泣いていいですか?
「‥‥‥で?ハル、さっき言っていた女の子とは、どういうことだ?問題発生とか言っていたが、なにがあった?」
「なにそれ?私が来る前になに話していたのよ?」
「教えるからさ、これ手伝ってくんない?片腕だとキツいんだけど‥‥‥」
ハルとユリウス、それにティナは水を汲み、それを持って孤児院へと戻ろうとしていた。いや、水を持っているのはハルだけで、ユリウスとティナは何も持っていない。
「お前が頼まれたのだろう?だったら、最後までやり通せ」
「お前俺が片腕で、しかも怪我がまだ治ってないのわかってる?」
「大丈夫でしょ。だって兄様と喧嘩しようとするぐらい元気なんだもん。これぐらい楽勝よね?」
「そうだけどさ、手伝ってくれても‥‥なんでもないです」
酷い奴らだ。ティナなんて、さっきまで凄い心配してくれてたのに‥‥そうでもないか?睡眠時間が減るとか言ってたし。
そんな事を話していると、直ぐに孤児院の前へと着いてしまった。何も話せてないな‥‥
「着いてしまったぞ。ハルが話さないから」
「しょうがないだろ。此処までそんなに距離無いし、俺が水汲みに行ってる時にお前ら先に歩いてたんだから、余計近くなるっての」
「ほら、もういいから。中に入って、それから話しましょう」
そう言ってティナが扉を開く。子供達はおかずの取り合いに夢中で、ハル達の事は気づかない。
まぁ、囲まれるよりはいいけど‥‥
「おいっ!それ俺のおかず‥‥‥あーっ!!王様の兄ちゃんに、聖女様だ!!!」
気づかれた‥‥ところで、勇者の兄ちゃんが抜けてますよ?忘れちゃったのかな?水汲み頼んできたよね?
あっという間にユリウスとティナは子供達に囲まれ、ワイワイと話している。‥‥‥俺の周りには、一人も来ない。
女の子に話を聞こうとしたらセシリアに戦力外通告をされ、子供達に水を汲んできてと言われパシられ、水を汲みに行ったら途中でユリウスに会って喧嘩を売られ、喧嘩を買ったらティナに怒られ土下座して。二人を連れて戻ってきたらまさかのぼっち。
‥‥泣いていいですか?
泣きそうになりながらソッとその場を離れ、水を置きに行く。そしてそのままセシリアの方へと向かう。セシリアとフィー、そして件の少女のいる机に行くと、話を聞いていると思ったら、少女の髪を二人で弄っていた。
「オイ、セシリア?何やってやがる」
「あれ?ハルさん。もう戻ったんですか?しかも、ティナ達まで連れて。何があったんです?」
此方も見ずに、少女の髪を弄るセシリア。コイツ、今の状況がどれだけ不味いのかわかってないな。‥‥取りあえず一発落とすか。セシリアの頭に拳骨を落とす。鈍い音がして、一緒になって髪を弄っていたフィーと、弄られていた少女が、目を大きくしている。
「いったーい!なにするんですか!?」
「お前、今の状況わかってんのか?ちょっと緊張感持てや」
頭を鷲掴みして、低い声で喋る。その圧力に流石に不味いと思ったのか、それ以上何も言わずにコクコクと頷く。その様子に満足して、フィーの方へと向き直る。が、その場にフィーの姿は無く、突然消えた事に驚いて、呆然としている少女だけが視界に映る。そしてニッコリと微笑み、
「ごめん、ビックリさせちゃったな。少し聞きたいことがあるんだ。最初にいた部屋でお話したいんだけど、大丈夫かな?」
コクコクと頷く少女。
‥‥少しやりすぎたか?
「じゃあ、行こうか。オイ、セシリア。ユリウス達連れてこい」
ダッシュでユリウス達の所まで行くセシリア。こっちもやりすぎたかな?
年長組と少し話して、それからセシリア達は此方に向かって走ってきた。そんなに急がなくても‥‥
「ハルさん!連れて来ました!!」
ーーーーーーーーーーーー
「じゃあまず、セシリア。お前俺が水汲みに行ってる間なに話してた?」
「えっ‥‥ご飯美味しいね。とか、髪の毛サラサラで綺麗だねとかですかね?」
コイツ、肝心のこと何も聞いてないな?
「そ、そんなに怖い顔しないで!ほら、笑って笑って!!」
‥‥一名退場。
思いっきり拳骨を落とし、気絶させる。流石にふざけすぎだな。
「さて、ちょっとお姉さんは役に立たないから、君から聞きたいんだけど、話してくれる?」
「う、うん‥‥」
ヤバい、やり過ぎた。滅茶苦茶怯えてる‥‥
「お、お兄さん怖いよねー。けど、大丈夫だよ?お姉ちゃんに話してくれないかな?まずはお名前、教えてくれる?」
ナイスだぞ。ティナ!お前なら怯えられない筈!!
少女はコクリと頷き話し始める。本当、ティナが居てくれて良かった‥‥
「えっと、ナギはナギっていいます。5歳です」
「ナギちゃんか~。いい名前だね。私はティナって言うの。そこで寝てるお姉ちゃんのお名前は聞いた?」
「うん。あと、さっき消えちゃったお姉ちゃんも」
(消えた?)
(フィーの事だ。アイツ、俺がお仕置きしようとしたら逃げやがった)
(何してるのよ‥‥)
こんな小さな女の子はちゃんと自己紹介出来るのに‥‥情けなくなってくるわね。
「そっかー。じゃあ、此処にいる怖そうなお兄さん達のお名前を教えるね。私の隣にいるのはユリウスって言うのよ。それで、さっき寝てるお姉ちゃんの頭を鷲掴みしてたのは‥‥」
「パパ‥‥だよね?」
「そう。パパ‥‥‥なんて?」
部屋は急に静かになり、寒くなったり、熱くなったりしてる気がした。
寒さはティナと、寝てるはずのセシリアから感じる。これは前にも何度かあるなぁ‥‥あれ?ユリウス、なんかお前の周りだけ妙に熱くない?