だからな。出来るだけ側にいてあげたい」
「そうか‥‥わかった。僕とティナは先に戻る。お前の発見と、その子の事を皆に伝えねばならないからな。お前はその子が起きたら一緒に戻ってこい」
「あぁ。よろしく頼む」
「寄り道しないで、真っ直ぐ帰ってくるのよ!まだ雫達のステータス確認も何もやって無いんだから」
そうだった。色々あって忘れてたな‥‥アイツらの事、放置し過ぎだな。
「わかってる。準備しといてくれ」
「では、先に戻る。セシリア、またな」
「はい、殿下‥‥ティナ、待たね」
「うん。今度はちゃんと遊びに来るわ」
そんなやり取りをして、ユリウスとティナはハルが来た道と同じ道から帰って行った。来たとき見てないからどうやって来たのかと思ったが、一本道だからそうやって来る以外に無いから、そりゃ同じ道か。
ーーーーーーーーーーー
「‥‥‥んぅ?」
「お、起きたか。よく眠れたか?」
「‥‥パパ?」
ユリウスとティナが城に戻ってから二時間がすぎた頃、ナギがゆっくりと目を覚ました。
「ハルさん、ちょっと‥‥あら、ナギちゃん!おはよう」
「おあよー、セシリアおねえちゃん」
まだ寝ぼけているのか、『おはよー』が『おあよー』になっている。物凄く可愛い。ヤバい。
「ふふっ、おはよう‥‥ハルさん、城からお迎えが来てます」
「そっか、ちょうどいいな‥‥ナギ、もう出るけど大丈夫か?」
「うん。セシリアお姉ちゃんは、バイバイなんだよね?」
「‥‥えぇ。私も行きたいんだけど。ゴメンね」
本当に悲しそうに言うセシリア。まぁ、当然か。俺がパシられてる間に、仲良くなったみたいだからな。
「まぁ、全然会えないって訳じゃ無いんだ。暫くはこの国にいるし、戻ろうと思えば転移魔法陣使って帰ってこれるからさ」
「はい‥‥」
「じゃ、行こうか」
孤児院を出て、迎えの方を見る。よくこの細い道で馬車が通ったな。つか、あの顔どっかで‥‥
「勇者様、あまり仕事を増やさないで下さいよ‥‥」
「よぉ、クレア。またお前が俺の従者か?」
クレアは五年前も俺が城で訓練していた時の付き人で、気心がしれている‥‥‥同じ歳だったのにもうあっちがお姉さんか。
「いえいえ、もうやりたくありませんよ。あんな仕事」
あんなって酷い。確かに少し迷惑掛けたかなって思うけどさぁ‥‥‥
「毎日のようにぶっ倒れるまで訓練して、泥塗れのアナタを部屋に運んで一息着いて見に行ったらいつの間にか居なくなってて、探しに行って見つけたと思ったら城に戻ってて訓練再開してる?ふざけないで下さい」
少しじゃ無いですね。物凄く迷惑掛けてますね。スイマセンでした。
「じゃ、じゃあなんでお前が来たんだ?」
「アナタと城の中ではパーティーの方々以外で一番親しかったのが一つ、もう一つは私がナギちゃんの付き人に選ばれたからですね」
「はぁっ?お前がナギの付き人!?」
「何か問題でも?」
問題だらけだろっ!?とは、言えなかった‥‥だって怖いんだよ。クレアの「何か問題でも?」って。
「いえ、何もありません」
「はい。では、先に後ろに乗ってて下さい。私はナギちゃんとお話しますので」
「はいはい」
・
・
・
・
・
「なぁ、まだかよ?」
先に乗っててくれと言われてから三十分。ナギとクレアは楽しそうに話している。何故かセシリアも入れて3人で。
「はぁ、少しぐらい待てないんですか?」
「いや、結構待ったよな!もう三十分ぐらいは待ったよ!?」
「パパ、ゴメンなさい‥‥でも、もうちょっとだけ、いい?」
「ドンドン話しなさい」
・
・
・
・
・
あれから一時間が経った‥‥‥流石に限界です。
「なぁ、流石に怒られるからさ、そろそろ‥‥」
ビクビクしながら会話に割り込んでみる。
そんな顔しないでくれよ。俺が悪者みたい‥‥
「そうですね、そろそろ行きますか」
「うん。バイバイ、セシリアお姉ちゃん。またね」
「えぇ、また。近いうちにお城に行きますね。ナギちゃん」
こうして馬車は城へと向かって走り出した。
「何を話してたんだ?」
「えっとねー、パパがおともだちといっしょにおふろのぞいたり、きがえをのぞいたりしてたっておしえてもらった!!」
なんて事を教えてるんだよアイツら!?
「全部本当の事ですし、別に良いでしょう?これを機に、それらは全て辞めて下さいね。ナギの前で良い父親でいたいのなら」
全部辞めよう‥‥良い父親になりたいからな。
「パパってへんたいさんなの?」
‥‥‥本気で辞めよう。